新型コロナウィルスのリスクが拡大し続けている。
いままで、新型感染症のリスクは何度も世界を襲ったが、幸いにも日本での被害はほとんどなかった。
2003年のSARSの時には、中国に始まり、世界に感染が拡大したが、日本だけでは感染事例がほとんどなく、死者も出ずに終わった。
この時、台湾や韓国では深刻な被害があり、その時の経験が今回の新型コロナの迅速な対応に生きているのだという。
2009年の時には新型インフルエンザが世界を襲った。
春先に日本にも感染が広がったが、夏場に一旦小康状態になり、秋ぐちになって再燃し始めた。
インフルエンザの最盛期1月2月に最大の山が来るだろうと警戒したが、インフルシーズンが来る前にいつの間にか立ち消えになった。
この時の経験から、「新型感染症といっても大したことないね」というのが日本での受け止め方だった。
ところが、今回だけは様子が違う。
武漢での謎の感染症発生直後から日本でもしきりに報道され、人々の関心を集めた。
最も注目されたのは、クルーズ船が横浜港に寄港したことによる。
日々、感染者や死者の数字が公表され、その深刻さを実感することになった。
このクルーズ船がなかったら、日本でもそれほど報道されず、人々の関心も高まらなかったかもしれない。
いま、コロナウィルスが日本社会に及ぼす影響は大きい。
だが、感染拡大や死者の増加という点で深刻になっているのではない。
諸外国に比べて、日本だけが極端に感染者や死者の数値が低く、そのことが世界の謎と言われている。
いまのところ被害を最小限に抑えることができている日本も、いつイタリアやフランスのように感染爆発を起こすか分からない状況にあり、予断を許さない。
さて、企業がパンデミックBCPを考えるとき、そのポイントは1つだった。
それは、職場の集団感染を起こさないことだ。
場合によっては、従業員に自宅待機を求めたり、一部の業務を縮小したりして、重要業務の継続に注力する。
感染症の拡大レベルに合わせて、業務対応の仕方を柔軟に変え、最悪の時でも最低限の機能維持を続けながら、状況回復を待つ。
感染が収束に向かってきたら、それに合わせ、少しずつ業務を復旧していき、通常業務に戻していく。
常に、感染拡大の状況を見ながら対応を考えるというところがパンデミックBCPのポイントとなる。
ところが、今回の場合、日本ではまだ感染爆発という状況にない。
にも関わらず、既に業種によっては業務に深刻な影響が出ている。
特に、観光業、宿泊業、飲食業、イベント業、旅客業などだ。
国や自治体による各種の自粛要請によって、ヒトの活動が激減した。
そのために、これらの業種については、売上が一気に消滅してしまった。
ヒトやモノなど経営資源は何も傷ついていないにも関わらず、突然、事業継続不能の状態に陥っている。
これは、従来のBCPでは想定してこなかったケースだ。
普通、需要の減少により経営難に陥るケースは、BCPの対象リスクにならない。
というのは、需要の増減は常に起こり得るものであり、それを想定しながら経営をするのが当たり前だからだ。
日常業務の中で経営を脅かすリスクは「経営リスク」と呼ばれ、BCPの対象リスクから外されるのが通例だ。
本来、BCPは、自然災害のように、我が社のコントロールではどうしようもないところで発生し、突然に我が社を非常事態に陥れるようなリスクを対象とする。
今回のコロナ禍による需要減は、一部は経営リスクに入るものだが、それを超えるような影響が出ている。
インバウンド狙いの観光業。
中国や韓国の団体客をあてにした業者が、いま窮地に陥っている。
これは、経営リスクに入る部分が大きい。
コロナ禍とは関係なく、もともとリスクが大きかった。
尖閣諸島で問題が起きただけで、中国の団体客が激減したことがあった。
韓国旅行客は、最近の日韓関係の悪化の時から減少が始まっていた。
京都では、ホテルの建設ラッシュが続いており、レンタル着物店が相次いで開店した。
ところが、当てが外れ、ホテルの建設予定が中断したり、レンタル着物店が閉店したりしている。
これらは、もともと不安定な需要に頼り切ったビジネスがリスクが大きいことの表れに過ぎない。
一方、ほとんど想定外の売上消滅も起きている。
飲食業、イベント業などがそうだ。
これらの業種も、社会情勢の変化で需要の変動は常にあるが、突然に売上が消滅することはない。
これは、明らかに世の中の自粛によるものだ。
そして、このような全世界レベルの活動停止状況というのは、感染症災害でなければあり得ない。
地震や風水害の場合は、被害が深刻だったとしても、対象エリアは限定的だ。
東日本がダメなら、西日本で代替ができる。
建屋や機械が傷ついたとしても、直ちに復旧すれば業務を立ち上げることができる。
ところが、新型感染症の場合は、逃げ場がない。
経営資源は何も傷ついておらず、復旧するすべがない。
学習塾が、オンライン授業に切り替えている。
老舗の旅館が、客間をサテライトオフィスとして貸し出そうとしている。
突然の需要消滅の中でも、知恵を出し合って何とか新規の需要に対応できる道筋を模索が始まっている。
今回のコロナ禍は、長期戦を覚悟する必要がある。
事業者も、国の支援策を待っているだけではだめだ。
この長期戦をいかに乗り越えていくかという生き残り戦略を考える段階にある。
2020年04月01日
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