2020年04月08日

タクシー会社の乗務員解雇:建前と本音のはざま

 朝日新聞の報道による。
 東京都内でタクシー事業を営むR社が、グループ会社を含む5社で約600人いる乗務員全員を解雇する方針であるという。
 同社グループは、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で業績が急激に悪化。
 緊急事態宣言で今後も回復が見込めないためだ。
 乗務員には「感染拡大が収束した段階で再雇用する。希望者は全員受け入れる」と説明したという。

 先の見えない中、雇用したまま丸抱えして経営が行き詰まり、休業手当すら払えなくなったら、従業員を路頭に迷わせることになる。
 それよりも、早々に解雇し、失業手当を受け取れるようにしてあげた方が、従業員のためだ。
 いきなり全員解雇というと非情な経営者というイメージだが、これは従業員の立場を慮っての行動だろう。

 このように、企業が突発的な非常事態に見舞われたとき、従業員を解雇してあげるということは実際によく行われる。
 ところが、今回のケースは大きな問題がある。
 それは、企業側が、「感染拡大が収束した段階で再雇用する」と約束してしまっていることだ。
 再雇用を約束した解雇では、一時帰休しているだけで、失業者にならない。
 それでは、失業手当をもらえないのだ。
 再雇用の約束を隠して失業手当をもらったら、それは不正受給ということになる。

 失業手当は、本当に失業してしまった人のためにある。
 突然に会社都合で解雇され、収入の道を断たれてしまった人に、次の職が見つかるまでの生活支援をするための制度だ。
 だから、失業中は、求職していることも条件となる。
 ハローワークに通い、職探しをしていなければならない。
 次の職が見つかるまでの生活支援なので、職を見つけようとしていない人に手当てが与えられるわけがない。
 更に、失業中は収入のある仕事をしていないことも条件だ。
 災害で会社が行き詰まり解雇された場合、元従業員が会社の後片付けや再開準備に呼び出されることがある。
 その時、ただ働きさせるわけにいかないので、いくらかの給金を出す。
 すると、収入があったということで、失業手当の受給資格を失う。
 収入があったのに、失業者を装い続けると失業手当の不正受給だ。
 これも当たり前の話だ。
 突然に収入の道を断たれてしまった人を救うための失業手当なのだから、収入のあった人に手当てが出るはずがない。

 失業手当の不正受給は公金の横領と同じなので、罰則は厳しい。
 給付金の返還を求められるのは当然だが、その2倍額の罰金が科される。
 つまり、不正受給は3倍返しなのだ。
 罰金が科されるのは、会社ではなく元従業員の方だ。

 企業が突発的な非常事態に見舞われたとき、解雇することで従業員を守るというのは、現実に行われることだ。
 だが、これは、見方によっては制度を悪用した不正になりかねず、公には推奨されていない。
 しかも、従業員に犯罪まがいの危ない橋を渡らせようとする一方、会社側はノーリスクである点も問題だ。
 ここには、本音と建前があり、そのはざまで有用されている手法ということになる。

 今回は、タクシー会社の側が、従業員をいきなり切り捨てる非情な経営者と思われないために、思わず口走ってしまったようだが、迂闊であったとしか言いようがない。


posted by 平野喜久 at 22:56| 愛知 ☀| Comment(0) | 世事雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: