15日に、みずほ銀行のシステム障害に関する調査報告書が公表された。
このシステム障害は、今年の2月28日から3月12日にかけて4回にわたって起きたATMをめぐるトラブルだ。
みずほ銀行は過去にもシステム障害を起こしており、「またか」との印象が強い。
過去のトラブルは、合併の際に複数の銀行系システムを統合する際のやむを得ぬ不具合があったのではと思われたが、今回のシステム障害は、過去の教訓を生かせず意識改革や事前対策がまったく進んでいなかった組織的な欠陥を露呈したようだ。
今回のシステム障害のポイントは2つある。
1つは、直接の原因であるシステムに不具合が起きたこと。
もう1つは、システム障害による顧客への影響が多大であったこと。
特に顧客への影響が広範で長時間にわたってしまったことが深刻な問題とされた。
顧客への影響は次の3つ。
1.ATMの稼働停止
2.通帳やカードの取り込み
3.一部の取引不能
この中で、深刻なのは通帳・カードの取り込みだ。
ATMに通帳やカードを差し込むと、取り込んだままエラー状態になり動かなくなってしまう。
利用客はここで困る。
そのうち担当者が駆けつけてくれて復旧してくれるだろうと思って待つが、その様子がない。
不用意にその場を離れ、その間にいきなり機械が動き出して、通帳やカードを排出したら、それを誰かに取られてしまう恐れがある。
これで、ATMも前で待ち続ける客が続出することになる。
みずほ銀のATM4300台で同じ現象が起きており、この通帳・カードの取り込み事案は5200件起きていた。
被害客にとって、その日の行動計画はすべて台無し。
中には7時間もの間、待ち続けた人もいたという。
なぜこれほどまでの影響が起きてしまったのかというと、それはみずほ銀の顧客対応の遅れによる。
初動から顧客対応の視点が完全に欠落しており、有効な対応が何もとれていなかった。
被害客に対しては、いち早く状況説明を行ない、「取り込まれた通帳やカードは後日に責任をもって返却すること」「今日は現場を離れても構わないこと」を伝えなくてはいけない。
だが、ウェブサイト上にメッセージが公開されたのが、障害発生から6時間たった午後4時。
7時間も待ち続ける人が出てしまったのはこういう事情だ。
なぜこのような緩慢な対応になってしまったのかについて、調査報告書では詳細に分析されていて、読みごたえがある。
この種の調査報告書は、依頼主への忖度から、「落ち度はあるものの、やむを得ない面もあった」という分析でお茶を濁すケースが多いが、この報告書は違う。
実態が弁護の余地のないほどの失態であるために、このような厳しい報告になったのだろう。
この報告書を読んで感じたことは、銀行にとってATMを利用するような一般客は、主要顧客ではないのではないか、ということだ。
いまや大規模都銀にとって、一般客は収益の源泉ではない。
特にATMサービスは、コストばかりかかって利益を生み出さない余分な業務だ。
金融機関の社会的責任としてやむを得ずサービス提供しているに過ぎない。
いわばボランティア。
ATMトラブルに迅速に対応し、一般客への影響を最小限に抑えようという意識がそもそも欠落しているように見える。
「いつでもお金が出し入れできるサービスがあるだけでもありがたいと思え」というのが本音かもしれない。
これが、システム障害の復旧が1分遅れるごとに数億円の損失が累積するのであれば、経営層は必死で対応するだろう。
ところが、システム障害による経営への影響は、ほとんどない。
現に、みずほ銀行の決算は絶好調で、前年比20.5%の増益だ。
システム障害の影響はどこにもないどころか、V字回復で躍進中。
システム障害の客対応が緩慢に失した背景は、ここにある。
2021年06月19日
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