コンビニチェーンの経営変革がようやく始まろうとしている。
一部店舗で試験的に24時間営業をやめ、深夜は閉店する方法を試みている。
新規出店も見直し、店舗数の増加を抑える方向で方針が発表されるようになった。
この背景には、コンビニチェーン本部の経営拡大の一方で、店舗オーナー側の疲弊がクローズアップされてきたことがある。
きっかけは、あるコンビニオーナーの反乱だった。
24時間営業はもう限界だとして、勝手に深夜時間帯の閉店を強行した。
当然ながら本部は勝手な時間短縮を認めない。
24時間営業が契約に明示されており、時間短縮は契約違反。
違約金1700万円の支払いを迫るなどの強硬姿勢で対応した。
ところが、マスコミに報じられたことで様子が変わった。
横暴なコンビニ本部と気の毒なコンビニオーナーという図式に世論は敏感に反応した。
報道でこのコンビニオーナーの実態が浮かび上がる。
いまは人材不足で、バイトを確保するのが大変。
バイト代はうなぎのぼり。
このバイトの確保はオーナーの責任。
バイト代が経営に重い負担となってのしかかる。
更に多店舗出店で近隣に同じ看板のコンビニが乱立し売り上げが激減。
バイトを雇う余裕がなくなり、オーナー家族で24時間を回さざるを得なくなる。
夫婦だけでなく、高校生の息子2人もレジ打ちを手伝う。
長男は大学進学を断念し、コンビニ手伝いに専念。
廃棄用の弁当を食べながら家族でなんとか24時間営業を続ける。
そんな中、長男が自死。
絶望感の中、オーナーは短縮営業の強行に出た。
初めのうちは契約を盾に24時間営業を迫っていた本部も、世論を敵に回すことを恐れ、ここへきて柔軟な姿勢を見せ始めた。
コンビニ経営の過酷さは以前から知られていた。
コンビニのシステムは実によくできていて、何があってもコンビニ本部には傷がつかず、オーナーにだけリスクがかかるようになっていた。
「コンビニ会計」という会計処理はその典型だ。
コンビニの売上は全部一旦本部に納められ、その中から仕入れ代金とロイヤルティを引かれて、残金がオーナー口座に振り込まれる仕組み。
その残金から、バイト代や光熱費など店舗運営の経費を払う。
廃棄ロスがあっても、それはオーナー負担となる。
時々チェーン全体で安売りキャンペーンが行われるが、安売りの分が仕入れ値が下げられていればいいが、そうなっていない。
その一方、本部では安売りキャンペーンを行うからと言って、納入業者には値引きを迫っていたりする。
キャンペーン商品は、本部からの一方的な納品で押し付けられる。
売れ残ったら、すべてオーナー側の負担だ。
本部にはリスクがない。
うまい仕組みだ。
オーナー側は、本部でどのような会計処理が行われているのか分からない。
分からなければチェックのしようがなし、日々多忙な中、そのようなことをこまごまと調べているような余裕がない。
それに、会計処理の不合理を指摘したところで、本部側が折れて修正処理をしてくれる可能性は皆無だ。
コンビニシステムの不合理さは、マスコミに取り上げられることはほとんどなかった。
テレビや新聞などの大手メディアで取り上げられるコンビニの話題は、常に本部側の提供する情報に限られていた。
まれに、コンビニオーナーの悲惨な実態が経済雑誌に取り上げられることがあったが、次号の記事で、本部側の反論や順調に経営を行なっているオーナーのコメントが紹介されていた。
その経済雑誌には、その後、コンビニ関連の記事が出なくなる。
コンビニチェーンはマスコミにとって巨大なスポンサーであり、敵に回せないのだろう。
しかし、今回は違った。
あるコンビニオーナーの時短営業の強行がマスコミに取り上げられたのだ。
これは、オーナー側にうまい広報戦略があったのかもしれない。
オーナー家族の悲劇的なストーリーも人の心を動かしやすかった。
コンビニの24時間営業は簡単にはなくならないだろう。
時短営業は確実に本部の売上を減らすからだ。
それに、我がチェーンだけ時短すれば、ライバルチェーンを利するだけ。
そんなことを本部が率先して行うはずがない。
ドミナント出店といって、ある地域に集中的に同じコンビニチェーンを出店する戦略がある。
これは、その地域のコンビニ需要を独占するとともに、物流の効率化を狙った本部側の戦略だ。
ところが、これはオーナー側にとっては、カニバリを起こし、売上激減をもたらす。
本部としては、おにぎり1個でも売れれば必ず売上増につながる。
正確には、そのおにぎりが売れなかったとしても本部に損はない。
店舗におにぎりを納入できた時点で売り上げが立つ。
店舗を増やせば増やすほど本部の売上は着実に増加していく。
しかし、オーナーにとって、そのおにぎり1個を売るためにどれだけのコストを負担するかが経営を左右する。
本部とオーナーとで戦略的な利害が一致しないところに、このビジネスモデルのいびつさがある。