2017年05月22日

地下天気図は使えない:地震予知最前線

 BS-TBS「諸説あり!」5月6日放送:「地震予知は本当に不可能なのか」
 番組の後半では、東海大学教授の長尾氏の研究が紹介された。
 長尾氏は、「地下天気図」という奇妙なものを使って地震を予知しようとしている。
 地下天気図というのは、地下の状態を天気図のように可視化したものだ。
 まず、過去に起きた地震の記録を地図上にプロットする。
 当然、地震活動が活発な地域とそうでない地域とが存在する。
 その活動度の変化を捉えて、天気図のように可視化するのだそうだ。
 例えば、活動が活発になっている地域は高気圧とみなして赤色に、活動が沈静化している地域は低気圧とみなして青色に表示される。
 この時、地震の予兆として注目するのは、意外にも、赤色ではなく、活動が沈静化している青色の方なのだ。
 どうも、大地震発生の直前に、その地域には地震活動が沈静化する現象が起きるので、それを捉えることができれば、地震予知が可能という理屈らしい。
 これも、なぜ大地震の前に沈静化現象が起きるのかは、よくわからない。
 だが、過去の大地震のデータを解析すると、地震発生の半年から1年ぐらい前に、その地域に青色の表示が強く現れるらしく、それが根拠になっている。

 番組では熊本地震の時のデータが紹介された。
 発生1年前の2015年4月の時点で、長崎と紀伊半島先端に青色エリアが現れた。
 この地域の地震活動が低下していることを意味している。
 嵐の前の静けさだ。
 これが6月になると、長崎の青色エリアは勢力を拡大し、紀伊半島の方は縮小していく。
 その後、いったん勢力は弱まるが、9月になってぶり返し、九州北部の青色だけが目立つようになり、他の地域の青色は姿を消していく。
 すると、10月には九州の青色も勢力が衰え始め、12月には消滅してしまう。
 消滅して4か月後に熊本で大地震発生となる。
 この予知法の特徴は、一番の異常データは地震発生の半年前に出るという点だ。
 実際に、このとき、長尾氏は九州北部で大地震が起きるかもと予想していたそうだ。
 「厳密には熊本とのずれがあるが、九州での異常を捉えていたことには変わりはない」と胸を張る。
 この研究も、熊本地震の前兆を捉えたとみるには、こころもとない。
 異常データが地震発生の半年前に現れること、そして、地震が起きた場所にピンポイントで現れるのではなく、そこからずれて現れること。
 地震予知には、「いつ」「どこで」が重要情報だが、この両方にずれが生じる予知情報は珍しい。
 「九州での異常を捉えていた」と言うが、九州といっても広い。
 他の地域の人から見れば、九州とひとくくりにしてしまえばどこも同じという印象かもしれないが、その土地のひとからすれば、福岡と熊本はまったく違う。

 また、この地下天気図の時間変化を見ると、別に気になるところが見るかる。
 地震が起きた2016年4月の天気図では、小笠原諸島から房総半島にかけて強い青色エリアが広がっているのだ。
 そのほかに、広島のところにも青色エリアが見つかる。
 異常データが出てから半年後に大地震発生というのなら、この地域に、半年後に大地震が起きていなければいけない。
 当時、長尾氏もリアルタイムでこのデータを見ていたはずで、この異常値を見て、熊本地震に続いて、首都圏や広島でも大地震が起きそうと予想していたのではないか。
 だが、そうはならなかった。
 この青色エリアについては地震の予兆ではなかったということになる。
 ということは、青色エリアは、地震の予兆になることもあれば、そうならないこともあるということだ。
 ここが非常にこころもとない。
 大地震が起きてから、その地域の過去のデータを調べて、異常値を見つけているだけという印象を受ける。
 
