本日付読売新聞による。
「医療・介護「事業継続」策定遅れ BCP急務」
オミクロン株の急拡大により、感染者や濃厚接触者が急増し、現場スタッフの欠勤者が相次ぎ、診療や介護の一部が停止する事態となっている。
そこで、政府や専門家がBCPの早急な策定を求めているのだという。
いまごろBCP? というのが率直な感想だ。
新型コロナは2020年から始まっており、すでに3年目に入っている。
オミクロン株の感染拡大が世界で過去最大のレベルに達してはいるが、ワクチン接種が進み、治療薬の確保されるようになってきており、重症化率は過去最低レベルのとどまっている。
国によっては行動制限を全面解除の方針を打ち出しているところもあり、パンデミックとしては最終局面に入っている印象だが、今になってBCP策定とはどういうことか。
BCPを策定など、2020年のうちに済ましてあるはずではなかったのか。
私も、一般の中小企業を対象にパンデミックBCPのセミナーや策定支援を行ってきたが、いずれも20年の内で終わっており、いまごろ取り組んでいるところは存在しない。
医療と介護ではパンデミックBCPが特に厳しく求められる業界だが、たぶん、コロナ禍が始まってから現場は目の前の対応に追われ、じっくりBCPを検討しているような余裕がないまま今に至っているのではないだろうか。
2009年の新型インフルの時に、医療介護の業界で感染症対応のBCPの策定が促された。
だが、ウィルスが弱毒性で、深刻な状況にならなかったために、BCPも話題にならずに終わってしまった。
この時、次のパンデミックを想定してBCPの策定を進めていればよかったが、ことが終われば関心が遠のき、何の準備もできないまま新型コロナが始まってしまった。
新型コロナが始まったのは2020年1月からだが、波状的に感染拡大が襲ってきて感染拡大期と小康期を繰り返してきた。
常に多忙だったわけではなく、小康期の余裕があるときに十分BCP策定ができた。
特に、第5波が収束してからは、ほとんど感染ゼロに違い小康状態で、第6波への準備が落ち着いてできる状態にあった。
それでも、BCPの策定は進まず、第6波が急拡大し始めた今になって、「BCP急務」との声が出始めた。
感染状況が深刻になると、「BCPを作らなければ」となり、感染状況が落ち着くと、BCPの関心が遠のく。
これを繰り返しているだけだ。
感染拡大が始まってから慌ててBCPを作り始めても遅い。
泥棒を見て縄をなうようなものだからだ。
2009年の時に次のパンデミックに備えておくべきだったし、それができていなかったとしても、コロナ禍の小康状態の時に次の波に備えてBCPを策定しておくべきだった。
第6波を迎えて、医療介護の現場は緊張状態に置かれているが、スタッフの努力で何とか乗り越えていくだろう。
すると、第6波が収まったところで、またBCPの関心は遠のいていくに違いない。
小康状態になるとBCPの関心が薄れ、感染拡大になると多忙でBCPに取り組んでいる余裕がない。
結局、いつまでたってもBCPの取り組みは始まらないということに。
いまどの業種でもBCPの取り組みは進んでいるが、その中でも、医療福祉分野と宿泊飲食分野は特に策定率が低い業界だ。
そのBCPに縁のない業界が、いまコロナリスクの直撃を受けているというわけだ。
介護事業者については、今年度からBCP義務化になった。
現在は努力義務にとどまっているが、令和6年度からは完全義務化に移行する。
介護業界は、いざ災害に見舞われたときは、どこよりも業務の継続が強く求められるのに、BCPの取り組みが最も遅れている。
その実態に国が危機感を覚えたために、このような措置に切り替えたのだろう。
最近、介護事業者の話を伺う機会が増えたが、BCPどころか、基本的な防災対策すら何も考えられていない中小事業者があまりにも多いという印象だ。
BCPの取り組みが最も進んでいる業界は製造業だ。
その理由は、災害で直接被害を受ける可能性が高く、その被害も具体的にイメージしやすいこと。
そして、取引先からBCPを求められるケースがあり、取引のためにBCPが必須となりつつあること、にある。
その点、医療介護業界は、強力な取引先というものがない。
お客様は、患者であり利用者だ。
BCPがなければ、お客様を失うということは考えられない。
BCPがあってもなくても変わらない。
さらに、実際に大地震や大雨洪水に見舞われたとき、何がどのようになるのかは経験がなく、その時になってみないと具体的にイメージできない。
であれば、BCPに取り組もうというインセンティブが働くわけがない。
宿泊飲食業界でBCPが進まないのも同じ理由だろう。
ところが、先日、あるホテルのウェブサイトで珍しいアピールを見つけた。
なんと、そのホテルは、免振対策済みの建物だというのだ。
つまり、地面と直接触れている部分がなく、緩衝材を介して地上に建っており、地震が起きたときにはその揺れが建物に伝わらない構造になっているという。
庁舎のような公共施設で免振ビルは見たことがあったが、ホテルでもこのようなところが出てきたかと驚いた。
地震の活動期に入った日本。
今後は、ホテルもこのような視点で選ばれる時代になってくるのかもしれない。
2022年01月31日
2022年01月26日
エリザベス・ホームズ有罪判決
セラノスの創業者、エリザベス・ホームズ。
詐欺などの罪で起訴されていた彼女に対し、4件の訴因について陪審員団から有罪の評決が下された。
セラノスというのは、たった1滴の血液であらゆる検査がその場でできることを謳って事業展開していたベンチャー企業だ。
エリザベスはその創業者。
わずか19歳での起業、しかも美形の白人女性ということで注目され、第2のスティーブジョブズとも言われていたという。
ところが、彼女の行なっているビジネスには実体がなく、彼女の言葉に騙されて出資してしまった投資家やVCから訴えられていた。
この壮大な詐欺事件の経緯は、書籍『シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』に詳しい。
このドキュメンタリーを読むと、当初から社内の開発現場から異論が相次いでいたようだ。
たった1滴であらゆる血液検査ができるなど、どう考えても実現不可能だからだ。
ところが、エリザベスはそれを認めず、なんとか実現せよと圧力をかけ続けた。
反発するスタッフは解雇。
強圧的な支配で会社を回していたようだ。
どんなに圧力をかけても、物理的に不可能なものは実現できない。
それでも、エリザベスは製薬会社や医療現場などに派手な売り込みをかけ、受注を取り付けてくる。
メディアにも露出し、話題を喚起。
黒のタートルネックのセータを着てジョブズの真似をした。
ヘアスタイルもわざときっちり固めないラフはスタイルにこだわったようだ。
最も奇妙なのは、彼女の異様に低いバリトンボイスと瞬きしない大きな瞳。
ネット上の動画でこれは確認できる。
確かに奇妙だ。
たいていの人は彼女に会うと、この声と瞳に幻惑されてしまうようだ。
アメリカでは声のトーンが低い人は、信頼と好印象を得られることから、弁護士や経営者などボイスコントロールをしている人がいる。
彼女もその一人だ。
瞬きしない大きな瞳も、相手の目を食い入るように見つめることで、自分が心理的に上位に立つ効果を狙ったものだろう。
著名人の中にも彼女に心酔する人が現れ、それがまた広告効果を上げ、セラノスの評判はうなぎのぼり。
しかし、理想の検査機は完成せず、ごまかしのデモンストレーションで顧客を欺くようになり、耐えられなくなった内部者の通報により、実態が白日の下に明らかとなる。
彼女も当初は純粋に自分のビジネスアイデアを実現すべくビジネスを立ち上げた夢多きベンチャーであった。
ところが、いち早く成功者になりたいという欲求のほうが強く、地道に足元を固めながらビジネスを進めていくことに無頓着だったようだ。
事業の立ち上げ当初は、順調に進むことは稀で、あちこちで問題や不具合が発生するのが普通だ。
こまごまとしたつまらないことで問題が起きる。
それらを1つ1つクリアして少しずつビジネスが回り始める。
ところが、シリコンバレーで華々しい成功を夢見る人は、このような地味なこまごまとしたことに興味がない。
それで、いきなり大風呂敷を広げて注目だけ浴びようとしてしまう。
「シリコンバレーで成功者になるためには、まずは成功者であるふりをしろ」と言われる。
あのビルゲイツも、初めてIBMに売り込みをかけたとき、その時点で売れるソフトは何もできていなかったというのは、笑い話として伝えられている。
エリザベスも、その成功の法則に則っただけかもしれない。
ただ、彼女に運がなかったのは、肝心の検査機ができないために、最後まで偽装し続けることになってしまったことだろう。
この詐欺事件、なぜこんなにも多くの人が騙されたのか。
実は、医療の専門家の間では、たった1滴であらゆる血液検査なんて原理的に不可能であるのが常識として認識されていたという。
では、なぜそれが公に指摘されなかったのか。
それは、セラノスの血液検査の技術について論文が1つも出されていなかったからだ。
論文がないと専門家は検証できない。
検証できなければ、正しいとも誤りとも判定できない。
それで、公に「これはインチキだ」と言うこともできなかったという。
エリザベスは、セラノスの技術に疑問を呈した者に対しては、訴訟を仕掛け、黙らせるということまでしていた。
それで、専門家としてこんなことはできるわけがないと思ったとしても、それを根拠なく公にできなかった。
では、自分であらゆる可能性を想定して実験をし、どんな方法でも実現不可能であることを実証するか。
時間と労力をかけて、得られる答えは、当たり前のことが証明できるだけ。
多忙の研究者がこんなことに無駄な時間をかけられるわけがない。
