「社長、もしもの時のために簿外資産を積み立て、しかも、税金が安くなる方法をご存じですか」
生命保険の販売員がこんなことを言ってきたら、要注意。
本当に、リスクファンドの形成と、節税を目的としているのなら、必ずしも目的を達成できない。
このからくりのポイントは、生命保険で、保険料が全額損金にでき、かつ、解約した時に返戻金が受け取れるところにある。
保険料が全額損金にできるので、そこで、税金を免れることができる。
解約した時には、返戻金が手に入る。
もちろん、累計掛け金の80%ほどしか帰ってこない。
でも、税金を払うことを思えば、この方がオトク、というわけ。
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例えば、100万円の利益のある会社を考えよう。
保険料として毎年100万円を払う。
10年で1000万円→損金扱いで税金0
10年後の解約が返戻率80%とすると→800万円が手に入る。
毎年100万円を内部留保したら→税金40万円
手元に残ったお金→60万円
10年で600万円
保険を使った場合、800万円!
使わなかった場合に比べて、200万円もオトク!!!
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普通の返戻率という数字とは別に、実質返戻率という奇妙な数字が提示される。
これは、税金を払ったときに比べて、どれだけ得かを%表示したもの。
返戻率80%、税率40%とすると、実質返戻率は、133%になる。
なんと、133%!
ものすごく、得した気分になるではないか。
ここで、何か変だと直感した人は、その感覚は正しい。
解約返戻金は、益金に参入され、その時点で課税される。
800万円は税引き後→480万円に。
内部留保に比べて、120万円の損!!!
結局、保険利用は、利益の繰り延べ、課税の先送りになっているだけ。
しかも、保険会社に上澄みを取られた後に税金をひかれるので、手元資金は内部留保よりも減ってしまう。
これが正確な理解だ。
税引き後の内部留保と、税引き前の返戻金を比較すれば、後者が多くなるのは当たり前。
まともな経営者なら、まず直感的に変だと思うのが普通だ。
だが、販売員のトークはこれでは終わらない。
会社が赤字の時に解約したら、課税されず800万円をまるまる手に入れられる。
だから、もしもの時のための簿外資産なのだ。
ということは、会社が赤字になりそうな時にしか使えない簿外資産を持ってしまうことになる。
本当にもしもの時のために余裕資産を持つのであれば、いつでも何にでも使える自由度の高い資金でないと意味がない。
生命保険を使った資金積み立ては、余分な制約を課してしまうことになる。
緊急に資金が必要になる時は、必ずしも、返戻金をソックリ飲み込んでしまうほどの赤字になるとは限らない。
取引先の債権回収が遅れたために資金繰りが悪化したとき。
設備の耐震化のために資金が必要になった時。
これらの場合も、決算が赤字になることが確認できない限り使えない。
それに、保険料の全額損金のメリットを活かすには、期間中ずっと充分な利益を出し続けていることが前提にある。
保険販売員が提示する試算は、契約期間中は安定的に充分な黒字で、解約の時だけ大きな赤字になるという、まことに都合がいい事態を想定している。
また、解約返戻率は、一定ではない。
たいていは5年から10年のところにピークがある。
それを過ぎると、急激に下がりはじめ、最後は0%になる仕組み。
途中で解約してくれることを前提に作られたような保険だ。
ということは、返戻率が最も高い時に解約するのが一番オトクのはず。
でも、もしもの事態は、いつ起きるか分からない。
何事もなく、ピークを過ぎてしまったらどうするのか。
慌てて解約すると、返戻金に課税され、大きく目減りしてしまう。
まさか、掛け捨ての定期保険と割り切って、多額の保険料を払い続けるのか。
また、いつ「もしもの時」が来るか分からないということは、そのときにどれだけ保険料が累積しているかも分からないということだ。
これは、保険本来の保障を前提にしたものではなく、返戻金を当てにしたものだからだ。
保険本来の保障であれば、契約したその日から、満額の保険金が支払われる。
しかし、返戻金は、積み立てた金額に応じた分しか支払われない。
もしもの時が、早くに到来した場合、充分な資金が得られない。
リスク対策のための、資金プールのつもりが、あらたなリスクを抱えてしまうことになる。
財務体質の強化として、この手法を薦めるコンサルもいる。
結論、この手法で財務体質は強化されない。
保険契約をすると、保険料として毎年一定額のキャッシュアウトが発生する。
100万円の利益の場合、内部留保なら40万円の税金が出て行くだけ。
保険をかけると、100万円が全額キャッシュアウトしてしまう。
これは、キャッシュフローを悪化させるのは明らか。
経営が不調な時には資金繰りの悪化を招きかねない。
貸借対照表上も、流動性が低く、自己資本の少ない脆弱な財務体質しかあらわれない。
損益計算書上では、利益の少ない企業と認識されることになる。
この節税対策は、結局、国や自治体に払うはずの税金を、保険会社と顧客企業で山分けしようという、手法なのだ。
とても褒められた手法ではない。
これは、保険会社にとっては、儲かってしょうがない商品だ。
なにしろ、客から預かった金額の70%から80%程度のお金を返せば、喜んでもらえるのだから。
いま、銀行の金利はほとんど0に近いが、それでも、預けた金が元本割れすることはありえない。
保険会社は、保険料の名目でお金を預かるだけで、20%から30%が儲かる。
こんなぼろい商売はない。
保険会社や保険ブローカーが、この節税手法をすすめるはずだ。
2006年05月29日
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会計事務所・税理士事務所からすると嘲笑するしかないレベルです、これは。
保険外交員のセールストークに胡散臭く感じている素人にしか見えません。