ゴーン氏の逮捕は、誰も予想しておらず衝撃をもって受け取られた。
直接の容疑は、有価証券報告書の虚偽記載というものだが、ゴーン氏の報酬をめぐる不透明な部分が次々に明るみになるにつれて、底なしの様子を見せている。
ゴーン氏の報酬を実際より少なく報告書に記載していただけではなく、退任後に残りの報酬を受け取る契約にしてあったという。
株主総会では常にゴーン氏の高額報酬が問題にされており、その批判を回避するのが目的のようだ。
さらに、ゴーン氏の親族の高級住宅を日産に提供させたり、ヨットを600万円で購入し、その名義をゴーン氏に書き換えたりということも発覚している。
ゴーン氏の姉をアドバイザー契約を結ばせ、活動実態のないまま報酬を払うようにしていたとも。
ゴーン氏の家族旅行や食事代まで日産に負担させていたという情報まで漏れ出ている。
守銭奴ゴーン氏の姿が浮かび上がってくる。
自分はもっと高額報酬をもらってしかるべきなのに、株主批判でそれがやりにくい。
それで、少しでも日産から搾り取る方法をあれこれ仕組んでいるように見える。
別に、手元資金がなくて住宅やヨットが買えないわけではない。
ゴーン氏にとって、600万円のヨットなど、釣銭でついで買いするような買い物だろう。
しかし、グローバル企業のトップとしては不当に安い報酬しかもらっていないという意識が先に立ち、このようなことに無感覚になっているのかもしれない。
今回の不正発覚は、日産の内部告発によるという。
どの部署の誰による告発かは不明。
だが、有価証券報告書の作成には多くの人物がかかわっており、長年の不正の実態は内部では広く知られていたはず。
それが、いままで不問に付されていたことの方が不思議だ。
さて、今回の逮捕劇は、単なる不正発覚という単純な話ではなさそうだ。
ことはフランス政府も絡んでおり、もっと大きな構図が背景にあるらしい。
日産の無資格審査が発覚し問題になった時、ゴーン氏は一切表に出てこなかった。
三菱自動車との提携の時には、全面的に出てきてアピールしていたのとは対照的だ。
無資格審査の問題で記者会見を開いたのは、西川社長。
当然ながら、記者からゴーン会長の責任を追及する質問が相次いだが、ゴーン氏に責任が及ばないように防戦一方だった。
役員が報酬を自主返納しているということを明らかにしたが、その詳細は公表されなかった。
ゴーン氏は報酬を返納したのかとの質問には、「あくまで自主返納なので内容は差し控える」と答弁を逃げている。
実際には、ゴーン氏は自主返納をするどころか、非公表の報酬をもらい続けていたことが今回の事件発覚で分かった。
この時、日産の経営陣は必至でゴーン氏の身を守ることに汲々としている様子が見える。
それが、一転、ゴーン氏の不正を暴露し、日産のイメージダウンを覚悟してまでゴーン氏の追い出しに向かったのはなぜだろう。
そこに、フランス政府の動きがあるらしい。
フランス政府はルノーの筆頭株主であり、現在のマクロン大統領は経済産業相の時代から、ルノーと日産の合併を働きかけていたという。
業績好調の日産を取り込み、フランス国内の生産拠点の維持や雇用の拡大を狙っていた。
ところが、それに強力に抵抗していたのがゴーン氏だったのだ。
そんなことをすれば、日産側の抵抗が激しいことが分かり切っていたからだ。
日産側にとって、この時点のゴーン氏はフランス政府の圧力をはねのけてくれる守護神であった。
ところが、その後、フランスの大手新聞に、ゴーン氏退任の観測記事が出始めた。
フランス政府がゴーン氏を追い出し、別の役員をルノーから日産に送り込んで、一気に合併を進めようとしているとの観測だ。
ゴーン氏は18年の6月をもって会長職を退任との具体的な情報まで流れ始めた。
この段階で、ゴーン氏を追い出したがっていたのはフランス政府であり、それを阻止しようとしていたのが日産側であった。
それが、今回の逮捕劇では、立場が逆転している。
日産側がゴーン氏を追い出し、それをフランス政府が批判している。
もしかしたら、その後の働きかけで、フランス政府はゴーン氏の取り込みに成功していたのか。
日産側は、ゴーン氏の変身を察知し、会社を守るために追い出しにかかったのかもしれない。
いずれにしても、長年にわたりゴーン氏に頼りすぎた日産側の自業自得との印象をぬぐえない。
ゴーン氏による大改革で経営が立ち直った時点で、ゴーン氏の役割は終わっていたはず。
それを、ゴーン氏に任せておけば間違いないとばかりに、ずるずると経営を任せきりにし、フランス政府のつけ入るすきを作ってしまっていた。
西川社長もゴーン氏に抜擢されたイエスマンであったはずだが、ギリギリのところで踏みとどまったということか。