水原一平氏が大谷選手の口座から24億円以上をだまし銀行詐欺容疑で訴追された。
水原氏はスポーツ賭博の借金を返すために無断で送金を続けていた。
勝ちは総額218億円、負けは280億円。
差し引き、62億円の借金を負っていたようだ。
完全に金銭感覚が麻痺していたことがうかがえる。
最初は少額で遊ぶ程度だったものが、負けを取り戻すために金額がかさんでいき、ついに億単位の賭けに手を出すようになる。
過去に218億円もの勝ちを経験していることが恐ろしい。
この経験が、60億円ぐらいのマイナスは簡単に取り戻せると錯覚させる。
これが、ギャンブラーが深みにはまっていく心理だろう。
賭けの回数は、2年余で1万9000回に及んだという。
1日平均25回にもなる。
水原氏は、ほとんど四六時中、ギャンブルのことが頭から離れなかったのではないだろうか。
その間も、普通に通訳の仕事をこなし、大谷選手の脇で笑顔で対応していた。
どのような心持だっただろう。
水原氏は一人でもがき苦しんでいたのではないか。
誰にも打ち明けられず、誰にも相談できず、泥沼に沈み込みながら、何とか自分一人で脱出しようとしていたのではないか。
もしかすると、違法賭博の胴元から近づいてきて、はめられたのかもしれない。
普通の通訳だったら、60億円もの借金を胴元が許すはずがない。
大谷選手のバックがあることを承知しているから、いくらでも貸し付けることができたのだ。
それを思うと、彼を単なる極悪人で切って捨てることができない。
彼の周りの人間は、彼がギャンブルの泥沼にはまり苦しんでいることに気づかなかったのか。
その予兆が分かれば、未然に救うことができた。
彼の苦しみが分かれば、大谷選手の金を騙し取るなどという犯罪者に転落することを防ぐことができた。
不思議なのは、何回にもわたって、大谷選手の口座から不正送金が繰り返されていたのに、誰もそれに気づかなかったこと。
大谷選手は自分の資金管理に興味が薄いらしく、出入金の動きは把握していなかったようだ。
だが、顧問税理士は何をやっていたのか。
1年以上、口座の動きを見ていなかったことはあり得ない。
送金の形跡は把握していたものの、異常とは見抜けなかったか。
銀行も不正送金の繰り返しを見過ごした。
もちろん、電話で本人確認をしただろうが、本人の代理として通訳が応答していたとしたら、確認になっていない。
大谷選手の身の回りで彼をサポートしているのが水原氏一人のままであったことも問題だった。
大谷選手はいまや1000億円プレーヤーになっているのだから、それなりのサポート体制に格上げすべきだった。
複数人によるサポートになっていれば、水原氏ひとりで不正送金は難しくなる。
大谷選手の口座から出金や送金を行うときには、複数チェックを経て行うというルールができていれば、水原氏が銀行詐欺を犯すこともなかった。
水原氏の転落の原因はここにある。
どんなにギャンブルにのめり込んでも、不正送金ができない仕組みになっていれば、銀行詐欺はできない。
どんなに胴元にはめられ、脅されたとしても、大谷選手の資金に手を出すことはなかった。
逆に言うと、水原氏が簡単に大谷選手の口座から不正送金ができそうだから、胴元にはめられたということもできる。
これが鉄壁のセキュリティで、どんな手を使っても大谷選手の資金に手を付けることは不可能だということが明らかなら、胴元は通訳を相手に何億ものカネを貸し付けることはしないだろう。
水原氏は、深い谷にかかる橋の上を歩かされていた。
その橋には手すりがない。
落下防止の安全ロープもない。
少し躓いただけで、転落してしまう状態だった。
この状態で、「躓いたヤツが悪い」と言えるか。
誰もが間違いを犯すことがある。
誰もが魔が差すことがある。
それでも、安全柵に守られていれば、犯罪者に転落することは免れる。
企業のコンプライアンスで、問題になるのはこれだ。
会社のカネを横領したり、機密情報を持ち出したり、製造ラインの食品に毒物を混入させたり、という従業員による不正を防ぐためにはどうするか。
教育を徹底する?
悪い従業員に厳罰を科す?
そもそも当社にそんな悪い従業員はいない?
答えは、不正を働こうと思っても実行不可能な仕組みを作ることだ。
これは、従業員を疑っているためにルールやチェックを厳しくするわけではない。
善良な従業員を犯罪者に転落させないために安全柵を設置するということなのだ。
水原一平氏の転落事例は、企業のコンプライアンスを考えるときの格好の教材になりそうだ。
2024年04月25日
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