2006年09月30日

問題あり:生命保険を使った資金バッファ

 企業の生命保険を利用した節税対策がいかに危なっかしいものであるかは、以前のブログでも指摘した。
 今回はその補足。

 この手法のメリットは、節税対策と簿外資金蓄積が同時にできるところにある。
 しかし、節税対策、資金蓄積ともに不十分な対応しかできないのが現実だ。

 ある中堅企業の事例。
 保険代理店に勧められて「節税、簿外資金」を目的に生命保険に加入した。
 この会社はただいま絶好調。
 年に5千万円の利益を上げる。
 無借金経営。
 利益のうちの4000万円は内部留保にし、1000万円を生命保険の保険料として支払うことにした。

 ああ、なんと言うことだ。
 社長は、何を目的にこんな保険に入ったのだろう。
 保険代理店にうまく乗せられたな、という印象だ。

 それだけ利益を上げている会社であれば、内部留保は既に潤沢にあるはず。
 もしものときの大きなキャッシュアウトでも、十分対応できるだろう。
 簿外にわざわざ資金バッファを用意する必要がない。
 節税効果としても、5000万円の利益のうち、1000万円だけの節税対策では、その効果は限られる。

 解約返戻率がピークを過ぎると節税効果がなくなってしまう。
 効果がなくなる前に、大地震でも起きてくれればいいが、何事もなく過ぎてしまった場合が大変。
 返戻金は益金算入され、課税されてしまう。
 ここで、課税されたのでは、何のための節税対策か分からない。
 だから、解約するときは、課税回避の方策を考え出さなければならないのだ。
 解約返戻金に見合った損失をどこかで発生させなければならない。
 不良在庫の処分、値下がり有価証券の売却、などなど。
 解約時の返戻金が1億円に達していたとしよう。
 それだけの損失を発生させるのは並大抵ではない。
 なにしろ、大災害など、もしもの時のために簿外資金を積み上げていたのだ。
 課税回避するためには、もしものときと同じぐらいの損失をわざわざ発生させなくてはならないのだ。

 たまたま、大きな不良資産があって、その売却損でちょうど返戻金と相殺できたとしよう。
 「やれやれ」
 でも、ふだん5000万円の利益を出し続けている企業だ。
 不良資産をこの時まで持っておく意味はあるのか。
 普段から定期的に処分していけば、その分の利益は減額され、節税になるはずなのだ。
 解約返戻金のために不良資産を残しておいたのでは、そのときまでの利益に、余分に課税されていたことになる。
 結局、全体としてみた場合、解約返戻金で節税できたのかどうかは怪しくなってしまうのである。

 たまたま不良在庫などがあれば、まだいい。
 絶好調の企業で無駄にしている不良資産がなかったらどうするのか。
 不自然な利益操作は、不正経理と見なされる恐れが大きい。
 そこにも、新たなリスクが存在する。

 つまり、この手法の欠点は、目的を確実に達成できるかどうか分からないということだ。
 そして、本来は節税と資金確保を目的にしていながら、実際は、この手法の効果を維持することが目的になってしまうということだ。
 返戻金の課税回避の方策を考えなくてはならないなんて、本末転倒もはなはだしい。

 不確実なことに不確実なことで対処するのはリスクを倍加するだけである。
 この手法で、確実なのは、保険会社と保険代理店がしっかり利益を上げるという点だけということを、まず認識しておかなくてはいけない。
 
 
posted by 平野喜久 at 12:47| 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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