2024年04月02日

500年後、日本人の姓は佐藤だけ?:奇妙な別姓推進論

 共同通信の報道で、奇妙な別姓推進論が注目を浴びた。
 エイプリルフールのジョークだということは承知で、あえて批判的に論評する。

 東北大の吉田浩教授が結婚時に夫婦どちらかの姓を選ぶ現行制度を続けると、2531年に日本人の姓がみんな「佐藤」になる可能性があるという試算結果を発表した。
 なぜこうなるのかという理由はこうだ。
 現行制度が続いた場合、いま最も多い佐藤姓との婚姻が増え、これを繰り返して長い時間を経ると佐藤姓に吸収されていく可能性があるという。
 結婚や子の誕生などで佐藤姓の人口が年0.8%ずつ増え、2531年には100%になるというシミュレーション結果がでたらしい。
 ところが、選択的夫婦別姓を導入した場合は、佐藤姓の占有比率が100%になるのは3310年だったという。
 姓の多様性を維持したければ、選択的夫婦別姓に切り替えよ、というのが結論のようだ。
 なんとも違和感だらけのシミュレーションだ。
 
 中国や韓国では、原則的夫婦別姓制度になっているが、姓の多様性は見られない。
 両国とも姓は数百種類に限られる。
 上位10種類ぐらいで大半を占める。
 一方日本の姓はバリエーションが多いことで知られる。
 数十万種類あるという。
 この実態を見ただけでも、夫婦別姓で姓の多様性が維持できるという主張は大外れだということが分かる。

 そもそも、婚姻によって、多数派の佐藤姓が主流になるという理屈が意味不明だ。
 日本では、スマホがガラケーを駆逐していった。
 これと同じようなことが姓でも起きるかのようだ。
 姓は流行や時代の流れで増えたり減ったりするものではない。
 佐藤姓が一番多かったとしても、どれだけ婚姻を繰り返そうが、佐藤姓が全国制覇する事態はあり得ない。

 簡単にシミュレーションしてみよう。
 いま10000世帯があるとする。
 日本には佐藤と田中の2種類しか姓がないとする。
 佐藤が6割、田中が4割と比率に差をつける。
 少子化が進んでいるので、1世帯に子供は1人だけとする。
 結婚した夫婦は夫の姓をなのるとする。

 そうすると、第2世代では10000人の子供ができる。
 佐藤姓の子供が6000人、田中姓の子供が4000人となる。
 佐藤姓6000人の内、男は3000人、田中姓の男は2000人。
 第2世代が結婚すると、佐藤家が3000、田中家が2000できることになる。
 少子化により、世代を経るごとに人口は半分になるが、佐藤と田中の比率は変わらない。
 第3世代も更に人口が半分になるが、佐藤と田中の比率は、3:2のままだ。
 どれだけ世代が進んでも、佐藤姓に吸収されて、田中姓がなくなることはない。
 
 では、夫婦別姓ではどうなるのか。
 分かりやすくするために、全員が夫婦別姓とする。
 第1世代の世帯数と佐藤と田中の比率も同じ。
 子供は1人だが、どちらの姓を残すかはランダムに決める。
 これでシミュレーションすると、第2世代は、佐藤佐藤の夫婦が1800、田中田中の夫婦が800となる。
 この場合は、第3世代は自動的に佐藤1800人、田中800人となる。
 問題は、佐藤田中、田中佐藤の世帯数。
 計算すると佐藤田中は1200、田中佐藤も1200となり、合わせて2400だ。
 この夫婦の子供は、佐藤か田中かはランダムに決めるので、第3世代は1200が佐藤、1200が田中となる。
 すると、第3世代全体では、佐藤3000人、田中2000人となる。
 これは、何のことはない、夫婦同姓の場合と同じになるのだ。
 同姓だと姓の多様性が失われ、別姓だと多様性が維持できるとは、どういう理屈なのかまったく不明だ。

 吉田氏はシミュレーションの中で、佐藤姓が年に0.8%ずつ増加すると決めつけている。
 これは仮定でこういう数値を設定したとは言っておらず、分析の結果こうなることが分かったかのような表現だ。
 どういう分析でこんな数値が出てきたのか語られていない。
 実際の数字にあたってみると、22年から23年にかけて佐藤姓の人口が0.8%増加していることが確認される。
 なるほど、この数字を使ったようだ。
 佐藤姓の増減は、年によってまちまち。
 年によっては、ほとんど増えていないこともあるし、減少していることもある。
 単年度では、わずかながら増減を繰り返しているが、長期にならすと、ほとんど変わらないということになる。

 吉田氏は、たまたま0.8%増加している年を見つけたため、それをピックアップして、今後毎年0.8%ずつ佐藤姓が増加するとどうなるかを計算したようだ。
 しかも、この0.8%増加の原因が、夫婦同姓の現行制度によるものと勝手に決めつけている。
 偶然現れた自説に都合のいいデータだけをピックアップし、シミュレーションのパラメータとするのは、研究者がもっともやってはいけないことだ。

 佐藤姓だけでなく、田中姓だって年によるわずかな増減を繰り返しているだろうことは容易に予想できる。
 「武者小路」という珍しい姓でも、僅かに増加している年が見つかるかもしれない。
 とすると、同じ方法で、田中姓が全国を席巻するシミュレーションも可能だし、武者小路姓が全国制覇をするシミュレーションさえできてしまう。
 ほとんど人をおちょくったような分析だ。

 「選択的夫婦別姓を導入した場合は、佐藤姓の占有比率が100%になるのは3310年」というシミュレーションも、どのような計算で出されたのか不明。
 別姓なら姓の多様性が維持できるといいながら、結局は佐藤だけになるときが来るという矛盾。
 たぶん、いまのペースで少子化が進行することを前提にシミュレーションしたのだろう。
 すると、3300年ごろには日本人は絶滅寸前になっており、その時、最後の1人に残る可能性が最も高い姓は、佐藤ということなのだろう。
 別姓でも最終的には佐藤姓100%になってしまうのは、こういうわけだ。
 どうせ恣意的に数値設定して遊んでいるだけなので、解明しようとするだけ無駄。
 
 この研究もどきは、一般社団法人「あすには」からの依頼で行われたという。
 「あすには」は選択的夫婦別姓の実現を目指している団体だ。
 依頼主の要望に合わせて、無理やり導き出したシミュレーション。
 たぶん、本人でもこの主張には無理があることが分かっているのだろう。
 エイプリルフールに発表したのは、「これは単なる数字のお遊びです」との言い訳を含んでいるためだ。

 吉田氏は、こうも言っている「姓の持つ伝統や文化、個人の思いを尊重するための、姓の存続を考えるべきではないか」
 なんと的外れなコメントか。
 別姓推進は、伝統や文化を破壊し、姓の存在意義を失わせようとする活動であることが分かっていない。
 それにしても、このようなでたらめなシミュレーションを大学教授の名前で拡散させ、選択的別姓を進めようとする推進派のいやらしさよ。
 そして、学者のジョークを嬉々として報道するメディアのうさん臭さよ。
 
posted by 平野喜久 at 12:07| 愛知 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 世事雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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