こうして、あやしい技術が検証もされずに一般に絶賛され続けるという現象が起きるというわけだ。
この事件、キャラクターが魅力的なので、映画化の話が出ているという。
ぜひ見てみない。
詐欺などの罪で起訴されていた彼女に対し、4件の訴因について陪審員団から有罪の評決が下された。
セラノスというのは、たった1滴の血液であらゆる検査がその場でできることを謳って事業展開していたベンチャー企業だ。
エリザベスはその創業者。
わずか19歳での起業、しかも美形の白人女性ということで注目され、第2のスティーブジョブズとも言われていたという。
ところが、彼女の行なっているビジネスには実体がなく、彼女の言葉に騙されて出資してしまった投資家やVCから訴えられていた。
この壮大な詐欺事件の経緯は、書籍『シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』に詳しい。
このドキュメンタリーを読むと、当初から社内の開発現場から異論が相次いでいたようだ。
たった1滴であらゆる血液検査ができるなど、どう考えても実現不可能だからだ。
ところが、エリザベスはそれを認めず、なんとか実現せよと圧力をかけ続けた。
反発するスタッフは解雇。
強圧的な支配で会社を回していたようだ。
どんなに圧力をかけても、物理的に不可能なものは実現できない。
それでも、エリザベスは製薬会社や医療現場などに派手な売り込みをかけ、受注を取り付けてくる。
メディアにも露出し、話題を喚起。
黒のタートルネックのセータを着てジョブズの真似をした。
ヘアスタイルもわざときっちり固めないラフはスタイルにこだわったようだ。
最も奇妙なのは、彼女の異様に低いバリトンボイスと瞬きしない大きな瞳。
ネット上の動画でこれは確認できる。
確かに奇妙だ。
たいていの人は彼女に会うと、この声と瞳に幻惑されてしまうようだ。
アメリカでは声のトーンが低い人は、信頼と好印象を得られることから、弁護士や経営者などボイスコントロールをしている人がいる。
彼女もその一人だ。
瞬きしない大きな瞳も、相手の目を食い入るように見つめることで、自分が心理的に上位に立つ効果を狙ったものだろう。
著名人の中にも彼女に心酔する人が現れ、それがまた広告効果を上げ、セラノスの評判はうなぎのぼり。
しかし、理想の検査機は完成せず、ごまかしのデモンストレーションで顧客を欺くようになり、耐えられなくなった内部者の通報により、実態が白日の下に明らかとなる。
彼女も当初は純粋に自分のビジネスアイデアを実現すべくビジネスを立ち上げた夢多きベンチャーであった。
ところが、いち早く成功者になりたいという欲求のほうが強く、地道に足元を固めながらビジネスを進めていくことに無頓着だったようだ。
事業の立ち上げ当初は、順調に進むことは稀で、あちこちで問題や不具合が発生するのが普通だ。
こまごまとしたつまらないことで問題が起きる。
それらを1つ1つクリアして少しずつビジネスが回り始める。
ところが、シリコンバレーで華々しい成功を夢見る人は、このような地味なこまごまとしたことに興味がない。
それで、いきなり大風呂敷を広げて注目だけ浴びようとしてしまう。
「シリコンバレーで成功者になるためには、まずは成功者であるふりをしろ」と言われる。
あのビルゲイツも、初めてIBMに売り込みをかけたとき、その時点で売れるソフトは何もできていなかったというのは、笑い話として伝えられている。
エリザベスも、その成功の法則に則っただけかもしれない。
ただ、彼女に運がなかったのは、肝心の検査機ができないために、最後まで偽装し続けることになってしまったことだろう。
この詐欺事件、なぜこんなにも多くの人が騙されたのか。
実は、医療の専門家の間では、たった1滴であらゆる血液検査なんて原理的に不可能であるのが常識として認識されていたという。
では、なぜそれが公に指摘されなかったのか。
それは、セラノスの血液検査の技術について論文が1つも出されていなかったからだ。
論文がないと専門家は検証できない。
検証できなければ、正しいとも誤りとも判定できない。
それで、公に「これはインチキだ」と言うこともできなかったという。
エリザベスは、セラノスの技術に疑問を呈した者に対しては、訴訟を仕掛け、黙らせるということまでしていた。
それで、専門家としてこんなことはできるわけがないと思ったとしても、それを根拠なく公にできなかった。
では、自分であらゆる可能性を想定して実験をし、どんな方法でも実現不可能であることを実証するか。
時間と労力をかけて、得られる答えは、当たり前のことが証明できるだけ。
多忙の研究者がこんなことに無駄な時間をかけられるわけがない。
こうして、あやしい技術が検証もされずに一般に絶賛され続けるという現象が起きるというわけだ。
この事件、キャラクターが魅力的なので、映画化の話が出ているという。
ぜひ見てみない。