2022年07月11日

緊急事態が苦手な私たち

 安倍元総理の暗殺事件。
 現代日本で、重要政治家の暗殺が起きたことの衝撃が日本中を駆け巡った。
 いま、話題の焦点は、警備の問題に移りつつある。
 犯人は、まったくの素人で、手製拳銃を使用し、たった2発の射撃で、要人の命を奪うことに成功した。
 SPや警察は何をしていたのか。

 犯人は、数か月前から準備を進め、安倍元総理の応援演説のスケジュールを確認しては、その会場に出かけていたらしい。
 ただ他の会場では襲撃のチャンスが見いだせず、行動に移すことがなかった。
 それが、7日の夜に安倍氏のスケジュール変更があり、急遽、奈良市にやってくることが判明。
 1時間も前から会場周辺を徘徊しながら現場確認をしていたようだ。
 残された映像を見ると、警備の一瞬のスキを狙って素早く行動したようには見えない。
 悠然と移動し、落ち着いて銃を取り出しながらターゲットに接近し、十分に狙いを定めて射撃している。
 ここから、まったく警備員の警戒が行われていなかったことが分かる。
 
 もしも、360度どの方向にも警備員の厳しい視線が向けられていれば、犯人は襲撃のタイミングを失い、行動に移せなかっただろう。
 この犯行を誘発したのは、警備の緩さだったのではないか。

 後知恵で講釈すれば、犯人が車道に進み出て要人の背後から接近する動きを見せたところで、制止することができた。
 これなど、別に街頭演説中でなくとも、歩行者が車道にふらふら歩み出たら、警官に制止される状況だ。
 これすら行われていなかったということからも、いかに警戒が緩かったかが分かる。
 
 今回の犯行は、素人による単独犯であったために、阻止は容易だったと評価されている。
 だが、これがプロのテロ集団による犯行だったらどうなっていたか。
 遠方のビルの屋上から狙撃する。
 自動車を暴走させて猛スピードで突っ込む。
 爆弾を抱いて要人に突撃し自爆テロを行なう。
 爆発音で一方向に注意を向けさせているすきに、別の方向から近づいて襲う。
 最悪の事態は考えればきりがないし、今の日本でどこまでそんな可能性を想定する必要があるか、との議論もある。
 だが、最悪を考えたらきりがないということを言い訳に、考えることをやめてしまうと、今回のようなことが容易に起きてしまう。
 「最悪に備えよ」ということの意味は、ここにある。

 さて、襲撃場面の動画を見て気づいたことがある。
 1発目の銃声が聞こえた時の人びとの行動だ。
 誰もがハッとして音の方向に注目するものの、体は固まったままだ。
 安倍氏も一瞬固まり、そのまま後ろを振り返る動作をしている。
 不思議なのは、その時集まっていた観衆だ。
 みんなその場にとどまり、様子を見守っている。
 中には、もっとよく見ようと歩み寄る人もいるほどだ。
 今回の射撃は2回で終わったが、他にも犯人グループがいた場合、3発目、4発目がどこかから発射されるかもしれないではないか。
 その場の観衆の行動としては、一刻も早く現場から遠ざかるというのが正解となる。

 アメリカでは銃による無差別の襲撃というのがよく起きる。
 その襲撃場面を捉えた映像を見ると、銃の発射音が聞こえると同時に、群衆が一斉に走り出す様子が写っている。
 「爆発音を聞いたらすぐに逃げる」というのが体に染みついた基本行動になっているのだろう。

 日本では防災訓練が学校でも職場でも行われている。
 火災が起きたら、地震が起きたら、という想定で避難訓練をする。
 アメリカでは、どのような訓練が行われるのかというと、爆弾テロが起きたときどう行動するかを想定するのだそうだ。。
 だから、爆発音が聞こえると同時に、体がすぐに反応するのだ。
 
 ある職場での話を知人に聞いた。
 ある時、緊急地震速報のアラームが鳴りだした。
 知人は直ちにやりかけの仕事を中断し、素早く机の下にもぐった。
 アラームに直ちに反応して行動を起こしたのは彼だけだった。
 結果として、その速報は誤報だったようで、地震の揺れは感じることがなかった。
 その時、知人は周りの人たちに笑われたのだという。
 「何をそんなにビビってんの?」「お前はいつも大げさだなぁ」
 知人は、そのことを私に語りながら不満を漏らしていた。
 「どうして、いち早く行動を起こした人間が笑われなければいけないのか」
 まことにその通りだ。
 私たち日本人は緊急事態が苦手だ。
 とっさに率先行動を起こすことは特に苦手だ。
 今回のテロ事件でそのことを改めて思い知らされた。
 
posted by 平野喜久 at 10:21| 愛知 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 世事雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする