遅ればせながら、福島原発事故のドキュメンタリーを読んだ。
このような本は、事故直後よりも、時間を置いてからの方が、落ち着いて読める。
大鹿靖明 著 『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社文庫)
船橋洋一 著『カウントダウン・メルトダウン(上)(下)』 (文春文庫)
原発事故関連の書籍はいろいろ出ているが、この2冊が最も内容が充実しているようだ。
関係者へのインタビューと周辺情報の取材がしっかり行われており、人々の動きや気持ちが手に取るようにわかる。
現場では何が起きていたのか、東電幹部らは何を考えていたのか、保安院や委員会は何をしていたのか、官邸はどう行動したのか。
まるで、小説でも読むようなリアルさで再現されている。
これが、フィクションではなく、現実に起きていたことだけに、胸に迫るものがある。
リアルタイムでは国民に何も知らされていなかったが、実際には、日本消滅の危機に瀕していたのだということが分かって背筋が寒くなる。
この2冊は同じ原発事故を取り上げており、当然、同じ場面が出てくるが、視点の置き所の違いか、本によってニュアンスが違うのが興味深い。
このような多面的な視点で事故を取り上げることで、真実が見えてくる。
事故時の対応で、菅直人総理の言動が批判されることが多い。
事故直後に、総理自身が官邸を離れて事故現場に押しかけ、現場を邪魔した。
東電本社に乗り込み、幹部や社員らをどやしつけて萎縮させた。
常にイライラし、周りの人間を怒鳴り散らし、誰も近づかなくなった。
これらの言動はどうやら事実のようだ。
だが、菅総理の立場に立ってみると、彼のイライラ感はよくわかる。
腑抜けのように当事者能力を失っている東電幹部。
責任放棄して逃げることしか考えていない保安院職員。
まともに判断できず適切なアドバイスもできない安全委員会。
その実態を知ると、菅総理でなくてもイライラを爆発させたくなる。
もちろん、官邸の対応にも反省すべき点はあっただろうが、政治家まで腑抜けになっていたり、逃げ腰になっていたりしなかっただけでも、よかったと思う。
官邸の中の1人が、「菅総理でよかった」と思わず漏らす場面が出てくる。
東電本社に乗り込み、「撤退はあり得ない! 死ぬ気でやれ!」と大声でどやしつけ、東電幹部らの表情が引き締まる場面だ。
ドラマだったら、ここがクライマックスになる。
確かに、菅総理だから、これができた。
その前の総理だったら、「トラストミー」「腹案がある」と言っているだけで、何も行動できなかったに違いない。
この本は、危機の臨んでのリーダーの在り方を考えさせる絶好のケーススタディになる。
2017年05月06日
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