青色発光ダイオード訴訟の和解のニュースが話題を呼んでいる。
この話題は当初から誤解が多い。
まず、この訴訟は、青色発光ダイオード特許に関する訴訟ではなかった。
青色発光ダイオードは確かに特許になっているが、発明者は中村氏と他の日亜化学の研究員2人を合わせて3人の連名になっている。
これは、日亜の研究員がみんなで発明したものだからだ。
当然、中村氏はこの特許のことでは裁判を起こしていない。
中村氏が訴訟を起こした特許は、彼が単独で発明者として登録されている「半導体結晶膜の成長方法」という発明。
特許番号から「404号特許」と呼ばれている。
これは、早い話が、半導体を作る方法の特許なのだ。
青色発光ダイオードを作るとき、基盤の表面に半導体結晶膜を生成させるのが難しかったのだが、この方法を使えば、製品の歩留まり率が向上するというもの。
こういうのは、従来技術より高品質になったり高効率になったりという発明で、「改良特許」と呼ばれる。
青色発光ダイオードの周辺特許で、しかも改良特許にすぎない。
さらに、日亜化学側は、この特許はもともと未完成な発明で、これだけでは実用に耐えられないため、いまでは、別の方法で製造していると主張している。
実は、中村氏が裁判に訴え争っていたのはこの程度の特許だったのだ。
では、なぜ中村氏が青色の発明者として有名になったのか。
それは、中村氏側のメディア対応のうまさだろう。
1.彼は、青色の発明者である。→正しい
2.彼が訴えた特許は、彼の単独の発明である。→正しい
3.彼は、青色の発明を単独で行なった。→間違い
我々も、知らず知らずのうちに、世紀の大発明を単独でなしとげた研究者という印象を持ってしまっていたではないか。
報酬がわずか2万円というのも、メディア効果としては抜群だった。
企業にいじめられる弱者という演出にはこれほどのうまい印象操作はない。
日亜化学側も当初は甘く見すぎていたらしい。
リスクマネジメントが不十分で、情報発信ができていなかった。
裁判所への情報発信と、とくにメディア対策の情報発信がダメだった。
一審判決を受けてから、戦術を変えた。
日亜化学の情報発信によって、実態がだんだん分かってきたのだ。
青色ダイオードは中村氏単独の発明ではないこと、裁判で争われているのは周辺の改良特許に過ぎないこと、そして、実際には使われていない技術であること・・・。
今回の和解金額8億4千万円は、問題の特許だけではなく、中村氏が関与したすべての特許195件に対する対価である。
従来争われていた特許については、その対価は最大限に評価してもせいぜい1億から2億程度だろうと言われていた。
(実際の事業にはこの特許は使われていないため、日亜側は1000万円程度だと主張している)
請求金額を200億円から600億円に増額すると息巻いていた従来の勢いなら、こんな評価を中村氏が受け入れることは考えられない。
それで、研究活動に戻りたいと最近言い始めていたようだ。
日亜の巻き返しに抗しきれず、控訴しても勝算なしと判断したためだろう。
控訴して2億円の判決より、いま8億4千万円の和解のほうがいい。
日亜化学側の勝利というのは、こういう理由だ。
2005年01月11日
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ヒーロー待望論
Excerpt: 各種報道で伝えられている通り、日亜化学とそこの元社員中村修二氏が争った青色発光ダイオード(LED)の発明対価の問題は約8億円の支払いで和解しました。あの200億円の支払い地裁の判決が出たのが去年の1月..
Weblog: のほほんライフ
Tracked: 2005-01-12 07:37
先送りのセンス
Excerpt: こんにちは、西沢です。 【昨日今日】 ・青色発光ダイオード発明の対価に関する訴訟で6億円強の和解が成立しました。 これについてはすでにいろんな意見が出ているので付け加えることもありませんが ..
Weblog: ケイティクス・プログレス??Catiks Progress
Tracked: 2005-01-12 11:44
先送りのセンス
Excerpt: こんにちは、西沢です。 【昨日今日】 ・青色発光ダイオード発明の対価に関する訴訟で6億円強の和解が成立しました。 これについてはすでにいろんな意見が出ているので付け加えることもありませんが ..
Weblog: ケイティクス・プログレス??Catiks Progress
Tracked: 2005-01-12 11:45
青色LED和解で理系冷遇は変わるか [ブログ時評07]
Excerpt: 青色発光ダイオード(LED)開発者、中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授は、勤務していた日亜化学工業(徳島)との間で発明対価を8億4千万円として和解した。一審の東京地裁で200億円の巨額..
Weblog: ブログ時評
Tracked: 2005-01-16 23:34
Excerpt: 日亜青色発光ダイオード事件に新事実発覚
Weblog: neotesla
Tracked: 2005-05-25 16:45
技術範囲の判断は出願時点の法律が適用されなければなりません。裁判官が、法律の適用を誤った可能性があります。
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