2017年04月30日

オリンパス元経営陣への賠償請求:590億円の支払い命令

 オリンパスの株主代表訴訟で、約586億円の賠償責任という判決が出た。
 光学機器大手オリンパスの巨額損失隠し事件で損害を与えたとして、同社と個人株主が旧経営陣ら18人を相手取り、計約897億円の損害賠償を同社に支払うよう求めた訴訟。
 東京地裁は27日、元会長ら8人に計約590億円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 判決によると、同社は1990年に運用していた株の大幅下落で損失が拡大。
 96年頃には資金運用の含み損が約900億円に達したが、海外ファンドに含み損を抱えた金融資産を移し替えるなどして損失を簿外で隠蔽。
 損失隠しは2011年に発覚。
 元社長ら3名は金融商品取引法違反に問われ、東京地裁で13年7月、執行猶予付きの有罪判決を受け、確定していた。
 オリンパス社は「会社に多額の損害を与えた」として元社長らを提訴。
 約37億円の支払いを求めた。
 同時に個人株主も株主代表訴訟を起こし897億円の賠償請求していた。
 今回の判決は両者を合わせた判断となる。

 判決は、菊川元会長ら旧経営陣について「簿外損失を公表する機会がありながら公表せず、損失隠しの中止や是正の措置も何ら講じなかった」と指摘。
 損失隠しによって、株主に本来の分配可能額を約586億円上回る配当が行われたとして、菊川、山田、森の3氏に約586億円の賠償責任を認めた。
 また、菊川氏らには、事件で同社が支払った課徴金の一部などの賠償も命じた。

 今回の賠償責任は、元経営陣8人に対するものだが、実質、元社長の菊川氏、元副社長の森氏、元監査役の山田氏に対するものだ。
 この3氏が損失隠しを主導した主役、他の5人は当時の経営陣として虚偽記載を防ぐ責任を果たせなかった脇役と認定された。
 主要3氏だけで586億円の賠償責任。
 これは、組織の賠償責任ではなく、個人の賠償責任という点が重要だ。
 単純に三等分したとしても、1人195億円。
 個人賠償としては、考えられないような額になる。
 
 被告の元経営陣らは、何も私腹を肥やそうと会社の金に手を出したわけではない。
 たぶん、本人らには、会社のためという経営判断で行なったものとの思いがあるだろう。
 だが、これだけの損失を会社にもたらしておきながら、自分は高額の役員報酬をもらい、退職金を満額手に入れているとしたら、自分の利益のために会社の利益を犠牲にしたも同然だ。
 私腹を肥やすために会社の金に手を出したのと同じことになってしまう。
 
 もう1つ、重要な点は、主役3氏だけではなく、脇役5氏にも賠償責任が認められたことだ。
 この5氏は、たぶん、損失隠しには直接関与していない。
 しかし、当時の役員として、損失隠しを知りうる立場にあったし、それを防ぐ責任があった。
 そのことを厳しく認定されたことになる。
 つまり、何かやらかしたことを責められているのではなく、何もしなかったことが責められているのだ。
 ただ役員会の場で、黙って座っているだけでは、いつ賠償責任を問われるか分からないということになる。

 さらに、賠償責任が認められた元役員の中には既に他界してい人もいるが、支払い命令はその遺族に出されている。
 賠償責任は死んでも許されないということだ。 
 
 仮にこの判決が確定したとすると、賠償命令が実行に移される。
 個人でこれだけの賠償に応じられるかどうか。
 世界的な富豪だったら小遣い程度の金額だが、普通は全財産を拠出しても足りないだろう。
 賠償請求に対して、自己破産は認められていない。
 当面の生活費だけを残して、強制的に身ぐるみをはがされることになる。

 菊川氏については、2012年の報道で、個人資産を親族に譲渡していたことが分かっている。
 今回のように個人賠償にまで発展することを見込んで、事件発覚直後から対策をしていたのだ。
 他にもあらゆる手段で、個人資産を分散させているのに違いない。
 このような行動は詐害行為とみなされ、すべての取引を取り消されることになる。
 相手が善意の第三者であったとしても、無理だ。
 取引の取り消しとは、取引自体がもともとなかったことにされるということだからだ。
 オリンパスの元経営陣らは、たぶん、逃げ切れない。

 中小企業の社長は失敗したら身ぐるみはがされるが、大企業の社長は、失敗しても辞任すれば退職金をもらって逃げ切れるというのが、昔の常識だった。
 ところが、いまは時代が違う。
 

 
posted by 平野喜久 at 18:30| 愛知 | Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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