2016年03月14日

地震予想屋の情報は有害ノイズにしかならない

 3月6日の「Mr.サンデー」という情報番組、「首都直下地震予測SP」とタイトルがあった。
 公式に新たな地震予測のデータが公表されたのかと思い、観てみた。
 結果、程度の低さに愕然としたというのが正直なところだ。
 地震予測として紹介されていたのは、あの村井俊治氏だった。
 村井氏は、GPS地震予測でメディアでしばしば取り上げられている。
 この番組では、過去に6回も取り上げているのだという。
 今回紹介されたのは、NTTドコモがLTEネットワークを活用して地震予測と津波監視に貢献する新しい取り組みを行うというもの。
 村井氏の地震予測にも貢献するという。
 これで、また一つこの地震予測の権威づけが行われてしまった。

 村井氏のGPS地震予測は、専門家の間では、ほとんど話題になっていない。
 なぜなら、検討するに値しない代物だからだ。
 研究論文もないので、この予測法の真偽を検証することもできず、専門家は評価のしようがないというのが実態だ。
 真っ向から専門家に否定されないのをいいことに、一般向けに怪しい地震予測を発信し続けている。
 
 村井氏を権威づけているのは、「東大名誉教授」という肩書だ。
 メディアで紹介されるときは、必ずこの肩書とともに村井氏が紹介される。
 本人も、ことあるごとに自分のことを「東大名誉教授として」とか「科学者として」と強調している。
 ここが自分を相手に信じ込ませる唯一の拠り所だということが分かっているからだろう。

 だが、彼のやっている地震予測は、とても科学者の研究とは思えない杜撰なものという印象がぬぐえない。
 まず、「的中率80%」という大げさな触れ込みが怪しさの第一。
 何をもって的中率と言っているのか不明だからだ。
 的中率には2つの側面がある。
 1つは、実際に起きた地震のうち、どれだけを予測していたか、というもの。
 もう1つは、予測した地震のうち、どれだけが実際に起きたか、というもの。
 地震予報屋が言う的中率はどういう計算根拠で言っているのか不明だ。
 たぶん、自分に都合のいい数字を抜き出して、計算しているだけなのだろう。
 まったく、客観的な検証に耐えられない。

 メディア報道によると、村井氏は、「過去一定期間に震度5以上の地震が25回発生したが、そのうち村井氏が予測していた地震は23回だった」という。
 ものすごい的中率を誇っているように見える。
 しかし、実態を知るとがっかりする。
 予測期間は6か月。
 予測エリアは非常に広い地域で曖昧。
 予測はマグニチュードではなく、震度。
 これなら当たって当たり前だ。
 日本中のいろんなエリアに常に地震予測を出し続けていれば、必ずどこかが当たってしまうことになる。

 これほど、いろんな地震を予想しまくっているのに、あの東日本大震災は当てることができなかった。
 日本史上最大級の地震であれば、その予兆は、いままで見たこともないような異常値を示していたはずなのにだ。
 しかも、この巨大地震の2日前には前震があった。
 大地震が2回も連続して起きているのだから、そこには異常値がくっきりと示されてなければいけないはずだ。
 ところが、彼は、この大地震を見逃したことを深刻に受け止めている様子がない。
 「国土交通省から提供されるデータが遅すぎたためにはっきりわからなかった」「予兆は掴んでいたが、発表をためらってしまった」ということで終わっているようだ。
 科学者の態度としては、非常に不誠実に見える。

 予測が震度で行われているのも非常に奇妙だ。
 地震の規模はマグニチュードで表され、1つの地震に必ず1つのマグニチュードが決まる。
 震度は、各地の揺れの大きさを表しているだけなので、同じ地震でも場所によって揺れの大きさはまちまちだ。
 局地的に地盤の柔らかいところがあれば、そこだけ揺れが大きくなることもある。
 1カ所だけでも震度5を観測したところが見つかれば、当たり、となる。
 マグニチュードではなく、震度で予測しているのは、その方が当たりやすいからではないか。

 GPS地震予測は、どのように行なっているかというと、全国にある1300カ所の電子基準点のデータを取り寄せて、各点の地盤の上下動を調べるのだという。
 短期的に大きな変動が起きたときが異常値の発生とみて、地震発生の前兆とする。
 ここに大きな問題がある。
 地震発生前に地盤の上下動があるのか、ここがまず検証できていない。
 GPSデータでは時々異常値が出るが、それは気象条件などノイズによるデータの揺れと国土交通省では解説している。
 だが、村井氏はそんな警告はお構いなし。
 異常値は、すべて地震の前兆と捉える。
 このような異常値は、日本中いろんなところで常に出るので、そのたびに新たな地震予測が出ることになる。
 そのうちにどこかで実際に地震が起きると、「大当たり」となる。

 6か月という長期間の予測で、非常に広い範囲を複数指定して予測するが、それでも外れてしまうことがある。
 その場合は、「地震が起きなかったのは幸い」「外れることを恐れず、勇気をもって予測を発信し続けたい」というコメントになる。
 村井氏は勇気ある孤高の研究者を気取っているようだ。
 何の責任もない地震予想屋は、予想が外れたとしても意に介さない。

 村井氏は非常に悔しい思いをしたことがあるという。
 北海道南部に地震予測を出していたが、青森県の方で地震が起きたために、これがこの地震予測だったのだと解釈し、予測情報を取り下げてしまったところ、その直後に北海道で地震が起きたのだ。
 「あのまま、地震予測を出し続けていれば、大当たりだったのに」という悔しさだ。
 これは、とても科学者の態度に見えない。
 ただ、当たり外れのギャンブルを楽しんでいるかのようだ。
 彼は、青森県で地震が起きた時点で、自分の予想は場所が少しずれただけと解釈し、その後、北海道で地震が起きれば、実は、自分の予測はぴったり当たっていた、と解釈する。
 彼の予想とはこの程度なのだ。
 
 GPSデータの異常値は地震発生の前兆である、という仮説設定に問題はない。
 だが、その仮説を科学的に検証した形跡がなく、途中をすっ飛ばして、GPSデータで地震予測ができるという結論に短絡してしまっている。
 異常データを見て、どこにいつどの程度の地震が起きそうかは、村井氏の勘で決めているようだ。
 「このぐらいの異常値だったら、このぐらいの地震だろう」という感じだ。
 なぜ、この異常値だと、そういう予測になるのかは、彼の頭の中にしかない。
 彼自身、経験値が蓄積してきたので、昔よりも予測精度がよくなっていると言っている。
 だから、この地震予測は役に立つのだと言いたいらしいのだが、こういっている時点で、本当に彼は科学者か、と疑わしい。
 彼が経験値を積まないと予測精度が高まらないのでは、科学ではない。
 小保方氏でないとSTAP細胞はつくれない、では話にならないのと同じだ。

 Mrサンデーでは、村井氏の特集を流した後、コメンテーターにコメントを求めていた。
 コメンテーターも困っただろう。
 全面肯定するには胡散臭すぎるが、立場上、否定的なコメントをするわけにもいかない。
 コメンテーターの1人はこんなことを言っていた。
 「とにかく、選択肢が増えるのはいいことですよね」
 いろんな地震予測が出て、その中から私たちが選べばいい、ということだ。
 肯定も否定もしない、ぎりぎりのコメントだった。
 番組コメンテーターとしては、これが精一杯だろう。

 だが、実際は、地震予測情報が氾濫するのは、選択肢が増えて結構ということにはならない。
 私たち一般人は、予測情報の真偽を確かめるのは不可能。
 となると、本当に科学的根拠にのっとった信憑性のある情報があったとしても、それは、多くのノイズの中に埋もれてしまう。
 村井氏のような予測屋の情報の方が、大げさで分かりやすいので、一般の人たちには訴求力がある。
 怪しげな情報の方がメディアでセンセーショナルに取り上げられ、本当に注目すべき情報が消し去られる。
 悪貨が良貨を駆逐するという現象が起きてしまう。
 こちらの方が大問題だ。
 
 村井氏の地震予測については、科学的な立場で批判しているサイトやブログが少数ながら存在する。
 このような動きがあることに安心した。
 
posted by 平野喜久 at 09:12| 愛知 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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