未来思考型のリスクマネジメントを紹介しよう。
リスクマネジメントは、通常は過去検証型である。
ある結果をとらえて、どうしてこうなったのか、を過去にさかのぼって検証する。
しかし、これには限界がある。
実際に起きてからでないと検証できない。
事件や事故が起きる前に手を打たなければいけないのに、起きてから検証していたのでは、手遅れ。
また、まだ起きていないことは、対応不能。
「まさか、こんなことが起きるとは思っていませんでした」ということが簡単に生じる。
緊急事態に政府や行政の対応が後手後手に回りがちなのは、このせいだ。
そして、過去にさかのぼって事実を検証するのは様々なハードルがあって難しい。
過去の出来事を正確にトレースするのは不可能。
残された記録や関係者の記憶に頼って検証するしかない。
それらがあいまいだった場合、検証らしい検証ができないまま、適当なところで折り合いをつけるということになりかねない。
そして何よりも強いのが、当事者の心理的抵抗である。
どうしても、責任を逃れたいという心理が働き、事実を隠ぺいしたり、矮小化して伝えたりする。
本当の原因究明はないがしろにされ、多くの労力をかけた割に、玉虫色の結論しか得られないということになる。
これらの欠点を克服しようというのが、未来思考型のリスクマネジメントだ。
その1つ、サボタージュアナリシス。
これは、どうしたら事故を防げるか、と考えるのではなく、どうしたら事故を起こせるかという視点で考える。
たとえば、「確実にテロを成功させるにはどうしたらいいか」と、テロリストの立場になって考えるのだ。
そうすると、様々なアイデアが浮かんでくる。
このテロを成功させる方法を阻止することを考えるのが、いま取るべきテロ対策ということになる。
これなら、起きてからでないと対策が立てられないということはない。
「まさか、こんなことが起きるなんて」などというとぼけた反応もなくなる。
これは、実際にテロ対策では行われている手法だが、私たちの日常のビジネスや生活にも応用できる。
「確実に大火災を発生させるにはどうすればいいか」
「確実に死亡事故を起こすにはどうしたらいいか」
このように考えると、さまざまなリスクが見えてくるではないか。
この未来思考型の特徴は、リスク感度が鋭くなるということである。
リスクリテラシーの向上に、ぜひ、この未来思考型のリスクマネジメントをお勧めしたい。
以下の書籍に詳しい。
溝口学著『創造的リスクマネジメント』同友館
ところで、不幸な出来事を引き起こすことを積極的に考えるというのは、不謹慎とのそしりを招きかねない。
日本人は、不謹慎なことを考えるのが苦手。
それで、どうしても、何か起きるまでは何も考えない。
何かが起きてから、あわてて対策を感がるということになりがち。
不謹慎なことを考えるのがリスクマネジメントと、ドライに割り切ってとらえるしかない。
2008年03月25日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック