2021年08月26日

ワクチンパスポートは未接種者の差別ではない

 ワクチンパスポートの是非について議論が始まっている。
 既に海外では、ワクチン接種が済んだ人にイベント参加や施設入場の許可を与えるために、入り口での証明書の提示を求める政策が実行されている。
 ワクチン接種がある程度進んできても、まだ集団免疫に到達した国は存在しない。
 だが、いつまでも行動制限をかけたまま放置すると社会経済活動が停滞してしまい、そちらの方の影響が深刻になる。
 それにワクチン接種したのに従来と変わらぬ生活では、何のためのワクチンかということにもなりかねないし、未接種者への動機づけにもつながらない。
 それで、ワクチン接種が済んだ人については行動制限を解除し、積極的に活動を促し、社会を動かす側に回ってもらわなくてはいけない。
 「ワクチン接種が済んだ人から、まず社会活動を」というのが本来の趣旨だ。

 だが、ワクチンパスポートの議論で必ず出てくるのが、「未接種者への差別につながらないか」という意見だ。
 例えば、イベント会場の入り口で接種者は入れるが、未接種者はお帰りいただくことになる。
 これは未接種者を社会から排除することになるというわけだ。
 だが、これは未接種者を不当に排除しているわけではなく、むしろ、未接種者を感染リスクから守る取り組みと解釈すべきだ。

 いまのデルタ株はその感染力が格段に強いのが特徴だ。
 専門家の中には、水疱瘡並みの感染力があるのではないか、との見解もある。
 水疱瘡は空気感染を起こすことで知られ、場合によってはすれ違っただけで感染する。
 デルタ株は、それほどの強力な感染力を持っているということだ。
 いま、ワクチン接種が6割以上で完了している国においても、新たな感染拡大が進んでしまっているのは、このデルタ株が未接種者を中心に広がっているからだ。
 それほどデルタ株の感染力が強い。
 ということは、ワクチン未接種者は、いま従来以上に強い感染リスクに晒されているということになる。

 ワクチン接種が最も進んでいる国の1つイギリスでは、いままで強力なロックダウン政策を実施してきたが、7月から制限の全面解除に踏み切った。
 ワクチン接種がある程度進んできたこと、重症化率も下がってきたことを見て、政府が決断した。
 このせいで、未接種者を中心にデルタ株の感染拡大が急上昇することになった。
 それでも、医療逼迫が起きなければよし、との判断だ。
 これは、今後のコロナ政策のモデルケースとなる。
 ある程度の感染リスクは受け入れながら、日常活動に戻っていく。
 いま、世界はこのイギリスモデルがどれだけ成功するのかに注目している。

 さて、このイギリスモデルは、ワクチン未接種者を感染リスクに晒す政策であることにお気づきだろうか。
 世の中が行動制限解除により、通常活動に戻る。
 すると、接種者は感染しにくいし感染したとしても重症化せずに済む可能性が高いが、未接種者は簡単に感染してしまうことになる。
 周りに接種者が増えて従来通りの活動をする人ばかりになるほど、未接種者が感染するリスクだけが高まっていくことになる。
 従来の常識では、ワクチン接種が6割に至れば、集団免疫に至り収束に向かうだろうと見られていた。
 だが、イギリスのケースを見ると、6割程度では足らないことが分かる。
 それほどデルタ株の感染力が強力なのだ。

 このデルタ株は、ワクチン接種が進むインドで発生した変異株。
 皮肉なことだが、ワクチン接種が進んでいたから、未接種者への感染力を強めたデルタ株が天下を取ってしまったのだ。
 ウィルスの世界は、一党独裁で、多党連立はありえない。
 ある種のウィルスが天下を取ると、他のウィルスは駆逐されてしまう。
 いま、世界を支配しているのは、このような性質を持つデルタ株だ。

 ということは、ワクチン接種が進んで世の中の制限解除が進むと、未接種者の感染リスクだけが上昇し続けることになる。
 これを避ける政策がワクチンパスポートなのだ。
 ワクチン接種が済んだ人は、積極的に活動してもらうが、未接種者を同じ環境に置くと感染リスクが高まってしまうので、未接種者だけは従来通りの感染対策を継続する必要がある。
 それで、接種者と未接種者を区別する必要があるのだ。
 これは、未接種者を不当に差別するためではない。
 未接種者を、増大し続けている感染リスクから守るために行われるものだ。
 そこのところの理解を促す説明が政府に必要だが、いまの総理をはじめとする担当閣僚の説明力のなさには絶望せざるを得ない。

 今後の日本政府の姿勢が見えるようだ。
 ワクチンパスポートの政策が検討されるが、「差別だ」との批判にひるんで、実行できないまま、ずるずると緊急事態宣言を出し続けることになりそうだ。
 ワクチン接種がいくら進んでも、政策転換しなければ、いつまでたっても制限解除ができない。
 これからは、接種者と未接種者を区別する政策の転換が求められる。
 これがなければコロナ禍のトンネルは抜けられない。
 政府はいいことも一杯やっているのに評価されていないだけ、という側面があることも認めるが、説明力のなさによりできる政策が実行されずにいることも確かなのだ。 
 
<補足>
 ワクチンパスポートについて、「偽造防止をどうするのか」という意見がある。
 未接種なのに、ワクチンパスポートを偽造して入場しようとする者がいるのではと心配しているのだ。
 これは、「ワクチンパスポートは、未接種者を排除して、接種者を守ることが目的」と誤解しているために出てくる意見だ。
 この政策は、接種者を守るのではなく、未接種者を守るためのものなので、嘘をついて入場してしまったら、その本人が感染リスクに晒されるだけの話なのだ。
 ワクチンパスポート偽造は、本人の利益にならず意味がないことが分かる。
 そういう意味でも、この政策を実行するときには、「これは未接種者を守るためののものだ」という意味付けを十分国民に納得させる必要がある。  
posted by 平野喜久 at 10:02| 愛知 ☁| Comment(0) | 世事雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: