2007年11月18日

要注意:保険活用の税金対策

 企業の税金対策は、経営者にとって興味深いテーマだ。
 たった数%でも、コストダウンを行おうとする場合は相当の努力を必要とする。
 節税だったら、ちょっとした帳簿上のテクニックで数十%も税金が安くなったりすることがある。
 経営者が関心を示すのも当然。
 また、そこにターゲットを絞って、節税コンサルを売りにする専門家が登場するのも当然。

 で、節税テクニックの中には、危なっかしいものも多い。
 このブログで以前から取り上げているのが、保険活用の税金対策である。
 解約返戻率の高い生命保険を利用し、簿外に含み資産を蓄積し、税金を安くしながら、いざというときの資金確保ができるというもの。

 このテクニックの最大のネックは、解約返戻金が益金になってしまうということ。
 ここで課税されたのでは、節税効果は全くなくなってしまう。
 それどころか、対策したために損をすることになる。
 それで、返戻金の益金対策が必要になるのだ。

 返戻率のピーク時に役員の退職金の支払いを計画する。
 これは、有効だ。

 では、取引先の倒産で売掛金の焦げ付きが発生した時の資金手当てには?
 緊急に資金手当てをする必要がある場合は、この生命保険の解約返戻金を利用するというのは、急場をしのぐための1つの手法ではある。
 しかし、これが得かどうかは全く別。
 売掛金が焦げ付いたとしても、返戻金には課税される。
 焦げ付きによって、決算書上の大きな損失に至るような事態になったときにはじめて、課税が免れることになる。

 このテクニックによる節税対策は、返戻率のピーク時に解約することで節税効果が最大となる。
 ということは、ピーク時の返戻金を相殺できる損失を見つけなければいけない。
 売掛金の焦げ付きは、いつ起きるかわからないのでダメ。
 地震対策も、同じ。

 ある保険業者は、こう言っていた。
「大きな設備投資を計画して、それにあてればいい」
 設備投資は、単年度で全額償却できない。
 これも、資金手当てにはなっても税金対策にはならない。
 
 「では、不良在庫をその時に処分してその損失と相殺すればいい」 これなら節税になりそう。
 でも、解約返戻金のために、不良在庫をその時まで抱えておくのか?
 これは、経営のための節税対策のはずが、節税対策のための経営になってしまっているではないか。
 不良在庫がたまっているのなら、解約返戻金を待たずに、通常の決算で、随時、処分していった方が、節税効果は高い。
 節税対策としても、不十分だ。
 
 そして、新たなテクニックを紹介している節税コンサルを発見。
 保険の解約に合わせた経営を行っていたのでは本末転倒であることを批判した後、とっておきのテクニックを披露する。

「戻ってくるお金と同額の評価上の損失があれば、戻ってきたお金に税金はかかりません」

 帳簿上で評価額を変えるだけで損失を発生させられるということだ。
 実際に在庫を処分しなくても、帳簿をいじるだけで簡単。
 それに、資金の流出も起きていない。
「なんて、素晴らしいアイデアだろう」

 だが、これもダメ。
 これも不良在庫の処分と同じなのだ。
 結局、返戻金に合わせて経営を行っていることに変わりはない。
 
 「評価損による損失は、帳簿上だけの話なので、キャッシュアウトを伴っていないので得策」
 と、この節税コンサルは言う。
 しかし、不良在庫の処分でも、キャッシュインはあってもキャッシュアウトはない。
 キャッシュアウトがあるかどうかは本質ではないのだ。

 また、無理に評価損を出したために、将来、処分したときに思わぬ処分益が発生してしまったら、そこでの課税は免れない。
 これでは、何のための節税か。
 
 節税コンサルは、節税テクニックにおぼれるあまり、経営の本質を見失っているように見える。 
 


posted by 平野喜久 at 10:40| 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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