内閣官房「国土強靭化貢献団体の認証に関するガイドライン」にもとづく第2回レジリエンス認証取得団体が公表された。
今回の認証団体は。20団体。
第1回が44団体だったから、半分以下に減っている。
製造業7社、建設業3社、卸小売3社など、業界は多岐にわたる。
団体名を見てみると、有名な大企業が目につく。
第1回の時と同じだ。
これは、申請企業が大企業に偏っているためだろう。
認証団体が半数以下に減少したのも気にかかる。
レジリエンス認証の認知度が低く、申請件数が減っているからか。
それとも、申請数は増えていても、認証レベルの団体が少なくなっているためか。
私が顧問をしている企業も今回のレジリエンス認証に申請し、無事に認証取得にい成功した。
従業員数100名に満たない中小企業だが、社長のBCPへの取り組み意欲が高く、社内を挙げて取り組んでいる。
せっかくの取り組みを形に表すため、この成果をレジリエンス認証に挑戦したらどうかと提案した。
申請書類の作成や、第2次審査の社長ヒアリングの対策などお手伝いをさせていただいた。
取り組みの実態をありのままに見ていただくという方針のもと、審査に臨んだが、特に厳しい指摘や質問を受けることもなくクリアできたようだ。
このレジリエンス認証は、厳しく審査して落とすことを目的としたものではなく、BCPの普及のために、まじめに取り組んでいる企業は積極的に応援していこうというところに主眼がある。
だから、中小企業の実態にあった審査が行われ、地道な活動実績が認められ認証取得となったものと思われる。
実は、第1回の認証団体を見ると、東京の大企業ばかりが名を連ねているので、少し不安になっていた。
もしかしたら、大企業の先進的な取り組みしか認めないのではないか。
大企業と同じ基準で中小企業も審査しているのではないか。
だが、それは全くの杞憂だった。
レジリエンス認証は、BCPにまじめに取り組んでいることを第三者の目で認めてもらう制度だ。
BCPに取り組んでいる企業は増えてきたが、それがまともな内容なのかどうかは、よくわからない。
取り組んでいる当事者もこれでいいのか分からないし、ましてや、取引先など社外の人間には、その会社のBCPがまともなものかどうか確かめようがなかった。
それが、この認証取得に挑戦することで、BCPに取り組む場合の目指すべきレベルがはっきりわかるし、客観的にもその会社のBCPがどのレベルにあるのかが分かるようになった。
第1回のレジリエンス認証取得団体に認定されたある中小企業は、この認証マークをさっそく会社のPRに使っている。
名刺、パンフレット、ウェブサイトなど、あらゆるところに掲示し、我が社のBCPをアピールしている。
別途、印刷冊子を用意し、問い合わせがあれば、直ちにそれを渡せるように準備しているという。
このレジリエンス認証は、特別に難しいことを求めていない。
まじめにBCPに取り組んでいる企業であれば、十分認証取得できる。
ただし、そこには明確な審査基準が設けられており、その基準に満たないものは厳しく排除されるようだ。
審査基準は単純だ。
防災とBCPの違いを理解していること。
BCPの内容を経営トップが理解し、率先して推進していること。
事前対策、教育訓練、見直し改善が行なわれているか。
このあたりが重点的にチェックされる。
まじめに取り組んでいる企業にとっては、何も難しいことはない。
ありのままを見てもらえれば、簡単にクリアできる。
しかし、取り組み方が間違っている企業はクリアは難しい。
例えば、防災とBCPを混同して取り組んでいるケース。
部下に丸投げで、社長がBCPを理解していないケース。
とりあえずBCP文書は作ったが、これに基づいた活動実績がないケース。
これらの場合は、書類審査の段階で厳しい指摘を受けることになる。
この認証制度の目的や意義を理解しないままの申請して認証取得にいたるのは難しい。
この認証には様々な項目に分けて細かく情報提供が要求されており、それぞれの要求項目が何を求めているのかを理解するのが難しいのだ。
中小企業の場合は、専門家の支援があった方が認証取得はしやすいだろう。
2016年12月28日
2016年12月01日
レジリエンス認証を目指そう
2016年からレジリエンス認証がスタートした。
レジリエンス認証とは、政府の内閣官房国土強靭化推進室が行う施策で、国土強靱化の趣旨に賛同し、事業継続に関する取組を積極的に行っている事業者を「国土強靱化貢献団体」として認証する制度だ。
「国土強靭化貢献団体」というと何のことか分からなくなるが、平たく言うと、「まじめにBCPに取り組んでいる事業者を国が応援しよう」という制度ということになる。
いま、国策として国土強靭化政策が進められているが、これは、国や自治体が対策をすればいいというものではない。
民間の事業者も、同じように準備を進めてくれなくては、本来の国土強靭化にならない。
民間事業者のBCPの取り組みは一部で取り組まれているものの、全体的な普及が進んでいない。
普及が進まない理由としてはいろいろあるが、その中の1つとして、BCPに取り組むことのインセンティブが働かないということが挙げられる。
つまり、せっかく苦労してBCPに取り組んだとしても、誰かに評価されるわけでも認められるわけでもないとしたら、ただ勝手に取り組んでいるだけで、そのメリットが感じられないというわけだ。
そこで、まじめにBCPに取り組んでいる事業者を国が積極的に認めて、その活動を応援しようということになった。
それが、このレジリエンス認証だ。
レジリエンス認証制度に表向き「BCP」という言葉はあからさまに出てこない。
だが、その目的はBCPの普及にある。
BCPという言葉を避けているのは、この言葉が欧米発祥の概念であるし、国際規格にもBCP関連のものがあるために、それらとは別の日本独自の制度であることをはっきりさせる意味があるのだろう。
BCPという言葉は使われていないが、やっていることは、ずばりBCPそのものだ。
中小企業の中には、せっかくBCPに取り組んでいるものの、それで十分なのか不十分なのか、方向性があっているのか間違っているのかが分からないまま不安の中での取り組みになっている場合がある。
そのような場合は、このような認証制度は非常にありがたい。
この認証を得ることで、我が社のBCPは一定レベルにあることを客観的に証明される。
認証を受けると、認証マークの使用を許可されるので、それを内外へのアピールに使うことができる。
これが国の認証であることは、取引先に対しても絶大の信頼になる。
自社の案内パンフレットや名刺、ウェブサイトに、認証マークを表示し、我が社のBCPをアピールできる。
この認証制度を知らない人でも、このマークを見れば興味を示してくれるので、それをとっかかりにして、我が社の取り組みを知っていただける。
この認証制度は、ISOのような国際規格と違い、日本の事業者の実態に合った審査が行われており、現実的で意味のある制度になっている。
この認証制度の審査で重視されているのは、活動実績だ。
つまり、BCP文書を作りましたというだけでは評価しない。
BCP文書を作ることは当たり前だが、それだけでBCP活動が終了するわけではない。
BCPを策定すれば、実際にそれに則った事前対策が行なわれなくてはいけない。
行動計画があれば、それに基づいた教育訓練が行われなくてはいけない。
BCPの見直しは常に行われているはずで、見直しのたびにバージョンアップがなされていなくてはいけない。
そのような活動が行われているのかどうかが審査のポイントになっている。
単なる文書主義や形式主義に陥ることなく、BCPの実効性に焦点を当てているところが特徴だ。
もう1つの特徴は、経営トップの積極的な関与を求めていることだ。
認証審査は、1次と2次に分かれる。
1次審査は書類審査だが、2次審査は経営者ヒアリングが行なわれる。
この意味は大きい。
つまり、BCPは経営トップが関わるべき重要課題という位置づけを求めているのだ。
総務の一担当者に任せっきりで、社長が感知しないというケースがあるが、この認証制度は、それを認めない。
だから、面談による審査で、社長自身がBCPの内容を理解し、率先して活動を進めているかどうかが問われることになる。
この認証制度で、求められる項目は多岐にわたるが、いずれも、まじめにBCPに取り組んでいる企業であれば、当たり前の内容ばかりで難しいことは1つもない。
制度の趣旨がBCPの普及であり、厳しい審査で不合格を出すことは求められてない。
むしろ、活動を応援してくれる制度だと理解したほうがいい。
事業者の実態に合った審査をしてくれるところもありがたい。
中小零細事業者が大企業と同じ評価基準で機械的にチェックされたら、すべて不合格になってしまうだろう。
大企業は大企業にあったBCPがあり、中小零細事業者にはそれにふさわしいBCPがある。
少々取り組み不十分なところがあったとしても、そこを指摘して、今後の活動の在り方をアドバイスしてくれる。
そういう意味では、中小企業にとっても対応しやすく、意味のある制度になっている。
大企業は、BCPの取り組みは行われていて当たり前で、このような認証をわざわざ取得するメリットは少ない。
中小企業の場合、この認証取得のメリットは大きい。
むしろ、中小企業へのBCP普及のために設けられた制度と言ってもいい。
BCPに取り組む場合、このレジリエンス認証取得を1つの目標に置くことをお勧めしたい。
レジリエンス認証とは、政府の内閣官房国土強靭化推進室が行う施策で、国土強靱化の趣旨に賛同し、事業継続に関する取組を積極的に行っている事業者を「国土強靱化貢献団体」として認証する制度だ。
「国土強靭化貢献団体」というと何のことか分からなくなるが、平たく言うと、「まじめにBCPに取り組んでいる事業者を国が応援しよう」という制度ということになる。
いま、国策として国土強靭化政策が進められているが、これは、国や自治体が対策をすればいいというものではない。
民間の事業者も、同じように準備を進めてくれなくては、本来の国土強靭化にならない。
民間事業者のBCPの取り組みは一部で取り組まれているものの、全体的な普及が進んでいない。
普及が進まない理由としてはいろいろあるが、その中の1つとして、BCPに取り組むことのインセンティブが働かないということが挙げられる。
つまり、せっかく苦労してBCPに取り組んだとしても、誰かに評価されるわけでも認められるわけでもないとしたら、ただ勝手に取り組んでいるだけで、そのメリットが感じられないというわけだ。
そこで、まじめにBCPに取り組んでいる事業者を国が積極的に認めて、その活動を応援しようということになった。
それが、このレジリエンス認証だ。
レジリエンス認証制度に表向き「BCP」という言葉はあからさまに出てこない。
だが、その目的はBCPの普及にある。
BCPという言葉を避けているのは、この言葉が欧米発祥の概念であるし、国際規格にもBCP関連のものがあるために、それらとは別の日本独自の制度であることをはっきりさせる意味があるのだろう。
BCPという言葉は使われていないが、やっていることは、ずばりBCPそのものだ。
中小企業の中には、せっかくBCPに取り組んでいるものの、それで十分なのか不十分なのか、方向性があっているのか間違っているのかが分からないまま不安の中での取り組みになっている場合がある。
そのような場合は、このような認証制度は非常にありがたい。
この認証を得ることで、我が社のBCPは一定レベルにあることを客観的に証明される。
認証を受けると、認証マークの使用を許可されるので、それを内外へのアピールに使うことができる。
これが国の認証であることは、取引先に対しても絶大の信頼になる。
自社の案内パンフレットや名刺、ウェブサイトに、認証マークを表示し、我が社のBCPをアピールできる。
この認証制度を知らない人でも、このマークを見れば興味を示してくれるので、それをとっかかりにして、我が社の取り組みを知っていただける。
この認証制度は、ISOのような国際規格と違い、日本の事業者の実態に合った審査が行われており、現実的で意味のある制度になっている。
この認証制度の審査で重視されているのは、活動実績だ。
つまり、BCP文書を作りましたというだけでは評価しない。
BCP文書を作ることは当たり前だが、それだけでBCP活動が終了するわけではない。
BCPを策定すれば、実際にそれに則った事前対策が行なわれなくてはいけない。
行動計画があれば、それに基づいた教育訓練が行われなくてはいけない。
BCPの見直しは常に行われているはずで、見直しのたびにバージョンアップがなされていなくてはいけない。
そのような活動が行われているのかどうかが審査のポイントになっている。
単なる文書主義や形式主義に陥ることなく、BCPの実効性に焦点を当てているところが特徴だ。
もう1つの特徴は、経営トップの積極的な関与を求めていることだ。
認証審査は、1次と2次に分かれる。
1次審査は書類審査だが、2次審査は経営者ヒアリングが行なわれる。
この意味は大きい。
つまり、BCPは経営トップが関わるべき重要課題という位置づけを求めているのだ。
総務の一担当者に任せっきりで、社長が感知しないというケースがあるが、この認証制度は、それを認めない。
だから、面談による審査で、社長自身がBCPの内容を理解し、率先して活動を進めているかどうかが問われることになる。
この認証制度で、求められる項目は多岐にわたるが、いずれも、まじめにBCPに取り組んでいる企業であれば、当たり前の内容ばかりで難しいことは1つもない。
制度の趣旨がBCPの普及であり、厳しい審査で不合格を出すことは求められてない。
むしろ、活動を応援してくれる制度だと理解したほうがいい。
事業者の実態に合った審査をしてくれるところもありがたい。
中小零細事業者が大企業と同じ評価基準で機械的にチェックされたら、すべて不合格になってしまうだろう。
大企業は大企業にあったBCPがあり、中小零細事業者にはそれにふさわしいBCPがある。
少々取り組み不十分なところがあったとしても、そこを指摘して、今後の活動の在り方をアドバイスしてくれる。
そういう意味では、中小企業にとっても対応しやすく、意味のある制度になっている。
大企業は、BCPの取り組みは行われていて当たり前で、このような認証をわざわざ取得するメリットは少ない。
中小企業の場合、この認証取得のメリットは大きい。
むしろ、中小企業へのBCP普及のために設けられた制度と言ってもいい。
BCPに取り組む場合、このレジリエンス認証取得を1つの目標に置くことをお勧めしたい。
2016年10月27日
遺族の疑問は解消していない:大川小津波訴訟
大川小の津波訴訟。
14億円の賠償命令が出された。
地震直後に適切な情報収集を怠ったこと、津波の襲来を知ってからの避難行動が不適切だったことにより、学校側の責任が厳しく判断された。
遺族側は勝訴したが、これでもまだ納得できるところまでいっていないだろう。
「なぜ?」という疑問が解消されていないからだ。
なぜ、50分間も何もせずに校庭で待機していたのか。
なぜ、裏山に逃げようとする児童を引き戻したのか。
なぜ、川岸の方向に避難しようとしたのか。
大川小周辺にもいろんな小中学校がある。
大川中、橋浦小、北上中、吉浜小。
これらの学校の生徒児童は適切に避難し、犠牲者はゼロだ。
(在校生の中に犠牲者のいる学校もあるが、いずれも帰宅後に津波に襲われたケースばかりだ)
大川小の犠牲だけが際立っている。
だから、その理由をみんなが知りたがっているのだ。
学校側の行なった検証も遺族を納得させるものではなかった。
検証委員会を立ち上げて調査もしたが、学校側の免責を主張するための調査になっていて、まったく客観的な検証になっていない。
裏山に登ろうとしていた児童を引き戻したという話については、事実確認ができないとして、検証報告書からは外された。
そのかわり、裏山は崩壊の危険があるという地元民の指摘があったとか、川岸への移動は地元住民の先導で行われたとかいうあいまいな証言を採用して検証結果に盛り込んでいる。
ただ、学校側に非がないことをでっちあげるための検証だった。
これに遺族が怒って、訴訟を起こしたのだ。
実態はどうだったのか、ということを解明してほしい。
どうして、こんなことになったのかを明らかにしてほしい。
遺族の思いはここにある。
一番の問題は、唯一生き残った教員が、何の証言も残していないことだ。
教師になりたての新米教員だ。
過去に1度だけ、遺族への説明会に顔を出したことがあったらしいが、その後は姿を見せていないという。
今回の裁判でも証言を拒否した。
学校側から止められているのかもしれない。
この教員自身も、PTSDを患い、思い出すのもつらい日々を送っているのに違いない。
当時の状況を唯一正確に伝えられる人物だけに、彼に課せられた責任は重い。
犠牲になった児童らのためにも、そして、後世に残すべき教訓のためにも、勇気ある証言を期待したい。
14億円の賠償命令が出された。
地震直後に適切な情報収集を怠ったこと、津波の襲来を知ってからの避難行動が不適切だったことにより、学校側の責任が厳しく判断された。
遺族側は勝訴したが、これでもまだ納得できるところまでいっていないだろう。
「なぜ?」という疑問が解消されていないからだ。
なぜ、50分間も何もせずに校庭で待機していたのか。
なぜ、裏山に逃げようとする児童を引き戻したのか。
なぜ、川岸の方向に避難しようとしたのか。
大川小周辺にもいろんな小中学校がある。
大川中、橋浦小、北上中、吉浜小。
これらの学校の生徒児童は適切に避難し、犠牲者はゼロだ。
(在校生の中に犠牲者のいる学校もあるが、いずれも帰宅後に津波に襲われたケースばかりだ)
大川小の犠牲だけが際立っている。
だから、その理由をみんなが知りたがっているのだ。
学校側の行なった検証も遺族を納得させるものではなかった。
検証委員会を立ち上げて調査もしたが、学校側の免責を主張するための調査になっていて、まったく客観的な検証になっていない。
裏山に登ろうとしていた児童を引き戻したという話については、事実確認ができないとして、検証報告書からは外された。
そのかわり、裏山は崩壊の危険があるという地元民の指摘があったとか、川岸への移動は地元住民の先導で行われたとかいうあいまいな証言を採用して検証結果に盛り込んでいる。
ただ、学校側に非がないことをでっちあげるための検証だった。
これに遺族が怒って、訴訟を起こしたのだ。
実態はどうだったのか、ということを解明してほしい。
どうして、こんなことになったのかを明らかにしてほしい。
遺族の思いはここにある。
一番の問題は、唯一生き残った教員が、何の証言も残していないことだ。
教師になりたての新米教員だ。
過去に1度だけ、遺族への説明会に顔を出したことがあったらしいが、その後は姿を見せていないという。
今回の裁判でも証言を拒否した。
学校側から止められているのかもしれない。
この教員自身も、PTSDを患い、思い出すのもつらい日々を送っているのに違いない。
当時の状況を唯一正確に伝えられる人物だけに、彼に課せられた責任は重い。
犠牲になった児童らのためにも、そして、後世に残すべき教訓のためにも、勇気ある証言を期待したい。
2016年10月26日
14億円の賠償命令:大川小津波訴訟
注目の裁判に判決が出た。
東日本大震災の津波で児童74人と教職員10人が死亡・行方不明となった宮城県石巻市立大川小学校を巡り、児童23人の遺族が市と県を相手取り23億円の損害賠償を求めた訴訟。
仙台地裁は26日、市と県に約14億円の支払いを命じた。
裁判では、津波の襲来が予見できたかどうかが争われた。
学校側(県、市)は、もともとハザードマップでは大川小は津波浸水エリアに含まれていなかったことをもって、予見不可能を主張した。
だが、裁判所は、それでも今回の津波は予見可能であったとの判断を下した。
地震発生直後、大川小では児童らを校庭に並ばせ待機させていた。
その後、避難行動を開始するが、それまで50分間を無駄に過ごしてしまった。
この間、ラジオではしきりに津波の襲来を呼び掛けていた。
地域の広報車が津波非難を呼び掛けていた。
保護者の何人かは学校に直接子どもを迎えに来ていたが、その時、異口同音に津波の襲来を警告していた。
生き残った児童の証言によると、学校にやってきた保護者が、声高に迅速な避難を学校側に呼び掛けていたが、教員の方は、「まぁ、まぁ、落ち着いてください」と一生懸命になだめていたという。
児童の中にも騒ぎ出すものがおり、教員はそれを落ち着かせることに専心していたらしい。
生存者の証言の中には、「裏山に勝手に逃げ出す児童を教師が連れ戻して校庭に並ばせた」というものがあったという報道もある。
50分経過後、念のためにもう少し高台の方に移動しようということになって、児童らは行列を作って移動開始。
向かった先は校庭よりも高台だったが、川岸の方向だった。
川をさかのぼってきた津波が上流であふれ、高台の方から流れ下ってきた。
その流れに児童らと引率の教員らが飲み込まれたらしい。
中には、行列から離れ、とっさに近くの小山に駆け上がった児童もおり、彼らだけが助かったという。
難を逃れたのは、児童4人と、教員1人だ。
今回の判決は、学校側に非常に厳しいものとなった。
「ハザードマップでは浸水エリアではなかったから」「千年に一度の未曽有の大災害だったから」という言い訳が通用しないことをはっきりさせた判決でもある。
よく、このような津波訴訟を見て、「こんな裁判を起こしたって、亡き子は戻ってこないんだから、無駄だろう」という人がいる。
それは違う。
訴えた遺族らの気持ちは、賠償金がほしいわけでもないし、裁判で憂さ晴らしをしようとしているわけでもない。
「地震なんだから仕方ないよね」で終わってほしくない、という思いがある。
大川小の尊い犠牲を無駄にしないためにも、今後の教訓につなげなくてはいけない。
それをはっきりさせるために、裁判に訴えているのだ。
私たちは、この事例を貴重な教訓として受け継いでいかなくてはならないだろう。
東日本大震災の津波で児童74人と教職員10人が死亡・行方不明となった宮城県石巻市立大川小学校を巡り、児童23人の遺族が市と県を相手取り23億円の損害賠償を求めた訴訟。
仙台地裁は26日、市と県に約14億円の支払いを命じた。
裁判では、津波の襲来が予見できたかどうかが争われた。
学校側(県、市)は、もともとハザードマップでは大川小は津波浸水エリアに含まれていなかったことをもって、予見不可能を主張した。
だが、裁判所は、それでも今回の津波は予見可能であったとの判断を下した。
地震発生直後、大川小では児童らを校庭に並ばせ待機させていた。
その後、避難行動を開始するが、それまで50分間を無駄に過ごしてしまった。
この間、ラジオではしきりに津波の襲来を呼び掛けていた。
地域の広報車が津波非難を呼び掛けていた。
保護者の何人かは学校に直接子どもを迎えに来ていたが、その時、異口同音に津波の襲来を警告していた。
生き残った児童の証言によると、学校にやってきた保護者が、声高に迅速な避難を学校側に呼び掛けていたが、教員の方は、「まぁ、まぁ、落ち着いてください」と一生懸命になだめていたという。
児童の中にも騒ぎ出すものがおり、教員はそれを落ち着かせることに専心していたらしい。
生存者の証言の中には、「裏山に勝手に逃げ出す児童を教師が連れ戻して校庭に並ばせた」というものがあったという報道もある。
50分経過後、念のためにもう少し高台の方に移動しようということになって、児童らは行列を作って移動開始。
向かった先は校庭よりも高台だったが、川岸の方向だった。
川をさかのぼってきた津波が上流であふれ、高台の方から流れ下ってきた。
その流れに児童らと引率の教員らが飲み込まれたらしい。
中には、行列から離れ、とっさに近くの小山に駆け上がった児童もおり、彼らだけが助かったという。
難を逃れたのは、児童4人と、教員1人だ。
今回の判決は、学校側に非常に厳しいものとなった。
「ハザードマップでは浸水エリアではなかったから」「千年に一度の未曽有の大災害だったから」という言い訳が通用しないことをはっきりさせた判決でもある。
よく、このような津波訴訟を見て、「こんな裁判を起こしたって、亡き子は戻ってこないんだから、無駄だろう」という人がいる。
それは違う。
訴えた遺族らの気持ちは、賠償金がほしいわけでもないし、裁判で憂さ晴らしをしようとしているわけでもない。
「地震なんだから仕方ないよね」で終わってほしくない、という思いがある。
大川小の尊い犠牲を無駄にしないためにも、今後の教訓につなげなくてはいけない。
それをはっきりさせるために、裁判に訴えているのだ。
私たちは、この事例を貴重な教訓として受け継いでいかなくてはならないだろう。
2016年08月02日
緊急地震速報の誤報:東京湾震度7
8月1日17時9分、東京湾震度7の緊急地震速報が流れた。
スマホのアラームが鳴って、画面を見たとき、緊張した。
「ついに、首都直下地震が来たか」
ところが、奇妙なことに第1報のアラームだけで次が続かない。
地震アプリを開いて、情報を見ると、関東エリア一帯が震度7の表示で真っ赤。
日本列島全域に震度表示が出ている。
「なんか、おかしい」
細かいデータを見るとマグニチュード9.1、深さ10km。
ますますおかしい。
やがて関東エリアでは地震が起きておらず、誤報だと判明した。
今回の誤報は、落雷によるノイズが悪さをしたらしい。
1か所の地震計に過電流が流れ、そのノイズデータを瞬時に解析して発信したために、とんでもない巨大地震という誤報になった。
緊急地震速報には2種類ある。
一般向けと高度利用者向け。
高度利用者向けは、会員向けのサービスで、いち早くキメ細かい情報を提供することを目的とする。
だから、1か所でも地震データを観測したら、その情報をもとに第1報を出す。
第1報の速報性に重きを置いているからだ。
だが、周辺の地震計に反応がなかった場合は、直ちに誤報として取り消される。
今回、第1報だけで後が続かなかったのは、このためだ。
3年前の8月初旬にも「奈良県震度7」という誤報があった。
この時期は、落雷による誤報が起きやすい。
一般向けは、テレビ、ラジオ、エリアメールなど、広域の不特定多数に配信される。
複数個所で地震発生のデータを確認した段階でアラームが発信される。
速報性に劣るが、誤報の少なさが優先されている。
今回、テレビやラジオで緊急地震速報が流れることはなかった。
今回の緊急地震速報では、電車が止まったり、オフィスでアラームが鳴ったりして、一時、騒然となった。
直後に誤報と分かって、ほっとしたが、これは、いい訓練になった。
本当にうちの装置はアラームが鳴るのか。
アラームが鳴った時、うちの社員は迅速に安全行動がとれるのか。
不意打ちの訓練だからこそ、実践レベルの確認ができる。
誤報であったことに文句を言ってはいけない。
異常データを見逃さずに瞬時に反応してデータ配信されたことだけでも評価しよう。
空振り三振はOKだが、見逃し三振は許されない。
スマホのアラームが鳴って、画面を見たとき、緊張した。
「ついに、首都直下地震が来たか」
ところが、奇妙なことに第1報のアラームだけで次が続かない。
地震アプリを開いて、情報を見ると、関東エリア一帯が震度7の表示で真っ赤。
日本列島全域に震度表示が出ている。
「なんか、おかしい」
細かいデータを見るとマグニチュード9.1、深さ10km。
ますますおかしい。
やがて関東エリアでは地震が起きておらず、誤報だと判明した。
今回の誤報は、落雷によるノイズが悪さをしたらしい。
1か所の地震計に過電流が流れ、そのノイズデータを瞬時に解析して発信したために、とんでもない巨大地震という誤報になった。
緊急地震速報には2種類ある。
一般向けと高度利用者向け。
高度利用者向けは、会員向けのサービスで、いち早くキメ細かい情報を提供することを目的とする。
だから、1か所でも地震データを観測したら、その情報をもとに第1報を出す。
第1報の速報性に重きを置いているからだ。
だが、周辺の地震計に反応がなかった場合は、直ちに誤報として取り消される。
今回、第1報だけで後が続かなかったのは、このためだ。
3年前の8月初旬にも「奈良県震度7」という誤報があった。
この時期は、落雷による誤報が起きやすい。
一般向けは、テレビ、ラジオ、エリアメールなど、広域の不特定多数に配信される。
複数個所で地震発生のデータを確認した段階でアラームが発信される。
速報性に劣るが、誤報の少なさが優先されている。
今回、テレビやラジオで緊急地震速報が流れることはなかった。
今回の緊急地震速報では、電車が止まったり、オフィスでアラームが鳴ったりして、一時、騒然となった。
直後に誤報と分かって、ほっとしたが、これは、いい訓練になった。
本当にうちの装置はアラームが鳴るのか。
アラームが鳴った時、うちの社員は迅速に安全行動がとれるのか。
不意打ちの訓練だからこそ、実践レベルの確認ができる。
誤報であったことに文句を言ってはいけない。
異常データを見逃さずに瞬時に反応してデータ配信されたことだけでも評価しよう。
空振り三振はOKだが、見逃し三振は許されない。
2016年06月19日
大震法を南海トラフ巨大地震に拡大
1978年に制定された大震法(大規模地震対策特別措置法)の対策強化地域を東海地震から、南海トラフ巨大地震へと拡大する方向で検討が進んでいる。
大震法は、東海地震の発生に備えて制定された。
というのは、1944年、46年に東南海地震、南海地震が起きたのに、東海地震だけ起きなかったことから、東海地域だけ歪みが蓄積したまま解放されていないと判断され、東海地震が切迫しているとの予想から制定された法律だ。
ところが、その後の地震研究で様々な知見が明らかとなり、法律の内容が古いものとなっていた。
特に東日本大震災以降は、東海地震という言葉は死語となり、南海トラフ巨大地震という言葉に置き換わって、東海から紀伊半島沖、四国沖、九州沖にまで広く連動するM9クラスの超巨大地震を想定して国は対策を行い始めた。
大震法と現実との乖離を修正すべく、ようやく法改正の検討に入ったということだ。
大震法では、東海地震は事前予知ができることを前提とした仕組みができている。
これも、いまや絵に描いた餅となりそうだ。
事前予知ができない可能性が高いこと、予知できたとしても事前警告できるかどうか分からないことなど、問題が大きいことがかねてから指摘されていた。
事前予知の研究は地道に進めていくにしても、予知ができないことを前提に、不意打ちを覚悟した事前対策のほうに軸足を移した内容に重点を置くべきだろう。
このニュースは、時代錯誤の法律を現実に即した内容に作り替えようという取り組みに過ぎない。
大震法は、東海地震の発生に備えて制定された。
というのは、1944年、46年に東南海地震、南海地震が起きたのに、東海地震だけ起きなかったことから、東海地域だけ歪みが蓄積したまま解放されていないと判断され、東海地震が切迫しているとの予想から制定された法律だ。
ところが、その後の地震研究で様々な知見が明らかとなり、法律の内容が古いものとなっていた。
特に東日本大震災以降は、東海地震という言葉は死語となり、南海トラフ巨大地震という言葉に置き換わって、東海から紀伊半島沖、四国沖、九州沖にまで広く連動するM9クラスの超巨大地震を想定して国は対策を行い始めた。
大震法と現実との乖離を修正すべく、ようやく法改正の検討に入ったということだ。
大震法では、東海地震は事前予知ができることを前提とした仕組みができている。
これも、いまや絵に描いた餅となりそうだ。
事前予知ができない可能性が高いこと、予知できたとしても事前警告できるかどうか分からないことなど、問題が大きいことがかねてから指摘されていた。
事前予知の研究は地道に進めていくにしても、予知ができないことを前提に、不意打ちを覚悟した事前対策のほうに軸足を移した内容に重点を置くべきだろう。
このニュースは、時代錯誤の法律を現実に即した内容に作り替えようという取り組みに過ぎない。
2016年06月15日
JTB顧客情報漏洩
大手旅行会社JTBの顧客情報漏洩事件。
標的メールにてコンピュータがウィルス感染し、外部からの不正アクセスにより700万人分の個人情報が流出した恐れがあるという。
不審な添付ファイルを開いてしまったミス、不正アクセスの感知から完全遮断までの遅滞、管理している個人情報を暗号処理していなかった不手際など、JTB側の反省点も多い。
実際にどれだけの情報が流出したのかは不明で、今後、実被害が出始めると、その賠償責任がJTBに降りかかってくることになる。
発端は、不審なメールの添付ファイルを開いてしまったことによる。
なんという単純なミス。
だが、このメールは、実在する航空会社のメールアドレスが表示されており、件名やメール文面も通常業務であり得る内容だったという。
1日に膨大な量のメールを処理している担当者は、当然、変なメールは警戒しているだろうが、本物によく似たメールにまで神経を尖らせて警戒せよというのは酷だ。
当然、不審メールは安易に開かないというルールは厳格に守るとしても、それでも、うっかり標的型メールに引っかかってしまう恐れは常にある。
その場合は、ウィルス感染してしまったことを想定した対応策も用意しておかなくてはならない。
感染しても、外部からの不正アクセスを遮断できるように。
外部からの不正アクセスを許してしまったとしても、重要情報へのアクセスは防げるように。
重要情報をコピーされても、解読されないように。
多段階的に最悪の事態を阻止するバリアを用意しておくべきだった。
利用者としては、JTB程の大手旅行会社が、顧客情報の管理がこれほど緩かったとは驚きだろう。
今回は、初動に反省点があったが、その後の対応は迅速で申し分ない。
いまのところ、実害は確認されておらず、事態は最小レベルで抑えることができている。
今後は、実態の把握と、原因の追究、そして、再発の防止に取り組むことになる。
会社の信用は、情報を透明化し、利用者への十分な説明責任を果たすことができるかどうかにかかわっている。
標的メールにてコンピュータがウィルス感染し、外部からの不正アクセスにより700万人分の個人情報が流出した恐れがあるという。
不審な添付ファイルを開いてしまったミス、不正アクセスの感知から完全遮断までの遅滞、管理している個人情報を暗号処理していなかった不手際など、JTB側の反省点も多い。
実際にどれだけの情報が流出したのかは不明で、今後、実被害が出始めると、その賠償責任がJTBに降りかかってくることになる。
発端は、不審なメールの添付ファイルを開いてしまったことによる。
なんという単純なミス。
だが、このメールは、実在する航空会社のメールアドレスが表示されており、件名やメール文面も通常業務であり得る内容だったという。
1日に膨大な量のメールを処理している担当者は、当然、変なメールは警戒しているだろうが、本物によく似たメールにまで神経を尖らせて警戒せよというのは酷だ。
当然、不審メールは安易に開かないというルールは厳格に守るとしても、それでも、うっかり標的型メールに引っかかってしまう恐れは常にある。
その場合は、ウィルス感染してしまったことを想定した対応策も用意しておかなくてはならない。
感染しても、外部からの不正アクセスを遮断できるように。
外部からの不正アクセスを許してしまったとしても、重要情報へのアクセスは防げるように。
重要情報をコピーされても、解読されないように。
多段階的に最悪の事態を阻止するバリアを用意しておくべきだった。
利用者としては、JTB程の大手旅行会社が、顧客情報の管理がこれほど緩かったとは驚きだろう。
今回は、初動に反省点があったが、その後の対応は迅速で申し分ない。
いまのところ、実害は確認されておらず、事態は最小レベルで抑えることができている。
今後は、実態の把握と、原因の追究、そして、再発の防止に取り組むことになる。
会社の信用は、情報を透明化し、利用者への十分な説明責任を果たすことができるかどうかにかかわっている。
自ら傷を広げ続けた舛添氏
舛添氏の政治資金騒動。
ようやく辞任ということで決着となりそうだ。
週刊誌による報道後、定例の記者会見で弁明を迫られ続けた。
当初は、強気で突っぱねていたが、第2第3のネタが毎週のように報道され、そのたびに弁明をする羽目になった。
不透明な政治資金の使途が次々に発覚し、いちいち弁明をするのも追いつかないほど。
そこで、彼がとった策略が、第三者なる弁護士を立てて、すべての案件を一気に決着つけようということだった。
その調査報告書があまりにもずさんで、とても第三者による厳しい調査には見えないことから、批判の声は一気に最大値に膨れ上がった。
一気に決着がつくどころか、疑惑の目がさらに細かいところに向かうこととなり、答弁の矛盾点が至る所にみられるようになる。
都議会の集中審議で、「リオオリンピックが終わるまで、今しばらく猶予を」と必死の懇願を行なったが、頼みの自民公明の辞任やむなしとの判断により万事休すとなる。
一時は、都議会の不信任案可決を受けて、議会解散の暴挙に出るのではとの憶測も流れたが、さすがにそこまでは理性を失ってはいなかったようだ。
今回の政治資金騒動は、舛添氏辞任の方向でしか決着しないことは誰の目にも明らかだった。
それなのに、彼の執念を感じさせるような粘り腰に、「なぜ?」という疑問が常にあった。
冷静な判断ができなくなっているのでは?
意固地になっているのでは?
リオオリンピックの閉会式に出たいから?
いろんな憶測があるが、本心はわからない。
リスクマネジメントの視点で今回の騒動をとらえると、舛添氏の対応は最悪のケースとなった。
彼にとって最悪の事態は、辞任に追い込まれることだが、その最悪の事態を避けるための行動が、自らを追い込むことになってしまった。
最悪の事態を避けているつもりが、さらに悪い状況を招いてしまう。
彼としては、最悪の事態を最悪の状況で迎えることとなった。
潮目が変わったのは、第三者による調査報告が公表された時点だ。
彼としては問題を先送りするうまい戦術だったが、役者が悪すぎた。
元検事の弁護士の態度が不遜で一般の人々を見下すような物言いで、反感を買った。
厳しい第三者による調査どころか、雇われ弁護士が依頼人の言い分を代弁しているだけだった。
都議会の審議では、細かい事実関係の検証が行われた。
細かい事実の確認になればなるほど、舛添氏の答弁はあいまいになった。
このことが、疑惑を深めた。
肝心のところは、何もわからないままだ。
正月の家族旅行の宿泊先で、出版社社長と政治的会合を行なったということすら、事実を証明できなかった。
出版社社長は実在しないのでは?
実在したとしても、正月に会っていないのでは?
単なる家族旅行の経費を政治資金でまかなっただけでは?
疑惑が最大限に膨らんだ状態での辞任となった。
スキャンダル発覚初期に潔く辞任していれば、細かい疑惑までほじくり返されずに済んだ。
政治家としてのダメージも最小限にとどまり、場合によっては再挑戦の機会も得られたかもしれない。
ところが、ここまで傷が深くなると、辞任したぐらいでは収まらなくなってしまっている。
一連の疑惑をきっちり解明しないことには都民が納得しない。
政治資金報告書の不実記載、領収書の偽造などということになると、明確な刑事事件に発展するからだ。
実際、それが疑わしい案件がそこかしこに見つかっている。
舛添氏のいまの心境は分からないでもない。
ほんの数万円程度の政治資金処理の問題で辞任させられることの悔しさ。
都知事として何の実績も残せないまま終わることの未練。
猪瀬知事の辞任を受けて、絶好のタイミングでつかんだ都知事の座をこんな無様な形で手放すことの無念。
いろんなところに恨みを残したままの辞任だろう。
振り返ったとき、辞任して事態を収拾できる最後のチャンスは、第三者による調査結果を公表する段階だった。
そこで、違法は一件もなかったことを明確に示したうえで、「不適切な処理があったことを認め、責任を取って辞任する」と表明すれば、道義的な責任を取ったということで決着できたはずだった。
その後の、細かい事実関係までほじくり返されずに済んだ。
それまでの過熱したマスコミ報道では、すべてが疑惑まみれで真っ黒という印象だったが、それが、真っ黒は1つもないことを明確にできただけでも高得点。
この時が、傷をもっとも浅く済ませることができた最後で最大のチャンスだったと言える。
だが、彼はそのチャンスを捨て、多くを望みすぎ、破滅した。
彼に政治家としての再起の目はない。
テレビタレントとしての再起の目も失っているだろう。
最悪の状況を迎えての幕引きとなった。
ようやく辞任ということで決着となりそうだ。
週刊誌による報道後、定例の記者会見で弁明を迫られ続けた。
当初は、強気で突っぱねていたが、第2第3のネタが毎週のように報道され、そのたびに弁明をする羽目になった。
不透明な政治資金の使途が次々に発覚し、いちいち弁明をするのも追いつかないほど。
そこで、彼がとった策略が、第三者なる弁護士を立てて、すべての案件を一気に決着つけようということだった。
その調査報告書があまりにもずさんで、とても第三者による厳しい調査には見えないことから、批判の声は一気に最大値に膨れ上がった。
一気に決着がつくどころか、疑惑の目がさらに細かいところに向かうこととなり、答弁の矛盾点が至る所にみられるようになる。
都議会の集中審議で、「リオオリンピックが終わるまで、今しばらく猶予を」と必死の懇願を行なったが、頼みの自民公明の辞任やむなしとの判断により万事休すとなる。
一時は、都議会の不信任案可決を受けて、議会解散の暴挙に出るのではとの憶測も流れたが、さすがにそこまでは理性を失ってはいなかったようだ。
今回の政治資金騒動は、舛添氏辞任の方向でしか決着しないことは誰の目にも明らかだった。
それなのに、彼の執念を感じさせるような粘り腰に、「なぜ?」という疑問が常にあった。
冷静な判断ができなくなっているのでは?
意固地になっているのでは?
リオオリンピックの閉会式に出たいから?
いろんな憶測があるが、本心はわからない。
リスクマネジメントの視点で今回の騒動をとらえると、舛添氏の対応は最悪のケースとなった。
彼にとって最悪の事態は、辞任に追い込まれることだが、その最悪の事態を避けるための行動が、自らを追い込むことになってしまった。
最悪の事態を避けているつもりが、さらに悪い状況を招いてしまう。
彼としては、最悪の事態を最悪の状況で迎えることとなった。
潮目が変わったのは、第三者による調査報告が公表された時点だ。
彼としては問題を先送りするうまい戦術だったが、役者が悪すぎた。
元検事の弁護士の態度が不遜で一般の人々を見下すような物言いで、反感を買った。
厳しい第三者による調査どころか、雇われ弁護士が依頼人の言い分を代弁しているだけだった。
都議会の審議では、細かい事実関係の検証が行われた。
細かい事実の確認になればなるほど、舛添氏の答弁はあいまいになった。
このことが、疑惑を深めた。
肝心のところは、何もわからないままだ。
正月の家族旅行の宿泊先で、出版社社長と政治的会合を行なったということすら、事実を証明できなかった。
出版社社長は実在しないのでは?
実在したとしても、正月に会っていないのでは?
単なる家族旅行の経費を政治資金でまかなっただけでは?
