10月29日、韓国・ソウルの繁華街、梨泰院で156人が死亡した転倒事故。
事故は長さ40メートル、横幅3.2メートルの狭い坂道で起きた。
非常に狭い空間で一度に大量の犠牲者を出した事故として注目される。
このような事故の検証には3つのステップが必要だ。
第1ステップ:事実の把握(何が起きていたか)
第2ステップ:原因の究明(どうしてそうなったか)
第3ステップ:再発の防止(どのように対策するか)
いきなり、原因を追究したり、責任の所在を論じたりする人がいるが、その前提となる事実の把握ができていないままであるために、百論百出の勝手気ままな議論になりがちだ。
まずは現場で何が起きていたかを確認することが求められる。
群衆雪崩は午後10時半ごろに起きた。
長さ40mの狭い路地の中ほどで始まったらしい。
気を失って倒れる人が出て、空いたスペースに周辺から流れ落ちるように人が押し寄せ、折り重なるように大勢が倒れたようだ。
この路地は、地下鉄出口からグルメ街道へ向かう近道であり、また、グルメ街道から地下鉄に向かう人にとっても近道になっていた。
両方向から人が流れ込み、狭い道路を対面通行している状態だった。
事故発生の数時間前からグルメ街道の方は過密状態が起きており、警察には通報が相次いでいたという。
この時点で混んでいるのはグルメ街道の方で、その過密を逃れようとする人が問題の路地に流れ込んでいる状態。
ところが、その間にも地下鉄からは次々に人が上がってきて問題の路地に向かう。
グルメ街道も過密状態が更に高まり、路地への流入が増加する。
それで狭い路地に両方向からの人流がぶつかり合うことになった。
やがて両方向から押し合い、どちらにも進めない状況となる。
それでも地下鉄からの人流は続き、グルメ街道からの流入も止まらない。
現場にいた人の証言から、このとき、「進め、進め」「押せ、押せ」と煽るような言動をしている人もいたという報道もある。
中には、「もっと押せ、俺らが勝とう」という声もあったという。
たぶん、群衆の中にいる人も両方向からの流れがぶつかり合っているために進めなくなっていることに気づいていたのだろう。
「こちらが引き下がってなるものか」「向こう側に引き下がらせろ」という勝ち負けの感覚に陥っていた人もいたのかもしれない。
路地の中ほどが両方向からの圧力が集中するところで、ここが最も危険だった。
中には立ったまま失神する人も出始めた。
失神者が1人だけなら、周りの人の圧力で立っているが、周辺の人が一度に失神すると、支えられずに塊になって倒れこむことになる。
これが引き金になって群衆雪崩がおきたようだ。
10時半ごろに路地の中ほどで群衆雪崩が発生するが、ヒトが倒れた後も後続がぐいぐい押してきたという証言がある。
群衆雪崩が起きると、一瞬圧力が下がり前方にスペースができる。
そのスペースを埋めるように後ろの人びとが前へ押し寄せてしまうのだ。
後方では前方で何が起きているか分からない。
前方にスペースができて進むことができるようになったので、「ようやく動き出した。それ行け行け」となってしまったのかもしれない。
残されている映像を見ると、警察官や警備員の姿はどこにもなく、全体を見渡してコントロールしている人がいないことが分かる。
群衆の中には「戻れ戻れ」と手を振って後方に合図を送っている人もいたし、沿道の建物のベランダから眺めている人が群衆の人々を誘導しようとしている姿もあったが、これらの指示や誘導が正しかったのかどうかは分からない。
群衆雪崩発生から、警察官やレスキュー隊が到着したのが1時間後。
それでも、周辺は人であふれかえっており、現場に近づけない。
ようやく救助が始まったのが0時前だったという。
心肺蘇生があちこちで行なわれたが、遅すぎた。
心肺停止から数分で蘇生の可能性は急激に下がる。
数時間後では蘇生は不可能だ。
一度に大量の犠牲者を出してしまった背景にはこのような状況があった。
2022年11月02日
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