 番組では、熊本地震の直前に起きた三重県南東沖地震についても予兆を捉えていたと説明していた。
 2015年4月の段階で、紀伊半島先端と長崎で青色エリアが発生したが、このときの紀伊半島先端の異常値が、この三重県南東沖地震の予兆だったという。
 この時の地震はM6.1で最大震度4.
 ほとんど被害らしい被害は起きなかった。
 こんな小さな地震でも予兆を捉えることができたと言いたいようだが、説得力がない。
 ここの異常値が最大になったのは1年前。
 地震が起きてから、過去にさかのぼってデータを調べて異常を探しているという風にしか見えない。
 
 2016年10月に起きた鳥取中部地震も取り上げていた。
 熊本地震が発生した4月の段階で、広島に青色エリアが現れていた。
 この広島の青色は、6月になって急に勢力を拡大し、広島から島根にかけて広い範囲に広がった。
 7月にはさらにエリアを広げ、瀬戸内海、岡山まで広がっている。
 その後勢力は縮小し、地震発生時には広島北部から島根県の一部のエリアだけが青色に。
 これが、鳥取中部地震の予兆だったというのだ。
 これも、とても予兆には見えない。
 そもそも、震源だった鳥取県は、一度も青色に染まることはなかった。
 ずっと青色が続いたのは広島県だけだ。
 しかも、今度は、地震発生時に青色エリアは消滅していなかった。
 青色エリアは、半年から1年前に消滅するのではなかったのか。
 残念ながら、地震予知という観点で見たとき、「いつ」も「どこで」も外し続けているという印象しかない。
 番組内で長尾氏は、青色エリアが消滅していないことを捉えてこう言っていた。
 「もう1回、大きな地震が中国四国地方で発生する可能性が高い」
 これほど外していて、なお、予知しようとしている。
 この人にとって、中国四国地方はどこも一緒くたなのだ。
 このエリアのどこかで地震が起きれば、「予兆を捉えていた」ということになりそうだ。
 これほど広いエリアを長いスパンで捉えれば、地震が起きるのは当たり前だ。
 もうこうなると、怪しげな占い師の領域に足を踏み込み始めているように見える。

 こんな危なっかしいデータばかり紹介しているということは、ずばり「いつ」「どこで」を言い当てた異常データはまだ存在しないのだろう。
 この番組では、東日本大震災のデータは紹介されなかった。
 この異常データは、東日本大震災の予兆を捉えることがなかったのだということが分かる。
 紀伊半島沖のM6.1の地震は予兆を捉えたのに、M9の超巨大地震は予兆を捉えられなかったのだ。
 
 もちろん、まだまだ研究途上であり、完璧な予知を期待する方が無謀だ。
 地震予知に向けた基礎研究がようやく始まったところと考えれば、これらも貴重な取り組みと言えるかもしれない。
 だが、研究者の姿勢に疑問を感じる。
 安易に「予兆を捉えていた」とか、「予測が可能だ」などと言うからだ。
 時期がずれていても、場所がずれていても、近いからOKで当たったことにしてしまう。
 自分の研究が本物であると信じたいし、それが世の中の役になってほしいという強い思いがあるために、このようなやや大げさな物言いになってしまうのだろう。
 しかし、これは、占い師の姿勢であって、研究者の姿勢ではない。
 本当なら、ずれが生じたときこそ、そのずれに注目し、なぜずれが生じたのかを解明することが、本当の地震予知につながるのではないか。
 また、東日本大震災の時はなぜ予兆が現れなかったのか。
 そして、小笠原諸島から房総半島にかけて異常データが現れたのに、なぜ地震が起きなかったのか。
 ここにこそ、本質があるのではないだろうか。

 この番組で取り上げられた2人の研究者は、民間のうさん臭い地震予想屋とは違う。
 ちゃんとした研究者であり、科学論文があり、その研究内容が第三者によって検証できるからだ。
 地震予知は、現時点では無理であるにしても、いずれできるようになるかもしれない。
 そのためにはこのような地道な研究の積み重ねが必要なのだろう。



 

 
 
posted by 平野喜久 at 10:08| 愛知 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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