疑惑が最大限に膨らんだ状態での辞任となった。
スキャンダル発覚初期に潔く辞任していれば、細かい疑惑までほじくり返されずに済んだ。
政治家としてのダメージも最小限にとどまり、場合によっては再挑戦の機会も得られたかもしれない。
ところが、ここまで傷が深くなると、辞任したぐらいでは収まらなくなってしまっている。
一連の疑惑をきっちり解明しないことには都民が納得しない。
政治資金報告書の不実記載、領収書の偽造などということになると、明確な刑事事件に発展するからだ。
実際、それが疑わしい案件がそこかしこに見つかっている。
舛添氏のいまの心境は分からないでもない。
ほんの数万円程度の政治資金処理の問題で辞任させられることの悔しさ。
都知事として何の実績も残せないまま終わることの未練。
猪瀬知事の辞任を受けて、絶好のタイミングでつかんだ都知事の座をこんな無様な形で手放すことの無念。
いろんなところに恨みを残したままの辞任だろう。
振り返ったとき、辞任して事態を収拾できる最後のチャンスは、第三者による調査結果を公表する段階だった。
そこで、違法は一件もなかったことを明確に示したうえで、「不適切な処理があったことを認め、責任を取って辞任する」と表明すれば、道義的な責任を取ったということで決着できたはずだった。
その後の、細かい事実関係までほじくり返されずに済んだ。
それまでの過熱したマスコミ報道では、すべてが疑惑まみれで真っ黒という印象だったが、それが、真っ黒は1つもないことを明確にできただけでも高得点。
この時が、傷をもっとも浅く済ませることができた最後で最大のチャンスだったと言える。
だが、彼はそのチャンスを捨て、多くを望みすぎ、破滅した。
彼に政治家としての再起の目はない。
テレビタレントとしての再起の目も失っているだろう。
最悪の状況を迎えての幕引きとなった。
2016年06月13日
発生確率が低いところこそ警戒せよ:全国地震動予測地図2016年版
6月10日、地震調査研究推進本部地震調査委員会は、確率論的地震動予測地図の2016年版を公表した。
この地震動予測地図は、1,2年ごとに新たな研究データが出るたびに最新のものに更新している。
前回は、2014年12月だったが、1年半ぶりの更新だ。
2016年1月時点での確率を表示しているので、熊本地震の影響は考慮されていない。
2014年版と2016年版とを見比べても、はっきりした変化は見られない。
よく見ると、関東から四国にかけての太平洋側で、少しずつ確率が上昇しているのがわがる。
あと、内陸では長野県の一部で確率の上昇している部分が見られる。
それよりも、今回の予測地図の意味は、熊本地震直前の地震発生確率が分かるところにある。
九州は全体に発生確率の低いことが一目でわかる。
ピンポイントで確率を調べてみると、熊本は7.6%だった。
千葉市が85%、横浜市が81%と表示される一方、熊本市の7.6%はいかにも確率が低い印象だ。
2014年版では、熊本市の確率は7.8%だったので、むしろ2016年版では確率は小さくなっている。
ほかの地域では少しずつ確率を上昇させているところが多い中、確率が下がっているのは珍しい。
これが、熊本地震前に公表されていたら、熊本の人たちを油断させる効果しかなかっただろう。
今回の地震動予測地図の公表の目的は、ここにあったのではないだろうか。
つまり、地震発生確率は、あくまでも計算上の数値であり、次に発生する地震を予想するものでもないし、地震の起きない地域を特定するものでもない、ということだ。
本来、この地図は、地震発生の確率の高い地域に警戒を呼び掛けるのが目的だったが、一方で、発生確率の低い地域に油断させるような影響を及ぼしてきた。
近年起きた大きな地震はいずれも、発生確率が低く見積もられていた地域ばかり。
阪神淡路、新潟中越、能登半島、東北地方太平洋、そして、熊本。
発生確率が低くみられている地域は、準備が不十分なために、実際に地震が起きた時には、被害が大きくなる傾向がある。
地震発生前、熊本県のウェブサイトでは、地震発生の少なさをアピールして企業誘致を呼び掛けていた。
日本地図を表示して、余震の続く東北地方を「危険地帯」、過去120年間地震のない熊本を「安全地帯」と説明する念の入れようだった。
行政がこのような認識だったので、当然ながら、地震への備えはまともにできているはずがない。
日本列島に住んでいる以上、地震の起きないところはない。
どこにいても、地震発生の恐れは常にある。
「地震の起きないところはどこ?」という発想自体がナンセンスだと心得るべきだ。
この予測地図の活用の仕方はこうだ。
発生確率の高い地域は、大地震の発生は避けられないので、準備を確実に進める。
発生確率の低い地域は、不意打ちの地震に見舞われる恐れがあるので、準備を怠らない。
怖いのは、油断しきっている地域を襲う不意打ちの地震ではないだろうか。
この地震動予測地図は、1,2年ごとに新たな研究データが出るたびに最新のものに更新している。
前回は、2014年12月だったが、1年半ぶりの更新だ。
2016年1月時点での確率を表示しているので、熊本地震の影響は考慮されていない。
2014年版と2016年版とを見比べても、はっきりした変化は見られない。
よく見ると、関東から四国にかけての太平洋側で、少しずつ確率が上昇しているのがわがる。
あと、内陸では長野県の一部で確率の上昇している部分が見られる。
それよりも、今回の予測地図の意味は、熊本地震直前の地震発生確率が分かるところにある。
九州は全体に発生確率の低いことが一目でわかる。
ピンポイントで確率を調べてみると、熊本は7.6%だった。
千葉市が85%、横浜市が81%と表示される一方、熊本市の7.6%はいかにも確率が低い印象だ。
2014年版では、熊本市の確率は7.8%だったので、むしろ2016年版では確率は小さくなっている。
ほかの地域では少しずつ確率を上昇させているところが多い中、確率が下がっているのは珍しい。
これが、熊本地震前に公表されていたら、熊本の人たちを油断させる効果しかなかっただろう。
今回の地震動予測地図の公表の目的は、ここにあったのではないだろうか。
つまり、地震発生確率は、あくまでも計算上の数値であり、次に発生する地震を予想するものでもないし、地震の起きない地域を特定するものでもない、ということだ。
本来、この地図は、地震発生の確率の高い地域に警戒を呼び掛けるのが目的だったが、一方で、発生確率の低い地域に油断させるような影響を及ぼしてきた。
近年起きた大きな地震はいずれも、発生確率が低く見積もられていた地域ばかり。
阪神淡路、新潟中越、能登半島、東北地方太平洋、そして、熊本。
発生確率が低くみられている地域は、準備が不十分なために、実際に地震が起きた時には、被害が大きくなる傾向がある。
地震発生前、熊本県のウェブサイトでは、地震発生の少なさをアピールして企業誘致を呼び掛けていた。
日本地図を表示して、余震の続く東北地方を「危険地帯」、過去120年間地震のない熊本を「安全地帯」と説明する念の入れようだった。
行政がこのような認識だったので、当然ながら、地震への備えはまともにできているはずがない。
日本列島に住んでいる以上、地震の起きないところはない。
どこにいても、地震発生の恐れは常にある。
「地震の起きないところはどこ?」という発想自体がナンセンスだと心得るべきだ。
この予測地図の活用の仕方はこうだ。
発生確率の高い地域は、大地震の発生は避けられないので、準備を確実に進める。
発生確率の低い地域は、不意打ちの地震に見舞われる恐れがあるので、準備を怠らない。
怖いのは、油断しきっている地域を襲う不意打ちの地震ではないだろうか。
2016年06月07日
舛添都知事:なかなか投了しない不思議
舛添都知事の政治資金疑惑がいまだに尾を引いている。
尾を引いているというより、ますます深みにはまりこんでいるという印象が強い。
疑惑の発端は、外遊時のホテル代の不必要な豪華さから始まった。
はじめのうちは本人も強気に突っぱねていたが、週刊誌は次々にネタを投入してきた。
毎週末に公用車で湯河原の別荘への通いが問題となった。
過去の政治資金の使い方に公私混同が疑われる事案がいくつも見つかった。
毎週のように週刊誌のスクープ記事が話題となり、ついに、いちいち突っぱねることもできなくなった。
ここで、普通なら万事休すとなって、白旗を挙げるところだが、舛添氏は違った。
第三者による検証というステップを設けることで、時間稼ぎができることを思いついた。
週刊誌の扇動が発端で始まった今回の騒ぎは、1つ言い訳をすれば、それに倍する突っ込みを招き、騒ぎを大きくしかねない。
膨大な疑惑について1つ1つ弁明をすることは無限の時間を必要とし、十分な弁明をする前に行き詰まる。
それで思いついたのが、第三者による検証というテクニックだった。
マスコミに検証させるのではなく、弁護士に検証させて、その結論だけをいっぺんに公表すれば、一気に片付く。
個別の事案について、本人はいちいち弁明をする必要がなくなるというわけだ。
実に、うまい方法を思いついたものだ。
誰の入れ知恵だろう。
第三者の弁護士に厳正で公正な調査を依頼するということをしきりに強調していたが、これは、現状のマスコミのスクープでは、厳正で公正な報道が行われていないという不満の表れだ。
昨日、その第三者による調査結果が公表された。
案の定、すべての案件で違法性なしとの結論が出た。
舛添氏は、これがほしかったのだろう。
ただ、違法ではないものの、不適切との判断も含まれていた。
そして、適切との判断もあった。
この適切との判断も舛添氏が期待したものだろう。
結論、クロは一つもない。
グレーがほとんどだが、中にはシロも見つかった。
第三者の調査がなかったら、マスコミによってすべて真っ黒にされかねないところだった。
舛添氏が第三者に調査させた成果はこれで、十分だろう。
第三者による厳正な調査というが、この調査がどのレベルで行われたのかは判然としない。
元検事という肩書は、素人の目くらましに使われている。
元検事だからと言って、特別に強制捜査ができるわけではない。
できることは、一般の弁護士と変わらない。
ただ、依頼主である舛添氏の言い分を十分聞いて、その内容を分かりやすく整理して報告しているだけというのが実態だ。
決して、舛添氏の証言の裏を取ったり、多方面から事実の確認をしたりということはしていないようだ。
記者がその部分を弁護士に質問したら、年配の弁護士は色を成して突っぱねていた。
事実確認の調査はまったくできていないのがばれた瞬間だ。
結局、今回の弁護士による調査は、第三者による厳正な調査ではなく、舛添氏に雇われた顧問弁護士が依頼主の言い分を代わりに代弁したという、ごく普通の代理人行為に過ぎなかったのだ。
2名の弁護士が担当していたが、この2名は同じ弁護士事務所に所属しているらしい。
何のことはない、弁護士事務所に依頼して、そこの上司と部下の2人組でこの事案を担当したというだけのことだった。
舛添氏は、複数の弁護士に依頼していると言っていたので、当然、立場の違う弁護士を何人か選ぶものと思われたが、ふたを開ければこんなことだ。
弁護士による調査結果を受けて、事態は沈静化に向かうどころか、さらに不信感を増幅させている。
リスクマネジメントの視点で今回の事件を捉えてみると、舛添氏は対応をことごとく誤り、事態を悪化させ続けているように見える。
だが、舛添氏は、最悪の事態を回避し続けていると捉えているのではないだろうか。
不祥事が発覚した時点で、直ちに辞任していたら、騒ぎは大きくならなかった。
だが、辞任した時点で、彼としては最悪の事態が確定してしまう。
それで、最悪の事態を避けるためのギリギリの方策として、第三者を持ち出して延命を試みている。
舛添氏としては、いまのところ最悪の事態を回避し続けているという点で、うまくことを運んでいるということかもしれない。
都民の信頼を完全に失ってもなお逃げ回る都知事。
この粘り強さは何だろう。
彼の心臓の強さか。
それとも、やめたくてもやめられない裏の事情があるのか。
リオのオリンピックで次期開催地の代表としてオリンピック旗の引継ぎに舛添氏が出かける。
満面の笑みで旗を受け取る舛添氏の姿が世界に流れる。
都民としては、これほど見苦しい光景はないだろう。
東京オリンピックはいろんなところでケチが付き続けているが、また1つケチがつくことになる。
尾を引いているというより、ますます深みにはまりこんでいるという印象が強い。
疑惑の発端は、外遊時のホテル代の不必要な豪華さから始まった。
はじめのうちは本人も強気に突っぱねていたが、週刊誌は次々にネタを投入してきた。
毎週末に公用車で湯河原の別荘への通いが問題となった。
過去の政治資金の使い方に公私混同が疑われる事案がいくつも見つかった。
毎週のように週刊誌のスクープ記事が話題となり、ついに、いちいち突っぱねることもできなくなった。
ここで、普通なら万事休すとなって、白旗を挙げるところだが、舛添氏は違った。
第三者による検証というステップを設けることで、時間稼ぎができることを思いついた。
週刊誌の扇動が発端で始まった今回の騒ぎは、1つ言い訳をすれば、それに倍する突っ込みを招き、騒ぎを大きくしかねない。
膨大な疑惑について1つ1つ弁明をすることは無限の時間を必要とし、十分な弁明をする前に行き詰まる。
それで思いついたのが、第三者による検証というテクニックだった。
マスコミに検証させるのではなく、弁護士に検証させて、その結論だけをいっぺんに公表すれば、一気に片付く。
個別の事案について、本人はいちいち弁明をする必要がなくなるというわけだ。
実に、うまい方法を思いついたものだ。
誰の入れ知恵だろう。
第三者の弁護士に厳正で公正な調査を依頼するということをしきりに強調していたが、これは、現状のマスコミのスクープでは、厳正で公正な報道が行われていないという不満の表れだ。
昨日、その第三者による調査結果が公表された。
案の定、すべての案件で違法性なしとの結論が出た。
舛添氏は、これがほしかったのだろう。
ただ、違法ではないものの、不適切との判断も含まれていた。
そして、適切との判断もあった。
この適切との判断も舛添氏が期待したものだろう。
結論、クロは一つもない。
グレーがほとんどだが、中にはシロも見つかった。
第三者の調査がなかったら、マスコミによってすべて真っ黒にされかねないところだった。
舛添氏が第三者に調査させた成果はこれで、十分だろう。
第三者による厳正な調査というが、この調査がどのレベルで行われたのかは判然としない。
元検事という肩書は、素人の目くらましに使われている。
元検事だからと言って、特別に強制捜査ができるわけではない。
できることは、一般の弁護士と変わらない。
ただ、依頼主である舛添氏の言い分を十分聞いて、その内容を分かりやすく整理して報告しているだけというのが実態だ。
決して、舛添氏の証言の裏を取ったり、多方面から事実の確認をしたりということはしていないようだ。
記者がその部分を弁護士に質問したら、年配の弁護士は色を成して突っぱねていた。
事実確認の調査はまったくできていないのがばれた瞬間だ。
結局、今回の弁護士による調査は、第三者による厳正な調査ではなく、舛添氏に雇われた顧問弁護士が依頼主の言い分を代わりに代弁したという、ごく普通の代理人行為に過ぎなかったのだ。
2名の弁護士が担当していたが、この2名は同じ弁護士事務所に所属しているらしい。
何のことはない、弁護士事務所に依頼して、そこの上司と部下の2人組でこの事案を担当したというだけのことだった。
舛添氏は、複数の弁護士に依頼していると言っていたので、当然、立場の違う弁護士を何人か選ぶものと思われたが、ふたを開ければこんなことだ。
弁護士による調査結果を受けて、事態は沈静化に向かうどころか、さらに不信感を増幅させている。
リスクマネジメントの視点で今回の事件を捉えてみると、舛添氏は対応をことごとく誤り、事態を悪化させ続けているように見える。
だが、舛添氏は、最悪の事態を回避し続けていると捉えているのではないだろうか。
不祥事が発覚した時点で、直ちに辞任していたら、騒ぎは大きくならなかった。
だが、辞任した時点で、彼としては最悪の事態が確定してしまう。
それで、最悪の事態を避けるためのギリギリの方策として、第三者を持ち出して延命を試みている。
舛添氏としては、いまのところ最悪の事態を回避し続けているという点で、うまくことを運んでいるということかもしれない。
都民の信頼を完全に失ってもなお逃げ回る都知事。
この粘り強さは何だろう。
彼の心臓の強さか。
それとも、やめたくてもやめられない裏の事情があるのか。
リオのオリンピックで次期開催地の代表としてオリンピック旗の引継ぎに舛添氏が出かける。
満面の笑みで旗を受け取る舛添氏の姿が世界に流れる。
都民としては、これほど見苦しい光景はないだろう。
東京オリンピックはいろんなところでケチが付き続けているが、また1つケチがつくことになる。
2016年05月24日
南海トラフ沿いの「ひずみ」を実測:海上保安庁
海上保安庁が南海トラフ沿いのひずみの実測分布をイギリス科学誌ネイチャーに論文として公開した。
海保では2000年度から観測器を海底に置き、ひずみがたまる陸側と海側のプレート境目の動きを測定。
南海トラフ沿いの15カ所について、06年度から15年度の動きを分析した。
その結果、陸側プレートに置いた観測器が年間2〜5・5センチ移動しているのが観測された。
ひずみの場所はほぼ、政府が南海トラフ巨大地震の震源域として想定する領域にぴたりと一致する。
ひずみ蓄積状況は、地域によって濃淡があり、四国沖から日向灘のあたりにひずみの大きい地域が広がっているのが目立つ。
この情報は報道によって無頓着に伝えられており、注意が必要だ。
まるで、南海トラフ巨大地震が目前に迫っているかのような印象を与えてしまっているが、そうではない。
海上保安庁は、このデータをもって、巨大地震が迫っていると警告しているわけではない。
ただ、今後の地震研究に役立ててもらえれば、ということでのデータ公開だということをまず確認しておこう。
今回の海上保安庁の公開した情報は、陸側プレートの年間移動距離が地域によって偏りがあり、それが初めてマップ上で確認できるようになったことに意味がある。
ただ、年間の移動距離と地震発生との関連は分かっていない。
移動距離が大きいところは、それだけ大きくひずみがたまり続けている地域なので、限界に近づくのも早そうだ。
逆に移動距離の小さいところは、プレートが滑ってひずみがたまらない地域なので、限界にまで余裕がありそうだ。
だが、逆の見方もできる。
移動距離が大きいということは、ひずみのたまり方が大きい地域だが、まだひずみの限界まで余裕があるのでひずみがたまりやすくなっているのかもしれない。
移動距離の小さいところは、ひずみの蓄積が小さいところではなく、すでに十分なひずみがたまっており、限界が近づいているために、それ以上のひずみがたまりにくくなっているのかもしれない。
特に、四国沖に広がっているひずみの大きいエリアは、この地域では最後に起きた1946年の南海地震のエリアと重なっており、ひずみの蓄積が少ないはずのところで、いま大きく移動していることになる。
それに、スロースリップ現象と言って、巨大地震が近づくと海側と陸側のプレートの固着部分が少しずつはがれ、滑り始めるのではないかと予想されている。
すると、年間移動距離が大きい地域は、まだスロースリップが起きていないことの証拠になる。
いずれにしても、海側のプレートに押されて陸側のプレートにひずみがたまり続けていることは、データ上でも確認された。
このひずみが限界に達したとき、一気に破壊し、南海トラフ巨大地震になる。
わたしたちは、南海トラフ巨大地震へのカウントダウンは、着実に進行していることの科学的な裏付けとして受け止めるべきだろう。
海保では2000年度から観測器を海底に置き、ひずみがたまる陸側と海側のプレート境目の動きを測定。
南海トラフ沿いの15カ所について、06年度から15年度の動きを分析した。
その結果、陸側プレートに置いた観測器が年間2〜5・5センチ移動しているのが観測された。
ひずみの場所はほぼ、政府が南海トラフ巨大地震の震源域として想定する領域にぴたりと一致する。
ひずみ蓄積状況は、地域によって濃淡があり、四国沖から日向灘のあたりにひずみの大きい地域が広がっているのが目立つ。
この情報は報道によって無頓着に伝えられており、注意が必要だ。
まるで、南海トラフ巨大地震が目前に迫っているかのような印象を与えてしまっているが、そうではない。
海上保安庁は、このデータをもって、巨大地震が迫っていると警告しているわけではない。
ただ、今後の地震研究に役立ててもらえれば、ということでのデータ公開だということをまず確認しておこう。
今回の海上保安庁の公開した情報は、陸側プレートの年間移動距離が地域によって偏りがあり、それが初めてマップ上で確認できるようになったことに意味がある。
ただ、年間の移動距離と地震発生との関連は分かっていない。
移動距離が大きいところは、それだけ大きくひずみがたまり続けている地域なので、限界に近づくのも早そうだ。
逆に移動距離の小さいところは、プレートが滑ってひずみがたまらない地域なので、限界にまで余裕がありそうだ。
だが、逆の見方もできる。
移動距離が大きいということは、ひずみのたまり方が大きい地域だが、まだひずみの限界まで余裕があるのでひずみがたまりやすくなっているのかもしれない。
移動距離の小さいところは、ひずみの蓄積が小さいところではなく、すでに十分なひずみがたまっており、限界が近づいているために、それ以上のひずみがたまりにくくなっているのかもしれない。
特に、四国沖に広がっているひずみの大きいエリアは、この地域では最後に起きた1946年の南海地震のエリアと重なっており、ひずみの蓄積が少ないはずのところで、いま大きく移動していることになる。
それに、スロースリップ現象と言って、巨大地震が近づくと海側と陸側のプレートの固着部分が少しずつはがれ、滑り始めるのではないかと予想されている。
すると、年間移動距離が大きい地域は、まだスロースリップが起きていないことの証拠になる。
いずれにしても、海側のプレートに押されて陸側のプレートにひずみがたまり続けていることは、データ上でも確認された。
このひずみが限界に達したとき、一気に破壊し、南海トラフ巨大地震になる。
わたしたちは、南海トラフ巨大地震へのカウントダウンは、着実に進行していることの科学的な裏付けとして受け止めるべきだろう。
2016年05月03日
熊本地震の教訓:地震が起きないと思われている地域こそ危険
4月14日に始まった熊本地震。
これまでに余震が1100回を超え、最大震度7を記録する地震が2回も発生するなど、観測史上例を見ない推移を見せている。
今なお余震は続いており、今後も震度6弱以上の地震が発生する可能性ありとして気象庁は注意を呼び掛けている。
今回の地震で一番驚いたのは、地元の人たちだろう。
なぜなら、熊本では地震は起きないというのが普通の認識だったからだ。
2014年に公表された地震動予測地図によると、首都圏と静岡県から紀伊半島、四国の太平洋側に高確率の赤い色が塗られている。
これは、以前から予想されている首都直下地震と南海トラフ巨大地震の影響する地域だ。
それ以外の地域はオレンジ色か黄色に塗られている。
この地図は、地震リスクの高い地域を知らせ、その地域の人々への啓発を目的に作られたものだ。
だが、本来の目的に反して、利用されてしまっている。
赤色に塗られていない地域は、地震の起きないところだ、という誤ったメッセージを送ることになってしまったのだ。
この地図で、熊本は黄色になっている。
このことで、熊本は地震の起きないところという根拠のない安心感を与えることになってしまった。
以前、熊本県は、企業誘致のうたい文句として地震の少なさを売りにしていた。
過去100年間に起きた地震を日本列島の地図上にプロットし、東北地方を「危険地帯」、熊本周辺を「安全地帯」と表示していた。
過去100年だけのデータをもとに危険地帯と安全地帯を分けてしまうのはかなり乱暴だし、科学的根拠のない危なっかしい主張だった。
熊本を安全地帯と信じて拠点を移した企業があったとしたら、詐欺にあったようなものだろう。
このように、地震の少なさを企業誘致の売りにしようとする自治体は、日本海側にもいくつか存在するが、同じような危なっかしさを抱えている。
地震調査研究推進本部が公開した地震動予測地図は、次はどこで大地震が発生するかを予想したものではない。
過去の地震発生のパターンから確率的にはじき出された数値を、分かりやすいようにビジュアル表示させたものだ。
だから、研究の進んでいる首都直下地震と南海トラフ巨大地震の発生確率だけが際立って高く表示される。
それ以外の地域は軒並み発生確率は低く表示される。
発生確率が低いのは、2つの理由がある。
1つは、発生周期が長いので、今後30年間に限ってみると、確率は極端に小さい数値になってしまうこと。
もう1つは、発生周期が不明なので、確率計算できないこと。
特に活断層が引き起こす内陸型の地震は、何千年に1回、何万年に1回という頻度なので、次の発生時期を予測するのは不可能だ。
無理やり計算したとしても、ほとんど0に近い数字にしかならない。
しかし、どんなに発生周期の長い地震であろうと、その時はいずれやってくる。
「ちょうどその日が万年目」ということがありうるのだ。
しかも、活断層は、日本列島には無数に存在し、今なお新たに発見されるものもある。
まだ見つかっていない活断層も相当あると予想されている。
それらの活断層1つ1つは、数千年に1回の頻度であったとしても、日本列島全体でみれば、常にどこかの活断層がいつ破壊するかわからないという状態にある。
そう考えると、地震の発生確率が低く表示されている地域は、地震の起きない地域と考えるのではなく、次にいつ地震が起きるかわからない地域と捉えた方がいい。
その意味では、首都直下や南海トラフよりも、リスクは大きい。
首都直下や南海トラフについては、どこでどのぐらいの地震が発生し、各地の被害はどの程度になるのかなど、既に豊富な情報が提供されている。
ところが、それ以外の地域は、いつどんな地震が起きるかわからないので、予想ができず、切迫感もなく、対策も進んでいない。
そこを地震が襲うと、地震の規模以上に被害を拡大させてしまうことになる。
いま、地震対策に積極的な自治体と消極的な自治体がある。
消極的な自治体にもそれなりの言い分がある。
「あまり地震の脅威ばかり強調すると、人が住みたがらなくなってしまう。企業がほかに逃げてしまう」
だが、この認識は、間違いだろう。
地震リスクがあるにもかかわらず、それが認識されていない地域は、地震対策が進んでいないのは明らか。
そんな地域に住むことは、安心できるどころか、むしろ不安が大きい。
地震の少なさを売りにして企業誘致をしようとする自治体は、一番危なっかしい。
そのような自治体は、地震への備えは何もできていないと宣言しているようなものだからだ。
これまでに余震が1100回を超え、最大震度7を記録する地震が2回も発生するなど、観測史上例を見ない推移を見せている。
今なお余震は続いており、今後も震度6弱以上の地震が発生する可能性ありとして気象庁は注意を呼び掛けている。
今回の地震で一番驚いたのは、地元の人たちだろう。
なぜなら、熊本では地震は起きないというのが普通の認識だったからだ。
2014年に公表された地震動予測地図によると、首都圏と静岡県から紀伊半島、四国の太平洋側に高確率の赤い色が塗られている。
これは、以前から予想されている首都直下地震と南海トラフ巨大地震の影響する地域だ。
それ以外の地域はオレンジ色か黄色に塗られている。
この地図は、地震リスクの高い地域を知らせ、その地域の人々への啓発を目的に作られたものだ。
だが、本来の目的に反して、利用されてしまっている。
赤色に塗られていない地域は、地震の起きないところだ、という誤ったメッセージを送ることになってしまったのだ。
この地図で、熊本は黄色になっている。
このことで、熊本は地震の起きないところという根拠のない安心感を与えることになってしまった。
以前、熊本県は、企業誘致のうたい文句として地震の少なさを売りにしていた。
過去100年間に起きた地震を日本列島の地図上にプロットし、東北地方を「危険地帯」、熊本周辺を「安全地帯」と表示していた。
過去100年だけのデータをもとに危険地帯と安全地帯を分けてしまうのはかなり乱暴だし、科学的根拠のない危なっかしい主張だった。
熊本を安全地帯と信じて拠点を移した企業があったとしたら、詐欺にあったようなものだろう。
このように、地震の少なさを企業誘致の売りにしようとする自治体は、日本海側にもいくつか存在するが、同じような危なっかしさを抱えている。
地震調査研究推進本部が公開した地震動予測地図は、次はどこで大地震が発生するかを予想したものではない。
過去の地震発生のパターンから確率的にはじき出された数値を、分かりやすいようにビジュアル表示させたものだ。
だから、研究の進んでいる首都直下地震と南海トラフ巨大地震の発生確率だけが際立って高く表示される。
それ以外の地域は軒並み発生確率は低く表示される。
発生確率が低いのは、2つの理由がある。
1つは、発生周期が長いので、今後30年間に限ってみると、確率は極端に小さい数値になってしまうこと。
もう1つは、発生周期が不明なので、確率計算できないこと。
特に活断層が引き起こす内陸型の地震は、何千年に1回、何万年に1回という頻度なので、次の発生時期を予測するのは不可能だ。
無理やり計算したとしても、ほとんど0に近い数字にしかならない。
しかし、どんなに発生周期の長い地震であろうと、その時はいずれやってくる。
「ちょうどその日が万年目」ということがありうるのだ。
しかも、活断層は、日本列島には無数に存在し、今なお新たに発見されるものもある。
まだ見つかっていない活断層も相当あると予想されている。
それらの活断層1つ1つは、数千年に1回の頻度であったとしても、日本列島全体でみれば、常にどこかの活断層がいつ破壊するかわからないという状態にある。
そう考えると、地震の発生確率が低く表示されている地域は、地震の起きない地域と考えるのではなく、次にいつ地震が起きるかわからない地域と捉えた方がいい。
その意味では、首都直下や南海トラフよりも、リスクは大きい。
首都直下や南海トラフについては、どこでどのぐらいの地震が発生し、各地の被害はどの程度になるのかなど、既に豊富な情報が提供されている。
ところが、それ以外の地域は、いつどんな地震が起きるかわからないので、予想ができず、切迫感もなく、対策も進んでいない。
そこを地震が襲うと、地震の規模以上に被害を拡大させてしまうことになる。
いま、地震対策に積極的な自治体と消極的な自治体がある。
消極的な自治体にもそれなりの言い分がある。
「あまり地震の脅威ばかり強調すると、人が住みたがらなくなってしまう。企業がほかに逃げてしまう」
だが、この認識は、間違いだろう。
地震リスクがあるにもかかわらず、それが認識されていない地域は、地震対策が進んでいないのは明らか。
そんな地域に住むことは、安心できるどころか、むしろ不安が大きい。
地震の少なさを売りにして企業誘致をしようとする自治体は、一番危なっかしい。
そのような自治体は、地震への備えは何もできていないと宣言しているようなものだからだ。
2016年04月27日
企業存続の危機:三菱自動車不正発覚
三菱自動車の不正がまたも発覚した。
燃費試験データの偽装があったという。
ドイツVWの燃費偽装が世界を驚かせたが、日本の自動車メーカーでもか、という脱力感は大きい。
同社が製造する軽自動車の型式認証取得において、国交省へ提出した燃費試験データについて、不正な操作が行われていた。
該当するのは、2013年6月から生産している軽自動車「eKワゴン」「eKスペース」と、日産自動車向けに供給している「デイズ」「デイズクルーズ」の4車種。
タイヤの抵抗や空気抵抗の数値を意図的に操作し、実際より燃費が良くなるように見せかけ、届け出をしていた。
軽自動車の開発で提携する日産が次期車の開発にあたり、該当車の燃費を参考に測定したところ、数値に開きがあったため三菱自に確認を求めたことで、不正が発覚した。
不正発覚は、内部告発によるものが一般的だが、今回は、社外の日産からの指摘で発覚したところが特徴だ。
三菱自動車は、日産に対して、軽自動車のOEM供給をしており、その軽自動車で不正が見つかったことになる。
深刻なのは、三菱自動車にとって、スキャンダルがこれが初めてではないことだ。
2000年にはリコール隠しが発覚し、強烈な社会的非難を浴びた。
その騒動が収まりかけたところで、トラックのタイヤが外れる死亡事故が起き、再び別のリコール隠しが発覚。
三菱自の信頼は地に落ちた。
一時は経営存続まで危ぶまれた。
関連会社の支援と、抜本的な社内体制の見直しの成果、そして、昨今の円安の効果で、ようやく経営が軌道に乗ってきたところだった。
そして今回の燃費偽装だ。
前回のリコール隠しは、真相解明が不十分であったために、別のリコール隠しの発覚でダメージを深くした。
今回も、燃費偽装が、別の車種でも見つかっており、不正の拡大の様子が見える。
燃費偽装は25年も前から常態化していたという情報もあり、そうすると、あのリコール隠し騒動より以前からの問題だったということになる。
リコール問題で組織体質を一新したのではなかったのか。
抜本的再出発をしたのではなかったのか。
三菱自動車という企業への不信感はぬぐいがたい。
今回は三菱グループの支援は仰げないだろう。
むしろ、三菱ブランドをこれ以上棄損させないために、早々に切り捨てるのではないか。
今後は、消費者への補償、売上の低迷は避けられない。
三菱自動車の企業存続は難しい。
燃費試験データの偽装があったという。
ドイツVWの燃費偽装が世界を驚かせたが、日本の自動車メーカーでもか、という脱力感は大きい。
同社が製造する軽自動車の型式認証取得において、国交省へ提出した燃費試験データについて、不正な操作が行われていた。
該当するのは、2013年6月から生産している軽自動車「eKワゴン」「eKスペース」と、日産自動車向けに供給している「デイズ」「デイズクルーズ」の4車種。
タイヤの抵抗や空気抵抗の数値を意図的に操作し、実際より燃費が良くなるように見せかけ、届け出をしていた。
軽自動車の開発で提携する日産が次期車の開発にあたり、該当車の燃費を参考に測定したところ、数値に開きがあったため三菱自に確認を求めたことで、不正が発覚した。
不正発覚は、内部告発によるものが一般的だが、今回は、社外の日産からの指摘で発覚したところが特徴だ。
三菱自動車は、日産に対して、軽自動車のOEM供給をしており、その軽自動車で不正が見つかったことになる。
深刻なのは、三菱自動車にとって、スキャンダルがこれが初めてではないことだ。
2000年にはリコール隠しが発覚し、強烈な社会的非難を浴びた。
その騒動が収まりかけたところで、トラックのタイヤが外れる死亡事故が起き、再び別のリコール隠しが発覚。
三菱自の信頼は地に落ちた。
一時は経営存続まで危ぶまれた。
関連会社の支援と、抜本的な社内体制の見直しの成果、そして、昨今の円安の効果で、ようやく経営が軌道に乗ってきたところだった。
そして今回の燃費偽装だ。
前回のリコール隠しは、真相解明が不十分であったために、別のリコール隠しの発覚でダメージを深くした。
今回も、燃費偽装が、別の車種でも見つかっており、不正の拡大の様子が見える。
燃費偽装は25年も前から常態化していたという情報もあり、そうすると、あのリコール隠し騒動より以前からの問題だったということになる。
リコール問題で組織体質を一新したのではなかったのか。
抜本的再出発をしたのではなかったのか。
三菱自動車という企業への不信感はぬぐいがたい。
今回は三菱グループの支援は仰げないだろう。
むしろ、三菱ブランドをこれ以上棄損させないために、早々に切り捨てるのではないか。
今後は、消費者への補償、売上の低迷は避けられない。
三菱自動車の企業存続は難しい。
2016年03月30日
政府によるBCP認証制度の構想
2013年、国土強靭化基本法が成立し、国が計画に基づき施策を推進する一方、地方でも計画の策定が進んでいる。
ところが、この国土強靭化は、行政がやるべき公共事業というイメージがあるために、誤解を与えることになった。
本来、国土強靭化とは、行政と民間が一体となって取り組むべき事業であるはずなのに、民間への普及がいまひとつ及んでいない。
そこで、民間を巻き込むために、国土強靭化に貢献している民間企業を高く評価し、インセンティブを与える仕組みを作ろうということになった。
民間企業の取り組む国土強靭化は、大きく3つに分類できる。
1、防災用品やサービスの提供。
2.事業継続のための自助活動。
3.社会貢献のための共助活動。
これらの活動を国としても積極的に評価し、後押ししようというわけだ。
ただ、1については国が評価すべきものではなく、市場が判断すべきものなので、ひとまず見送られることになった。
そこで、市場に乗りにくい2の事業継続のための活動を国として認証し、取り組みを促進しようというところに焦点が絞られた。
スキームとしては、外部委員による審査委員会を立ち上げ、そこが企業のBCPを審査し認証する。
認証企業には登録マークの付与などのインセンティブを用意する。
認証取得した企業は、それを積極的に広報に利用することができる。
事業継続の認証規格としては、すでにISO22301があるが、あまりにもスペックが高度で、一般の中小企業には不必要にハードルが高すぎる。
すると、一般に公表されているガイドラインやフォーマットに基づいて独自に策定したBCPで自己認証するしかないが、これではただの自己満足に終わってしまう恐れがある。
それで、その中間の仕組みとして今回の認証制度の構想が立ち上がった。
この動きは歓迎すべきだ。
国土強靭化政策が行政レベルでとどまっており、一向に普及しないことにじれったさを感じていたが、ようやくそこに手が届くように泣てきた。
民間企業のBCPは取り組みが随分進んではいるが、まだまだ一部の企業に限られている。
BCPの必要性を認識している経営者は多いのに、なぜ、取り組みが進まないのかは、明らかだった。
そのメリットがはっきりしないからだ。
BCPに取り組まないと取引が続けられないとなれば、真剣に取り組むだろう。
だが、取り組んでも取り組まなくても、ビジネスに何の影響もないとなれば、誰も真剣に取り組もうとしない。
国のBCP認証制度は、その問題を解消しようとするものだ。
この制度は、まだ構想段階であり、具体的な実行段階にはない。
今後、実務レベルの詰め作業が行われるのだろう。
実務レベルの話になると、いろんなところに問題や課題が出てきそうだ。
まず、心配されるのが、認証の審査基準をどうするのか、ということ。
その企業のBCPを調べて、形式的な要件が揃っていればOKとするのか。
それとも、その企業の事業実態を勘案して、BCPの実効性まで審査するのか。
形式的な要件に絞れば、基準は明確だし審査は簡単だ。
だが、それは、形を整えた書類がそろったことが証明できただけ。
BCPの目的は書類をそろえることではなく、実際に大災害に見舞われたときに、企業が生き残って事業を継続できるかどうかに重点がある。
形式審査では、ただ書類を整えることに注力し、実際の防災対策は何も行われていないということにもなりかねない。
これでは、何のためのBCPか分からない。
むしろ、認証制度のために企業を形式的な取り組みに向かわせてしまったら、それは弊害の方が大きい。
ならば、実態審査まで行うのか。
すると、審査にはかなりの時間がかかり、審査員には高度な知識と能力が求められることになる。
BCPは、単なる防災対策とは違うので、その企業の事業内容や経営実態を理解した上でないと評価できないはずだからだ。
それは、ただ提出された書類を見ただけでは判断できない。
更に、審査項目は多岐にわたり基準もあいまいにならざるを得ない。
どこまでの対策ができていることをもって認証とするのか。
この認証が国のお墨付きになるのだから、余計にその基準は重要になる。
この内容ならOK、この内容では不十分。
簡単にはこんな判断はできないだろう。
今回の認証制度の構想は、方向性としては素晴らしい。
ただ、運用面でまだまだかなりのハードルがありそうだ。
ところが、この国土強靭化は、行政がやるべき公共事業というイメージがあるために、誤解を与えることになった。
本来、国土強靭化とは、行政と民間が一体となって取り組むべき事業であるはずなのに、民間への普及がいまひとつ及んでいない。
そこで、民間を巻き込むために、国土強靭化に貢献している民間企業を高く評価し、インセンティブを与える仕組みを作ろうということになった。
民間企業の取り組む国土強靭化は、大きく3つに分類できる。
1、防災用品やサービスの提供。
2.事業継続のための自助活動。
3.社会貢献のための共助活動。
これらの活動を国としても積極的に評価し、後押ししようというわけだ。
ただ、1については国が評価すべきものではなく、市場が判断すべきものなので、ひとまず見送られることになった。
そこで、市場に乗りにくい2の事業継続のための活動を国として認証し、取り組みを促進しようというところに焦点が絞られた。
スキームとしては、外部委員による審査委員会を立ち上げ、そこが企業のBCPを審査し認証する。
認証企業には登録マークの付与などのインセンティブを用意する。
認証取得した企業は、それを積極的に広報に利用することができる。
事業継続の認証規格としては、すでにISO22301があるが、あまりにもスペックが高度で、一般の中小企業には不必要にハードルが高すぎる。
すると、一般に公表されているガイドラインやフォーマットに基づいて独自に策定したBCPで自己認証するしかないが、これではただの自己満足に終わってしまう恐れがある。
それで、その中間の仕組みとして今回の認証制度の構想が立ち上がった。
この動きは歓迎すべきだ。
国土強靭化政策が行政レベルでとどまっており、一向に普及しないことにじれったさを感じていたが、ようやくそこに手が届くように泣てきた。
民間企業のBCPは取り組みが随分進んではいるが、まだまだ一部の企業に限られている。
BCPの必要性を認識している経営者は多いのに、なぜ、取り組みが進まないのかは、明らかだった。
そのメリットがはっきりしないからだ。
BCPに取り組まないと取引が続けられないとなれば、真剣に取り組むだろう。
だが、取り組んでも取り組まなくても、ビジネスに何の影響もないとなれば、誰も真剣に取り組もうとしない。
国のBCP認証制度は、その問題を解消しようとするものだ。
この制度は、まだ構想段階であり、具体的な実行段階にはない。
今後、実務レベルの詰め作業が行われるのだろう。
実務レベルの話になると、いろんなところに問題や課題が出てきそうだ。
まず、心配されるのが、認証の審査基準をどうするのか、ということ。
その企業のBCPを調べて、形式的な要件が揃っていればOKとするのか。
それとも、その企業の事業実態を勘案して、BCPの実効性まで審査するのか。
形式的な要件に絞れば、基準は明確だし審査は簡単だ。
だが、それは、形を整えた書類がそろったことが証明できただけ。
BCPの目的は書類をそろえることではなく、実際に大災害に見舞われたときに、企業が生き残って事業を継続できるかどうかに重点がある。
形式審査では、ただ書類を整えることに注力し、実際の防災対策は何も行われていないということにもなりかねない。
これでは、何のためのBCPか分からない。
むしろ、認証制度のために企業を形式的な取り組みに向かわせてしまったら、それは弊害の方が大きい。
ならば、実態審査まで行うのか。
すると、審査にはかなりの時間がかかり、審査員には高度な知識と能力が求められることになる。
BCPは、単なる防災対策とは違うので、その企業の事業内容や経営実態を理解した上でないと評価できないはずだからだ。
それは、ただ提出された書類を見ただけでは判断できない。
更に、審査項目は多岐にわたり基準もあいまいにならざるを得ない。
どこまでの対策ができていることをもって認証とするのか。
この認証が国のお墨付きになるのだから、余計にその基準は重要になる。
この内容ならOK、この内容では不十分。
簡単にはこんな判断はできないだろう。
今回の認証制度の構想は、方向性としては素晴らしい。
ただ、運用面でまだまだかなりのハードルがありそうだ。
2016年03月14日
地震予想屋の情報は有害ノイズにしかならない
3月6日の「Mr.サンデー」という情報番組、「首都直下地震予測SP」とタイトルがあった。
公式に新たな地震予測のデータが公表されたのかと思い、観てみた。
結果、程度の低さに愕然としたというのが正直なところだ。
地震予測として紹介されていたのは、あの村井俊治氏だった。
村井氏は、GPS地震予測でメディアでしばしば取り上げられている。
この番組では、過去に6回も取り上げているのだという。
今回紹介されたのは、NTTドコモがLTEネットワークを活用して地震予測と津波監視に貢献する新しい取り組みを行うというもの。
村井氏の地震予測にも貢献するという。
これで、また一つこの地震予測の権威づけが行われてしまった。
村井氏のGPS地震予測は、専門家の間では、ほとんど話題になっていない。
なぜなら、検討するに値しない代物だからだ。
研究論文もないので、この予測法の真偽を検証することもできず、専門家は評価のしようがないというのが実態だ。
真っ向から専門家に否定されないのをいいことに、一般向けに怪しい地震予測を発信し続けている。
村井氏を権威づけているのは、「東大名誉教授」という肩書だ。
メディアで紹介されるときは、必ずこの肩書とともに村井氏が紹介される。
本人も、ことあるごとに自分のことを「東大名誉教授として」とか「科学者として」と強調している。
ここが自分を相手に信じ込ませる唯一の拠り所だということが分かっているからだろう。
だが、彼のやっている地震予測は、とても科学者の研究とは思えない杜撰なものという印象がぬぐえない。
まず、「的中率80%」という大げさな触れ込みが怪しさの第一。
何をもって的中率と言っているのか不明だからだ。
的中率には2つの側面がある。
1つは、実際に起きた地震のうち、どれだけを予測していたか、というもの。
もう1つは、予測した地震のうち、どれだけが実際に起きたか、というもの。
地震予報屋が言う的中率はどういう計算根拠で言っているのか不明だ。
たぶん、自分に都合のいい数字を抜き出して、計算しているだけなのだろう。
まったく、客観的な検証に耐えられない。
メディア報道によると、村井氏は、「過去一定期間に震度5以上の地震が25回発生したが、そのうち村井氏が予測していた地震は23回だった」という。
ものすごい的中率を誇っているように見える。
しかし、実態を知るとがっかりする。
予測期間は6か月。
予測エリアは非常に広い地域で曖昧。
予測はマグニチュードではなく、震度。
これなら当たって当たり前だ。
日本中のいろんなエリアに常に地震予測を出し続けていれば、必ずどこかが当たってしまうことになる。
これほど、いろんな地震を予想しまくっているのに、あの東日本大震災は当てることができなかった。
日本史上最大級の地震であれば、その予兆は、いままで見たこともないような異常値を示していたはずなのにだ。
しかも、この巨大地震の2日前には前震があった。
大地震が2回も連続して起きているのだから、そこには異常値がくっきりと示されてなければいけないはずだ。
ところが、彼は、この大地震を見逃したことを深刻に受け止めている様子がない。
「国土交通省から提供されるデータが遅すぎたためにはっきりわからなかった」「予兆は掴んでいたが、発表をためらってしまった」ということで終わっているようだ。
科学者の態度としては、非常に不誠実に見える。
予測が震度で行われているのも非常に奇妙だ。
地震の規模はマグニチュードで表され、1つの地震に必ず1つのマグニチュードが決まる。
震度は、各地の揺れの大きさを表しているだけなので、同じ地震でも場所によって揺れの大きさはまちまちだ。
局地的に地盤の柔らかいところがあれば、そこだけ揺れが大きくなることもある。
1カ所だけでも震度5を観測したところが見つかれば、当たり、となる。
マグニチュードではなく、震度で予測しているのは、その方が当たりやすいからではないか。
GPS地震予測は、どのように行なっているかというと、全国にある1300カ所の電子基準点のデータを取り寄せて、各点の地盤の上下動を調べるのだという。
短期的に大きな変動が起きたときが異常値の発生とみて、地震発生の前兆とする。
ここに大きな問題がある。
地震発生前に地盤の上下動があるのか、ここがまず検証できていない。
GPSデータでは時々異常値が出るが、それは気象条件などノイズによるデータの揺れと国土交通省では解説している。
だが、村井氏はそんな警告はお構いなし。
異常値は、すべて地震の前兆と捉える。
このような異常値は、日本中いろんなところで常に出るので、そのたびに新たな地震予測が出ることになる。
そのうちにどこかで実際に地震が起きると、「大当たり」となる。
6か月という長期間の予測で、非常に広い範囲を複数指定して予測するが、それでも外れてしまうことがある。
その場合は、「地震が起きなかったのは幸い」「外れることを恐れず、勇気をもって予測を発信し続けたい」というコメントになる。
村井氏は勇気ある孤高の研究者を気取っているようだ。
何の責任もない地震予想屋は、予想が外れたとしても意に介さない。
村井氏は非常に悔しい思いをしたことがあるという。
北海道南部に地震予測を出していたが、青森県の方で地震が起きたために、これがこの地震予測だったのだと解釈し、予測情報を取り下げてしまったところ、その直後に北海道で地震が起きたのだ。
「あのまま、地震予測を出し続けていれば、大当たりだったのに」という悔しさだ。
これは、とても科学者の態度に見えない。
ただ、当たり外れのギャンブルを楽しんでいるかのようだ。
彼は、青森県で地震が起きた時点で、自分の予想は場所が少しずれただけと解釈し、その後、北海道で地震が起きれば、実は、自分の予測はぴったり当たっていた、と解釈する。
彼の予想とはこの程度なのだ。
GPSデータの異常値は地震発生の前兆である、という仮説設定に問題はない。
だが、その仮説を科学的に検証した形跡がなく、途中をすっ飛ばして、GPSデータで地震予測ができるという結論に短絡してしまっている。
異常データを見て、どこにいつどの程度の地震が起きそうかは、村井氏の勘で決めているようだ。
「このぐらいの異常値だったら、このぐらいの地震だろう」という感じだ。
なぜ、この異常値だと、そういう予測になるのかは、彼の頭の中にしかない。
彼自身、経験値が蓄積してきたので、昔よりも予測精度がよくなっていると言っている。
だから、この地震予測は役に立つのだと言いたいらしいのだが、こういっている時点で、本当に彼は科学者か、と疑わしい。
彼が経験値を積まないと予測精度が高まらないのでは、科学ではない。
小保方氏でないとSTAP細胞はつくれない、では話にならないのと同じだ。
Mrサンデーでは、村井氏の特集を流した後、コメンテーターにコメントを求めていた。
コメンテーターも困っただろう。
全面肯定するには胡散臭すぎるが、立場上、否定的なコメントをするわけにもいかない。
コメンテーターの1人はこんなことを言っていた。
「とにかく、選択肢が増えるのはいいことですよね」
いろんな地震予測が出て、その中から私たちが選べばいい、ということだ。
肯定も否定もしない、ぎりぎりのコメントだった。
番組コメンテーターとしては、これが精一杯だろう。
だが、実際は、地震予測情報が氾濫するのは、選択肢が増えて結構ということにはならない。
私たち一般人は、予測情報の真偽を確かめるのは不可能。
となると、本当に科学的根拠にのっとった信憑性のある情報があったとしても、それは、多くのノイズの中に埋もれてしまう。
村井氏のような予測屋の情報の方が、大げさで分かりやすいので、一般の人たちには訴求力がある。
怪しげな情報の方がメディアでセンセーショナルに取り上げられ、本当に注目すべき情報が消し去られる。
悪貨が良貨を駆逐するという現象が起きてしまう。
こちらの方が大問題だ。
村井氏の地震予測については、科学的な立場で批判しているサイトやブログが少数ながら存在する。
このような動きがあることに安心した。
公式に新たな地震予測のデータが公表されたのかと思い、観てみた。
結果、程度の低さに愕然としたというのが正直なところだ。
地震予測として紹介されていたのは、あの村井俊治氏だった。
村井氏は、GPS地震予測でメディアでしばしば取り上げられている。
この番組では、過去に6回も取り上げているのだという。
今回紹介されたのは、NTTドコモがLTEネットワークを活用して地震予測と津波監視に貢献する新しい取り組みを行うというもの。
村井氏の地震予測にも貢献するという。
これで、また一つこの地震予測の権威づけが行われてしまった。
村井氏のGPS地震予測は、専門家の間では、ほとんど話題になっていない。
なぜなら、検討するに値しない代物だからだ。
研究論文もないので、この予測法の真偽を検証することもできず、専門家は評価のしようがないというのが実態だ。
真っ向から専門家に否定されないのをいいことに、一般向けに怪しい地震予測を発信し続けている。
村井氏を権威づけているのは、「東大名誉教授」という肩書だ。
メディアで紹介されるときは、必ずこの肩書とともに村井氏が紹介される。
本人も、ことあるごとに自分のことを「東大名誉教授として」とか「科学者として」と強調している。
ここが自分を相手に信じ込ませる唯一の拠り所だということが分かっているからだろう。
だが、彼のやっている地震予測は、とても科学者の研究とは思えない杜撰なものという印象がぬぐえない。
まず、「的中率80%」という大げさな触れ込みが怪しさの第一。
何をもって的中率と言っているのか不明だからだ。
的中率には2つの側面がある。
1つは、実際に起きた地震のうち、どれだけを予測していたか、というもの。
もう1つは、予測した地震のうち、どれだけが実際に起きたか、というもの。
地震予報屋が言う的中率はどういう計算根拠で言っているのか不明だ。
たぶん、自分に都合のいい数字を抜き出して、計算しているだけなのだろう。
まったく、客観的な検証に耐えられない。
メディア報道によると、村井氏は、「過去一定期間に震度5以上の地震が25回発生したが、そのうち村井氏が予測していた地震は23回だった」という。
ものすごい的中率を誇っているように見える。
しかし、実態を知るとがっかりする。
予測期間は6か月。
予測エリアは非常に広い地域で曖昧。
予測はマグニチュードではなく、震度。
これなら当たって当たり前だ。
日本中のいろんなエリアに常に地震予測を出し続けていれば、必ずどこかが当たってしまうことになる。
これほど、いろんな地震を予想しまくっているのに、あの東日本大震災は当てることができなかった。
日本史上最大級の地震であれば、その予兆は、いままで見たこともないような異常値を示していたはずなのにだ。
しかも、この巨大地震の2日前には前震があった。
大地震が2回も連続して起きているのだから、そこには異常値がくっきりと示されてなければいけないはずだ。
ところが、彼は、この大地震を見逃したことを深刻に受け止めている様子がない。
「国土交通省から提供されるデータが遅すぎたためにはっきりわからなかった」「予兆は掴んでいたが、発表をためらってしまった」ということで終わっているようだ。
科学者の態度としては、非常に不誠実に見える。
予測が震度で行われているのも非常に奇妙だ。
地震の規模はマグニチュードで表され、1つの地震に必ず1つのマグニチュードが決まる。
震度は、各地の揺れの大きさを表しているだけなので、同じ地震でも場所によって揺れの大きさはまちまちだ。
局地的に地盤の柔らかいところがあれば、そこだけ揺れが大きくなることもある。
1カ所だけでも震度5を観測したところが見つかれば、当たり、となる。
マグニチュードではなく、震度で予測しているのは、その方が当たりやすいからではないか。
GPS地震予測は、どのように行なっているかというと、全国にある1300カ所の電子基準点のデータを取り寄せて、各点の地盤の上下動を調べるのだという。
短期的に大きな変動が起きたときが異常値の発生とみて、地震発生の前兆とする。
ここに大きな問題がある。
地震発生前に地盤の上下動があるのか、ここがまず検証できていない。
GPSデータでは時々異常値が出るが、それは気象条件などノイズによるデータの揺れと国土交通省では解説している。
だが、村井氏はそんな警告はお構いなし。
異常値は、すべて地震の前兆と捉える。
このような異常値は、日本中いろんなところで常に出るので、そのたびに新たな地震予測が出ることになる。
そのうちにどこかで実際に地震が起きると、「大当たり」となる。
6か月という長期間の予測で、非常に広い範囲を複数指定して予測するが、それでも外れてしまうことがある。
その場合は、「地震が起きなかったのは幸い」「外れることを恐れず、勇気をもって予測を発信し続けたい」というコメントになる。
村井氏は勇気ある孤高の研究者を気取っているようだ。
何の責任もない地震予想屋は、予想が外れたとしても意に介さない。
村井氏は非常に悔しい思いをしたことがあるという。
北海道南部に地震予測を出していたが、青森県の方で地震が起きたために、これがこの地震予測だったのだと解釈し、予測情報を取り下げてしまったところ、その直後に北海道で地震が起きたのだ。
「あのまま、地震予測を出し続けていれば、大当たりだったのに」という悔しさだ。
これは、とても科学者の態度に見えない。
ただ、当たり外れのギャンブルを楽しんでいるかのようだ。
彼は、青森県で地震が起きた時点で、自分の予想は場所が少しずれただけと解釈し、その後、北海道で地震が起きれば、実は、自分の予測はぴったり当たっていた、と解釈する。
彼の予想とはこの程度なのだ。
GPSデータの異常値は地震発生の前兆である、という仮説設定に問題はない。
だが、その仮説を科学的に検証した形跡がなく、途中をすっ飛ばして、GPSデータで地震予測ができるという結論に短絡してしまっている。
異常データを見て、どこにいつどの程度の地震が起きそうかは、村井氏の勘で決めているようだ。
「このぐらいの異常値だったら、このぐらいの地震だろう」という感じだ。
なぜ、この異常値だと、そういう予測になるのかは、彼の頭の中にしかない。
彼自身、経験値が蓄積してきたので、昔よりも予測精度がよくなっていると言っている。
だから、この地震予測は役に立つのだと言いたいらしいのだが、こういっている時点で、本当に彼は科学者か、と疑わしい。
彼が経験値を積まないと予測精度が高まらないのでは、科学ではない。
小保方氏でないとSTAP細胞はつくれない、では話にならないのと同じだ。
Mrサンデーでは、村井氏の特集を流した後、コメンテーターにコメントを求めていた。
コメンテーターも困っただろう。
全面肯定するには胡散臭すぎるが、立場上、否定的なコメントをするわけにもいかない。
コメンテーターの1人はこんなことを言っていた。
「とにかく、選択肢が増えるのはいいことですよね」
いろんな地震予測が出て、その中から私たちが選べばいい、ということだ。
肯定も否定もしない、ぎりぎりのコメントだった。
番組コメンテーターとしては、これが精一杯だろう。
だが、実際は、地震予測情報が氾濫するのは、選択肢が増えて結構ということにはならない。
私たち一般人は、予測情報の真偽を確かめるのは不可能。
となると、本当に科学的根拠にのっとった信憑性のある情報があったとしても、それは、多くのノイズの中に埋もれてしまう。
村井氏のような予測屋の情報の方が、大げさで分かりやすいので、一般の人たちには訴求力がある。
怪しげな情報の方がメディアでセンセーショナルに取り上げられ、本当に注目すべき情報が消し去られる。
悪貨が良貨を駆逐するという現象が起きてしまう。
こちらの方が大問題だ。
村井氏の地震予測については、科学的な立場で批判しているサイトやブログが少数ながら存在する。
このような動きがあることに安心した。
2016年03月04日
中小企業のBCP策定は二極化傾向:静岡新聞
静岡新聞の報道による。
中小企業のBCP策定状況は、少しずつ進んではいるが、二極分化が起きてしまっているのが分かる。
策定済み企業が5分の1ぐらいまで増えてきて、これは過去最高の値だ。
だが、その一方で、策定予定なしが4分の1も存在している。
いち早く行動を起こした企業は、とっくに先頭を走り続けているが、のんびりした企業は現状にとどまったまま。
その格差は、どんどん開きつつある。
これは、私も現場指導の中で実感していることだったが、データ上でも確認できた。
静岡県は、南海トラフ巨大地震の震源域に含まれており、最も大きな揺れと、大きな津波被害が予想されている地域だ。
どこよりもBCPの策定は進んでいるはずだが、それでも、中小企業の実態はこの状態なのだ。
震災リスクを我がことと考えられていない事業経営者がまだまだいるということなのだろう。
震災リスクを免れる企業は存在しない。
経営基盤の脆弱な中小企業こそ、BCPは真剣に考えていかなくてはならない。
-------------------------------------------------
静岡県が県内中小企業530社を対象に行った事業継続計画(BCP)の策定状況調査。
BCP策定済みの企業:18・7%
策定予定なし:26・2%
BCP策定済み、策定中:12・6%
防災計画の一部に編入:7・7%
今後策定する予定:24・7%
策定しない理由(複数回答)
「必要なノウハウ、スキルがない」(52・5%)
「策定する人手を確保できない」(48・9%)
策定率向上につながる制度として、自治体や商工団体による策定支援、策定企業への優遇措置、BCP勉強会の開催などを求める意見が挙がった。
県商工振興課は「BCPの意義をいかに理解してもらうかが鍵」として、中小企業向け策定マニュアルの普及など、市町や産業支援機関と連携した啓発活動を強化する。
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中小企業のBCP策定状況は、少しずつ進んではいるが、二極分化が起きてしまっているのが分かる。
策定済み企業が5分の1ぐらいまで増えてきて、これは過去最高の値だ。
だが、その一方で、策定予定なしが4分の1も存在している。
いち早く行動を起こした企業は、とっくに先頭を走り続けているが、のんびりした企業は現状にとどまったまま。
その格差は、どんどん開きつつある。
これは、私も現場指導の中で実感していることだったが、データ上でも確認できた。
静岡県は、南海トラフ巨大地震の震源域に含まれており、最も大きな揺れと、大きな津波被害が予想されている地域だ。
どこよりもBCPの策定は進んでいるはずだが、それでも、中小企業の実態はこの状態なのだ。
震災リスクを我がことと考えられていない事業経営者がまだまだいるということなのだろう。
震災リスクを免れる企業は存在しない。
経営基盤の脆弱な中小企業こそ、BCPは真剣に考えていかなくてはならない。
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静岡県が県内中小企業530社を対象に行った事業継続計画(BCP)の策定状況調査。
BCP策定済みの企業:18・7%
策定予定なし:26・2%
BCP策定済み、策定中:12・6%
防災計画の一部に編入:7・7%
今後策定する予定:24・7%
策定しない理由(複数回答)
「必要なノウハウ、スキルがない」(52・5%)
「策定する人手を確保できない」(48・9%)
策定率向上につながる制度として、自治体や商工団体による策定支援、策定企業への優遇措置、BCP勉強会の開催などを求める意見が挙がった。
県商工振興課は「BCPの意義をいかに理解してもらうかが鍵」として、中小企業向け策定マニュアルの普及など、市町や産業支援機関と連携した啓発活動を強化する。
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2016年02月26日
添田孝史著『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)
久しぶりに読み応えのある電子書籍を読了。
添田孝史著『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)
東日本大震災によって引き起こされた原発事故。
1000年に1度の未曽有の大災害に襲われ、すべての被害が想定外と言われた。
福島原発の被害も、津波想定が低すぎたために相応の備えができておらず、電源喪失を招いてしまった。
稀に貞観地震の再来を警告する地震学者もいたが、多く専門家の支持を受けて定説に至っておらず、今回の事故はやむを得ぬ事態だった、というのがこれまでの印象だった。
ところが、この本を読んでみると印象は全く違う。
貞観地震の脅威は、いたるところで指摘され続けていたという印象だ。
福島でも十数メートル級の津波の恐れあり、という情報は、様々な報告書の形ではっきり指摘されていた。
ところが、それを東電や保安院らは、いろいろと難癖をつけてそれらの情報を排除し続けた。
そして、自分らに都合のいい予測数値を重要視して、現状に問題がないことの根拠とした。
この様子が細かく丁寧に描かれている。
反原発の本は、ややもすると、当事者の非をあげつらい、一方的に糾弾するのが通例だ。
だが、この本は違う。
事実を丹念に積み上げ、自分自身もメディアに携わる立場でありながら、同じようにリスクに目をつぶってしまっていたという自戒を込めて語られている。
最後に、「自分が東電や保安院の責任者だったら、どうしただろうか」と自らに問うている。
もしかしたら、同じ過ちを犯していたかもしれない、と述べているのが印象的だ。
非常に正直で謙虚な姿勢に好感が持てる。
私も同じ思いに駆られた。
なぜ、原発関係者らは、せっかく貞観地震レベルの津波予想があるにもかかわらず、対策を怠り続けたのか。
それは、対策を行うより、無視したほうが簡単だからだ。
原子炉の寿命が残り10年20年というところなのに、1000年に1度の津波のために、土地のかさ上げや防潮堤の建設を実行するのか。
対策工事中の稼働はどうするのだ。
それだけのコスト負担を株主にどのように納得させるのだ。
その津波リスクの存在を地域住民にどのように説明するのだ。
考えただけでも気が遠くなる。
いきおい、現状で問題ないことにしようという方に向かいたくなる。
自分が責任者である数年間だけ何事もなければ、無事に職務をやり過ごせる。
せっかく苦労して徹底した対策を施したとしても、何事も起きなければ、その成果が認められることはない。
余計なことに時間とコストをかけただけという評価にしかならない。
それよりも、すぐに効果が表れ実績が認められることに集中した方が評価が高くなる。
このような状態で、自分の数年間を1000年に一度の津波対策のために費やそうとするはずがない。
誰が担当者でも、同じ対応になってしまったのではないだろうか。
原発事故が発生した時、現場の陣頭指揮を執った吉田所長。
今では、彼は英雄扱いだが、この本を読むと、地震発生前は、貞観地震のリスクを無視する側にいたらしい。
彼も東電の一社員であったのだ。
著者は、このことをもって吉田氏を非難しているわけではない。
むしろ、同情的な眼差しを向けている。
原発事故から教訓を得るとしたら、神の視点で当事者を断罪することではありえない。
このような地に足のついた情報発掘は貴重だ。
この本は、当事者の立場に立って「自分だったらどう判断し、行動しただろうか」という視点で読むことをお薦めしたい。
添田孝史著『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)
東日本大震災によって引き起こされた原発事故。
1000年に1度の未曽有の大災害に襲われ、すべての被害が想定外と言われた。
福島原発の被害も、津波想定が低すぎたために相応の備えができておらず、電源喪失を招いてしまった。
稀に貞観地震の再来を警告する地震学者もいたが、多く専門家の支持を受けて定説に至っておらず、今回の事故はやむを得ぬ事態だった、というのがこれまでの印象だった。
ところが、この本を読んでみると印象は全く違う。
貞観地震の脅威は、いたるところで指摘され続けていたという印象だ。
福島でも十数メートル級の津波の恐れあり、という情報は、様々な報告書の形ではっきり指摘されていた。
ところが、それを東電や保安院らは、いろいろと難癖をつけてそれらの情報を排除し続けた。
そして、自分らに都合のいい予測数値を重要視して、現状に問題がないことの根拠とした。
この様子が細かく丁寧に描かれている。
反原発の本は、ややもすると、当事者の非をあげつらい、一方的に糾弾するのが通例だ。
だが、この本は違う。
事実を丹念に積み上げ、自分自身もメディアに携わる立場でありながら、同じようにリスクに目をつぶってしまっていたという自戒を込めて語られている。
最後に、「自分が東電や保安院の責任者だったら、どうしただろうか」と自らに問うている。
もしかしたら、同じ過ちを犯していたかもしれない、と述べているのが印象的だ。
非常に正直で謙虚な姿勢に好感が持てる。
私も同じ思いに駆られた。
なぜ、原発関係者らは、せっかく貞観地震レベルの津波予想があるにもかかわらず、対策を怠り続けたのか。
それは、対策を行うより、無視したほうが簡単だからだ。
原子炉の寿命が残り10年20年というところなのに、1000年に1度の津波のために、土地のかさ上げや防潮堤の建設を実行するのか。
対策工事中の稼働はどうするのだ。
それだけのコスト負担を株主にどのように納得させるのだ。
その津波リスクの存在を地域住民にどのように説明するのだ。
考えただけでも気が遠くなる。
いきおい、現状で問題ないことにしようという方に向かいたくなる。
自分が責任者である数年間だけ何事もなければ、無事に職務をやり過ごせる。
せっかく苦労して徹底した対策を施したとしても、何事も起きなければ、その成果が認められることはない。
余計なことに時間とコストをかけただけという評価にしかならない。
それよりも、すぐに効果が表れ実績が認められることに集中した方が評価が高くなる。
このような状態で、自分の数年間を1000年に一度の津波対策のために費やそうとするはずがない。
誰が担当者でも、同じ対応になってしまったのではないだろうか。
原発事故が発生した時、現場の陣頭指揮を執った吉田所長。
今では、彼は英雄扱いだが、この本を読むと、地震発生前は、貞観地震のリスクを無視する側にいたらしい。
彼も東電の一社員であったのだ。
著者は、このことをもって吉田氏を非難しているわけではない。
むしろ、同情的な眼差しを向けている。
原発事故から教訓を得るとしたら、神の視点で当事者を断罪することではありえない。
このような地に足のついた情報発掘は貴重だ。
この本は、当事者の立場に立って「自分だったらどう判断し、行動しただろうか」という視点で読むことをお薦めしたい。
2016年02月24日
原発事故3日後にはメルトダウンを判断できた
NHKの報道による。
福島第一原発のメルトダウンは、事故発生から3日後には判断できたことが明らかになった。
福島第一原発の事故では1号機から3号機までの3基で原子炉の核燃料が溶け落ちるメルトダウン(炉心溶融)が起きた。
だが、東京電力はメルトダウンとは明言せず、正式に認めたのは発生から2か月後の5月だった。
これについて東京電力はこれまで、「メルトダウンを判断する根拠がなかった」と説明していたが、実際には、その根拠は十分確認されていたというのだ。
東電社内のマニュアルには炉心損傷割合が5%を超えていれば炉心溶融と判定すると明記されていた。
実際、事故発生から3日後の3月14日の朝にはセンサーが回復した結果、1号機で燃料損傷の割合が55%に達しており、この時点でメルトダウンが起きたと判断できたことになる。
当時の東電社内では、「炉心溶融」という言葉を使わないようにしようという雰囲気があったという。
1号機については、水位が燃料の半分ほどしかなかったため、上半分は燃料が完全に溶けているだろうと思われていた。
ところが、騒動が大きくなることを恐れて、広報の場面では炉心溶融という言葉を使わないようにしていたのだ。
福島原発事故では、当初から炉心溶融のうわさが絶えなかった。
政府の官房長官は、「ただちに健康に被害はない」を繰り返し続けた。
東電もメルトダウンを否定し続けた。
保安院の報道担当者の中に「炉心溶融」を口走った人がいたが、すぐに交代させられ、不審がられていた。
いま思うと、炉心溶融が分かっていながら、必死にそれを隠し続けていたのだ。
このせいで、国民には正確な情報が提供されず、地域住民に的確な避難指示が出せなかった。
SPEEDIによる放射性物質の拡散データも隠され続けたため、住民は間違った方向に避難してしまっていた。
パニックになることを恐れたことによる情報隠蔽がいかに間違いであるかが分かる。
福島第一原発のメルトダウンは、事故発生から3日後には判断できたことが明らかになった。
福島第一原発の事故では1号機から3号機までの3基で原子炉の核燃料が溶け落ちるメルトダウン(炉心溶融)が起きた。
だが、東京電力はメルトダウンとは明言せず、正式に認めたのは発生から2か月後の5月だった。
これについて東京電力はこれまで、「メルトダウンを判断する根拠がなかった」と説明していたが、実際には、その根拠は十分確認されていたというのだ。
東電社内のマニュアルには炉心損傷割合が5%を超えていれば炉心溶融と判定すると明記されていた。
実際、事故発生から3日後の3月14日の朝にはセンサーが回復した結果、1号機で燃料損傷の割合が55%に達しており、この時点でメルトダウンが起きたと判断できたことになる。
当時の東電社内では、「炉心溶融」という言葉を使わないようにしようという雰囲気があったという。
1号機については、水位が燃料の半分ほどしかなかったため、上半分は燃料が完全に溶けているだろうと思われていた。
ところが、騒動が大きくなることを恐れて、広報の場面では炉心溶融という言葉を使わないようにしていたのだ。
福島原発事故では、当初から炉心溶融のうわさが絶えなかった。
政府の官房長官は、「ただちに健康に被害はない」を繰り返し続けた。
東電もメルトダウンを否定し続けた。
保安院の報道担当者の中に「炉心溶融」を口走った人がいたが、すぐに交代させられ、不審がられていた。
いま思うと、炉心溶融が分かっていながら、必死にそれを隠し続けていたのだ。
このせいで、国民には正確な情報が提供されず、地域住民に的確な避難指示が出せなかった。
SPEEDIによる放射性物質の拡散データも隠され続けたため、住民は間違った方向に避難してしまっていた。
パニックになることを恐れたことによる情報隠蔽がいかに間違いであるかが分かる。
2016年01月04日
首都移転について考えさせる『首都崩壊』
正月休みを利用して久しぶりに小説を読了。
高嶋哲夫著『首都崩壊』(幻冬舎)
kindle版の電子書籍で読んだ。
ディザスター小説の第一人者による最新作。
それだけに期待値は高かった。
首都崩壊と題していることから、首都直下地震を扱っているのは明らか。
でも、高嶋氏は首都直下地震を扱った作品を既に書いている。
東日本大震災の経験と新たな知見を加えて、新しいストーリーを組み立てたのか、と思われた。
だが、この作品は、首都直下地震を扱ってはいるが、それはメインテーマではなかった。
メインテーマは首都移転だ。
つまり、首都直下地震が頻発するようになり、5年以内にM8クラスの巨大地震発生の確率が92%という状況が明らかに。
この災害リスクを回避するために、首都移転プロジェクトが動き出すという仕掛けだ。
はじめのうちは、一部の官僚たちの間でひそかに進められていた移転構想。
新進気鋭の地震学者の解析により、巨大地震が間近に迫っているという研究成果が政府に届く。
この研究成果は公表できないまま、首都移転プロジェクトだけがひそかに進められる。
東京で大きい地震が発生するたびに、加速度を増して前へ前へと進んで行く。
頻発する地震に人々の不安感が増大し、巨大地震が東京に迫っているという出所不明のデマが世界中に駆け巡るようになる。
やがてマスコミによって、首都移転プロジェクトがスクープされた。
もはや政府は秘匿しておくことができず、首都移転構想を公開。
猛烈な反対運動が起き、国会議員の大半が反対を表明した。
そこに、また大きい地震が発生。
政府は、研究者による巨大地震切迫の研究成果を公表。
首都移転は、単なる思い付きや気まぐれで行おうとしているのではなく、具体的なリスク回避のための方策であることを強調。
反対勢力は急速に勢いを失い、首都移転プロジェクトは一気に動き始める。
そして、最後に首都の移転先が発表される。
この首都移転先が意外な場所だった。
首都の移転先としては、大阪、名古屋がまず考えられるが、今回の首都移転の目的は地震リスクの回避なので、南海トラフ地震のリスクを抱える大阪、名古屋はまず落選。
すると、南海トラフ地震の影響を受けにくい岐阜か長野だろう、と思っていた。
だが、この小説では意外な場所が設定された。
選定理由は、災害が最も少ない土地であるということ。
交通の要衝であるということ。
ここを読んだ時、「なるほど、これはありかも」と思った。
実際には、首都移転がこんなにすんなりと進むとは思えない。
ストーリーも都合のいいように展開しすぎで、リアル感に欠ける部分もある。
しかし、東京一極集中のリスクは明らかであり、首都直下地震が切迫している現在、この首都移転は真剣に考えなくてはいけない重要テーマだ。
この小説に答えを求めるのではなく、この作品を通じて、首都移転について考えさせるという点で価値が高い。
高嶋哲夫著『首都崩壊』(幻冬舎)
kindle版の電子書籍で読んだ。
ディザスター小説の第一人者による最新作。
それだけに期待値は高かった。
首都崩壊と題していることから、首都直下地震を扱っているのは明らか。
でも、高嶋氏は首都直下地震を扱った作品を既に書いている。
東日本大震災の経験と新たな知見を加えて、新しいストーリーを組み立てたのか、と思われた。
だが、この作品は、首都直下地震を扱ってはいるが、それはメインテーマではなかった。
メインテーマは首都移転だ。
つまり、首都直下地震が頻発するようになり、5年以内にM8クラスの巨大地震発生の確率が92%という状況が明らかに。
この災害リスクを回避するために、首都移転プロジェクトが動き出すという仕掛けだ。
はじめのうちは、一部の官僚たちの間でひそかに進められていた移転構想。
新進気鋭の地震学者の解析により、巨大地震が間近に迫っているという研究成果が政府に届く。
この研究成果は公表できないまま、首都移転プロジェクトだけがひそかに進められる。
東京で大きい地震が発生するたびに、加速度を増して前へ前へと進んで行く。
頻発する地震に人々の不安感が増大し、巨大地震が東京に迫っているという出所不明のデマが世界中に駆け巡るようになる。
やがてマスコミによって、首都移転プロジェクトがスクープされた。
もはや政府は秘匿しておくことができず、首都移転構想を公開。
猛烈な反対運動が起き、国会議員の大半が反対を表明した。
そこに、また大きい地震が発生。
政府は、研究者による巨大地震切迫の研究成果を公表。
首都移転は、単なる思い付きや気まぐれで行おうとしているのではなく、具体的なリスク回避のための方策であることを強調。
反対勢力は急速に勢いを失い、首都移転プロジェクトは一気に動き始める。
そして、最後に首都の移転先が発表される。
この首都移転先が意外な場所だった。
首都の移転先としては、大阪、名古屋がまず考えられるが、今回の首都移転の目的は地震リスクの回避なので、南海トラフ地震のリスクを抱える大阪、名古屋はまず落選。
すると、南海トラフ地震の影響を受けにくい岐阜か長野だろう、と思っていた。
だが、この小説では意外な場所が設定された。
選定理由は、災害が最も少ない土地であるということ。
交通の要衝であるということ。
ここを読んだ時、「なるほど、これはありかも」と思った。
実際には、首都移転がこんなにすんなりと進むとは思えない。
ストーリーも都合のいいように展開しすぎで、リアル感に欠ける部分もある。
しかし、東京一極集中のリスクは明らかであり、首都直下地震が切迫している現在、この首都移転は真剣に考えなくてはいけない重要テーマだ。
この小説に答えを求めるのではなく、この作品を通じて、首都移転について考えさせるという点で価値が高い。
2015年12月18日
長周期地震動の恐れ:南海トラフ巨大地震
内閣府が高層ビルの長周期地震動の分析結果を公表した。
長周期地震動とは、通常の地震動ではなく、周期2〜10秒という非常にゆっくりした揺れのこと。
都市部に林立する高層ビルは、想定される地震で倒壊する恐れはないが、この長周期地震動によって大きく揺さぶられる恐れがあり、その具体的な予想データが公開された。
南海トラフで過去に起きた大地震の震源断層が全て動くマグニチュード9クラスの最大級の地震を想定。
地表で毎秒5センチ以上の揺れが3分以上続く地域は、地盤が軟弱な東京や千葉、名古屋、大阪周辺に集中。
神戸市と大阪市の沿岸部では6分40秒以上続く。
現存する建物で最大の揺れは同市住之江区の大阪府咲洲庁舎(高さ256メートル)で、最上階で毎秒約2メートル、全幅約6メートル。
高層ビルには固有の周波数があり、それに地震動が共鳴することで、小さな揺れが増幅される恐れがある。
地上では小さな揺れでも、最上階では大揺れということも起きる。
この揺れでビル自体が損傷することはないらしい。
だが、中にいるヒトやモノは大揺れに振り回されることになる。
普通、地震の時にはモノが上から落ちてくるが、高層ビルの大揺れの場合は、モノが横から飛んでくる。
机の下に潜っただけでは身の安全を確保できない。
キャスター付きのコピー機など、重量がある上に自由に動き回るので、たちまち人を傷つける凶器と化す。
家具や備品の固定化が必須だ。
高層ビル群を直撃した巨大地震は世界にも例がない。
目前に迫っていると言われる南海トラフ巨大地震が、初めてのケースとなる。
長周期地震動とは、通常の地震動ではなく、周期2〜10秒という非常にゆっくりした揺れのこと。
都市部に林立する高層ビルは、想定される地震で倒壊する恐れはないが、この長周期地震動によって大きく揺さぶられる恐れがあり、その具体的な予想データが公開された。
南海トラフで過去に起きた大地震の震源断層が全て動くマグニチュード9クラスの最大級の地震を想定。
地表で毎秒5センチ以上の揺れが3分以上続く地域は、地盤が軟弱な東京や千葉、名古屋、大阪周辺に集中。
神戸市と大阪市の沿岸部では6分40秒以上続く。
現存する建物で最大の揺れは同市住之江区の大阪府咲洲庁舎(高さ256メートル)で、最上階で毎秒約2メートル、全幅約6メートル。
高層ビルには固有の周波数があり、それに地震動が共鳴することで、小さな揺れが増幅される恐れがある。
地上では小さな揺れでも、最上階では大揺れということも起きる。
この揺れでビル自体が損傷することはないらしい。
だが、中にいるヒトやモノは大揺れに振り回されることになる。
普通、地震の時にはモノが上から落ちてくるが、高層ビルの大揺れの場合は、モノが横から飛んでくる。
机の下に潜っただけでは身の安全を確保できない。
キャスター付きのコピー機など、重量がある上に自由に動き回るので、たちまち人を傷つける凶器と化す。
家具や備品の固定化が必須だ。
高層ビル群を直撃した巨大地震は世界にも例がない。
目前に迫っていると言われる南海トラフ巨大地震が、初めてのケースとなる。