2008年03月25日

未来思考型のリスクマネジメント

 未来思考型のリスクマネジメントを紹介しよう。

 リスクマネジメントは、通常は過去検証型である。
 ある結果をとらえて、どうしてこうなったのか、を過去にさかのぼって検証する。
 しかし、これには限界がある。
 実際に起きてからでないと検証できない。
 事件や事故が起きる前に手を打たなければいけないのに、起きてから検証していたのでは、手遅れ。
 また、まだ起きていないことは、対応不能。
 「まさか、こんなことが起きるとは思っていませんでした」ということが簡単に生じる。
 緊急事態に政府や行政の対応が後手後手に回りがちなのは、このせいだ。

 そして、過去にさかのぼって事実を検証するのは様々なハードルがあって難しい。
 過去の出来事を正確にトレースするのは不可能。
 残された記録や関係者の記憶に頼って検証するしかない。
 それらがあいまいだった場合、検証らしい検証ができないまま、適当なところで折り合いをつけるということになりかねない。
 そして何よりも強いのが、当事者の心理的抵抗である。
 どうしても、責任を逃れたいという心理が働き、事実を隠ぺいしたり、矮小化して伝えたりする。
 本当の原因究明はないがしろにされ、多くの労力をかけた割に、玉虫色の結論しか得られないということになる。

 これらの欠点を克服しようというのが、未来思考型のリスクマネジメントだ。
 その1つ、サボタージュアナリシス。
 これは、どうしたら事故を防げるか、と考えるのではなく、どうしたら事故を起こせるかという視点で考える。
 たとえば、「確実にテロを成功させるにはどうしたらいいか」と、テロリストの立場になって考えるのだ。
 そうすると、様々なアイデアが浮かんでくる。
 このテロを成功させる方法を阻止することを考えるのが、いま取るべきテロ対策ということになる。

 これなら、起きてからでないと対策が立てられないということはない。
 「まさか、こんなことが起きるなんて」などというとぼけた反応もなくなる。

 これは、実際にテロ対策では行われている手法だが、私たちの日常のビジネスや生活にも応用できる。
 「確実に大火災を発生させるにはどうすればいいか」
 「確実に死亡事故を起こすにはどうしたらいいか」
 このように考えると、さまざまなリスクが見えてくるではないか。
 この未来思考型の特徴は、リスク感度が鋭くなるということである。
 リスクリテラシーの向上に、ぜひ、この未来思考型のリスクマネジメントをお勧めしたい。
 以下の書籍に詳しい。

 溝口学著『創造的リスクマネジメント』同友館

 ところで、不幸な出来事を引き起こすことを積極的に考えるというのは、不謹慎とのそしりを招きかねない。
 日本人は、不謹慎なことを考えるのが苦手。
 それで、どうしても、何か起きるまでは何も考えない。
 何かが起きてから、あわてて対策を感がるということになりがち。
 不謹慎なことを考えるのがリスクマネジメントと、ドライに割り切ってとらえるしかない。
posted by 平野喜久 at 10:50| 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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