2017年09月07日

優性を顕性に:専門用語の言い換え

 朝日新聞の報道による。
 「優性遺伝」「劣性遺伝」という言葉が使われなくなりそうだ。
 誤解や偏見につながりかねなかったり、分かりにくかったりする用語を、日本遺伝学会が改訂。
 用語集としてまとめ、今月中旬、一般向けに発行する。

 遺伝学の訳語として使われてきた「優性」「劣性」という言葉。
「優性」は「顕性」「劣性」は「潜性」と言い換えることになる。
 もともと「優性」「劣性」は、遺伝子の特徴の現れやすさを示すにすぎないが、優れている、劣っているという語感があり、誤解されやすいためだ。
 
 他にも、「バリエーション」の訳語の一つだった「変異」は「多様性」に変更される。
 遺伝情報の多様性が一人一人違う特徴となるという基本的な考え方が伝わるようにするのが目的。
 色の見え方は人によって多様だという認識から「色覚異常」や「色盲」は「色覚多様性」となるらしい。

 中学校で習う遺伝法則。
 優性遺伝、劣性遺伝という言葉は、その概念をイメージしやすく分かりやすい専門用語だった。
 だが、分かりやすいというのは、一方では、誤解しやすいという側面があり、その弊害を除去しようというのが今回の提案なのだろう。
 「けんせい」「せんせい」では、耳で聞いただけでは文字を想起しにくく、非常に分かりにくい。
 この分かりにくいというのがポイントだ。
 ストレートに分からないようにイメージをぼかすことで、感覚的に誤解してしまう恐れを排除している。
 
 一般に使われるようになった専門用語が、後に別の表現に変更される例は多い。
 「精神分裂病」は、いまでは「統合失調症」と言い換えられた。
「禁治産者」は、「成年被後見人」と言い換えられた。
 「色盲」という言葉は、「色覚異常」と言い換えられてきたが、それでも誤解の可能性ありということで、今回、「色覚多様性」への変更が提案されている。
 言葉にまとわりついている価値判断を伴うイメージを、極力そぎ落とそうという工夫の跡が見える。
 
 ビジネス用語では「差別化」という言葉がある。
 他社との違いをはっきりさせ、競争優位を獲得しようとするときに使われる言葉だ。
 だが、この言葉も消滅の危機に瀕したことがあった。
 「差別」という言葉に敏感に反応してしまう人がいるのだ。
 それで、一時、「差別化」を「差異化」に言い換えようという動きが見られた。
 一部の経済紙は、この言い換えに積極的だった。
 ところが、この言い換えは定着することがなかった。

 「差別化」という言葉は、定義のはっきりした学術用語ではないこと。
 「差別化」を使う場面で、人種差別のようないわゆる「差別」を意識させる使い方をする人が存在しないこと。
 「差異化」という言葉を使い始めたことで、「差別化」とは別の概念を持つビジネス用語が登場したと誤解する人が増えたこと。
 コンサルの中には、「差異化」と「差別化」の意味の違いを無理に定義づけして、教えを垂れようとする人まで出てくる始末だった。
 これらの理由で、「差異化」への変更はうまくいかなかった。
 「差別化」への攻撃は、単なる言葉狩りということが誰の目にも明らかだったということだろう。




posted by 平野喜久 at 10:02| 愛知 ☁| Comment(0) | 世事雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする