2015年08月22日

五輪エンブレム騒動を収束できない組織委

 五輪エンブレム騒動が収束しない。
 むしろ、問題は深刻化している。
 佐野氏の他のデザインの盗作疑惑が次々とネット上で暴かれ、デザイナーとしての信頼は失墜している。
 サントリーのトートバッグデザインについては一部を盗用と認め取り下げ、これ以外に盗用はない、とぎりぎりのところで防衛線を張ろうとしているが、トートバッグ以外にも盗用の疑いが見つかり始め、事態は悪化の一途だ。
 海外のデザイナーから、自分の作品が盗用されたことに抗議の声も上がるようになり、もはや、国内だけの問題ではなくなりつつある。

 五輪エンブレムのデザインは、完全に国民の支持を失っており、撤回意外に道はないのは明らか。
 このまま強硬に推し進め、5年後の本番まで持ちこたえられると思っている人は誰もいないだろう。
 なのに、白紙撤回を決断できる人がいない。
 そもそも、この問題を責任をもって対処できる人は誰なのかが分からない。
 政府、東京都、文部省、JOC、五輪組織委員会。。。
 直接には五輪組織委員会だろうが、この組織は各界の大物の名前だけ借りた役員で構成されており、実質は官僚が運営している。
 本来は、役員が責任をもって対応すべきところだが、名前だけのお飾り役員に自覚も責任感もない。
 すると、官僚が適切に対処するしかないが、官僚が一度決まったエンブレムを白紙撤回するなどという決断ができるはずがない。
 そんなことをしたら、自らの失敗を認めることになるからだ。
 自分のやったことに少しの間違いもないのに、ただ世間の評判が悪いからなどと言う理由で撤回できるはずがない。
 官僚としては、このまま押し通すことでしか自分の利益は守れない。

 今回のエンブレム問題は、佐野氏の過去の作品に盗用疑惑が出てきたので問題化したかのように見えるが、まったく経緯が違う。
 そもそもの発端は、エンブレムデザインの一般受けがよくなかったことだった。
 エンブレムデザインは、発表当初から、オリンピックらしくないと評判が悪かった。
 そこに突然、ベルギーのデザイナーから自分の創作した劇場ロゴに似ているとの指摘があり、それに日本の世論が乗っかる形となった。
 そっくりのロゴがあることをきっかけにして、このデザインを取り下げるべき、という流れになった。
 ところが、組織委は商標権はクリアしており問題ないの一点張りだし、佐野氏は盗用していない似ていないと強硬に主張するばかり。
 マスコミまで、一時、五輪デザインを擁護し、ベルギーデザイナーを非難する論調が強かった。
 昔だったら、マスコミの論調で世論が形成された。
 だが、いまはネットが世論を動かす時代だ。
 事態が動かいないのを受けて、ネット上の世論が反発を強め、佐野氏の他の作品への盗用疑惑が次々に暴かれるようになっていった。
 
 トートバッグのデザインについていくら釈明したところで、問題解決にならないのは、これが問題の本質ではないからだ。
 トートバッグは、五輪エンブレムのオリジナル性に疑問を投げかけるための傍証に過ぎない。
 そこをいくら潰したところで、本質の問題は残ったまま。
 それどころか、トートバッグ以外の作品の類似性まで暴かれるに至っており、問題は拡散している。
 
 更に、このエンブレム事件の本質には、たんなる盗用の疑いだけでは済まない深刻な闇がありそうだ。
 なぜ、こんな問題含みのデザインが選ばれてしまったのか、ということだ。
 週刊誌等の情報によれば、デザイナー業界の代表者が審査員となってデザインの選考が行われたという。
 デザイナー業界も狭い世界で、有名どころとなるとすべて気心の知れた仲間みたいなもの。
 はじめから、「今回は佐野氏のデザインで行こう」と決められた出来レースだったのではと疑われている。
 デザインの応募件数はわずかに104件しかなかったという。
 地方のお祭りイベントのシンボルマークの募集でも、1000件2000件の応募があるのに、国際イベントのデザインに応募が104件しかないのは異常だ。
 それは、応募資格を狭く限定したためらしい。
 特定のデザイン賞を2個以上受賞していること、という制約条件が厳しすぎるために、一般のデザイナーが応募できなかったようだ。
 その特定のデザイン賞というのも、デザイナー業界の仲間内だけで、選んだり選ばれたりするようなもの。
 つまり、よそ者を排除し、初めから自分たちの中で、五輪エンブレムの利権を手に入れようとしていたのだ。
 五輪エンブレムに採用されたデザイナーには賞金として100万円しか支給されないが、五輪デザイナーとしての地位と名誉を得る。
 この五輪デザイナーとしてのブランドをさっそく利用しようとしたのが、サントリーのトートバッグだった。
 佐野氏は大学に新設された学部の教授に就任。
 五輪デザイナーが教授として在籍する美術大学はブランドとして抜群。
 五輪デザイナーになることは、本人が得するわけではない。
 その周辺の者たちにも莫大な恩恵をもたらすことになる。
 すべての関係者にとって、いまのまま進むことが最も利益になる。
 1ミリでも動こうとすれば、みんな自分の利益を減らす。
 関係者すべてが身動きが取れずに硬直しているのは、こういう事情ではないか。
 
 五輪エンブレムの状況は、かつて終戦末期に、敗戦確実であることは誰の目にも明らかであるにもかかわらず、和平の決断ができなかった日本政府に似ている。
 五輪エンブレムはこのままでは済まない。
 なのに、すべての責任を負って白紙撤回の決断をできる人がいない。

 国立競技場の問題でも同じだった。
 福島原発事故の時も同じだった。
 そして、終戦の時も。
 この組織体質は、日本伝統の欠陥なのか。




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2015年07月22日

東芝不正経理:謝罪会見の歯切れの悪さ

 東芝不正経理事件。
 歴代3社長の辞任という事態にまで発展した。
 事の発端は、今年2月に行われた証券取引等監視委員会の検査。
 これは、東芝社員からの内部通報による。
 この検査で、ノンストップ自動料金収受システム(ETC)や、次世代電力計「スマートメーター」などインフラ事業を中心に、営業利益ベースで548億円の過大計上があったことが判明。
 4月3日に、東芝が特別調査委員会の設置を公表したことで事件の一端が発覚。
 5月8日に、第三者委員会の設置を公表。
 不正の実態が不明のまま、ただならぬ事件の奥深さだけを予見させる事態となった。
 この間、株価は急落。
 第三者委員会の報告により、2014年3月期までの営業利益の水増しは1700億円を超える規模になることが明らかになった。
 それを受けて、歴代3社長と6人の取締役の辞任という事態に至った。

 不正発覚からの経緯を見ると、どんどん深みに沈んでいくように見える。
 疑惑が発覚してから、不正経理の全体像が見えるまでが時間がかかりすぎ、企業イメージだけが凋落し続けた。
 東芝への不信感は簡単にぬぐいがたく、今回の第三者委員会の調査結果と3社長の辞任で幕引きになりそうにない。
 昨日の田中社長の謝罪会見も、自らの責任回避の姿勢ばかりが見え、真摯に事件の深刻さに向き合っている印象を与えられなかった。
 
 背景には、歴代3社長の確執や、それぞれの社長のメンツをかけた無理な目標必達の圧力があったといわれている。
 ことが内部告発によるところも気になる。
 社内に内部通報システムがあれば、まずはそこに情報があげられるはずだが、その仕組みがうまく機能していなかったのかもしれない。
 または、社内の内部通報制度はあっても形だけで、そんなところに通報すれば、たちまち報復人事の懲罰をくらってしまうという恐れがあれば、だれもそんなところにかかわらない。
 それで、いきなり外部の証取委への通報となったのだろう。
 これは、社員の経営幹部に対する不信感や不満が鬱積しているのではと疑わせる。
 無理な目標必達圧力が相当なストレスとなっていたのかもしれない。

 さて、事件は、経営陣の刷新と再出発ということで終わりそうにない。
 東芝の監査法人は何をしていたのかというところが問題として浮上する。
 不正に気付かないぼんくらだったのか。
 それもと、不正に加担していたのか。

 さらに、歴代3社長や取締役は辞任すればそれで終わるか。
 サラリーマン幹部らは、辞任すれば逃げることができる。
 多額の退職金を得て辞任すれば、後味は悪いが、実質的な痛みはない。
 これをステークホルダーは許すのか。
 今回の不正経理が東芝に多大な損失をもたらしたとなると、その責任を元幹部ら個人に求める動きが出てくる。
 株主代表訴訟だ。
 歴代幹部に対して株主代表訴訟を起こされると、元幹部らはたとえ辞任していたとしても個人としてその責任を追及され続ける。
 場合によっては、多額の損害賠償となる。
 田中社長の謝罪会見の歯切れの悪さは、これが刑事事件や株主代表訴訟へ発展してしまうことを恐れているためだ。




 
 
 
 
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2015年07月17日

危機管理ドラマ「リスクの神様」フジテレビ

 フジテレビ系例で、注目の新しいドラマが始まった。
 「リスクの神様」
 危機管理がテーマの経済ドラマ。
 非常に珍しいタイプのドラマだ。
 これだけリスクマネジメントがクローズアップされるようになった現代において、危機管理をメインテーマにしたドラマは今まで存在しなかった。
 よくぞ、これほど難しいテーマを取り上げてくれた。
 ようやく登場したかという感じだ。

 企業の不正や不祥事をきっかけに、どのようにダメージコントロールしていくかというところがドラマの中心になる。
 既に2話が放送された。
 第1話は、製品の欠陥による発火事故。
 第2話は、食品への異物混入。
 いずれも、現実社会で、頻繁に繰り返された危機管理の事例を取り上げている。
 今後も、危機管理に関連した事例を毎回取り上げていくのだろう。

 ドラマの流れはシンプルで分かりやすい。

 危機管理上の問題発生→当事者の間違った対応→事態の悪化→危機管理メンバーの活躍→事態の収拾

 危機管理のお手本を見せられているようで、ビジネスマン向けの学習ドラマのような感覚にもなる。
 その意味で、ややドラマチックさに欠けるのが難点。
 しかし、豪華俳優陣を使った学習教材となれば、これほど贅沢な教材はない。
 脚本もよくできている。
 リスクマネジメント上で重要なセリフがそこかしこに出てきて、聞き流してしまうのがもったいないほど。
 危機管理をメインテーマに据えて、真正面から取り組んだ初めてのドラマとして評価したい。
 これだけの豪華俳優陣が、単なる脇役程度で終わってしまうはずはなく、既に様々な伏線が仕込まれているようだ。
 今後の展開に期待しよう。



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2015年06月02日

新型ウィルスMERS:韓国感染症拡大

 韓国で、重い肺炎などを引き起こす「MERSコロナウイルス」に感染した患者が増えている。
 これまでに感染が確認された人は25人に増え、このうち2人が死亡した。
 中には3次感染した感染者もいるという。
 3次感染者がいるということは、ヒトからヒトへの感染が起き始めていることを意味する。
 感染疑いで隔離されている人は、700人を超える。

 MERSコロナウイルスは重い肺炎などを引き起こすウイルス。
 去年の春以降、中東を中心に感染が拡大。
 韓国では、サウジアラビアやバーレーンなどに滞在したあと帰国した韓国人男性が感染していたことが先月確認された。
 その後の韓国政府の初期対応がまずく、そのために感染拡大を続けているらしい。

 最初の患者がそれまでどう行動したのか綿密に追跡できず、接触者を把握できなかった。
 感染者は自ら申告しなければ罰金を課すというルールになっているらしいが、この方式では、むしろ患者が事実を話さずに潜伏しまう恐れの方が大きい。
 官僚らが、責任回避的に自分たちで作ったマニュアル通りに動き、勝手に感染の心配はないと判断した結果、このような問題が生じたのではないか、と指摘されている。
 特に感染疑いの者を出国させてしまい、海外で発症が確認されるケースが相次ぎ、出国の際に同じ飛行機に乗り合わせた乗客全員が次の感染疑い者になってしまっているのは深刻だ。
 隔離されている人が700人を超えるのはこういう理由だ。

 韓国政府については、去年のセウォル号事件以降、危機管理体制が非常に脆弱との印象が強い。
 今回の新型ウィルスについても、初動の不手際が目につく。
 隣国の日本としては、目の前のリスクとして、今後の状況変化に注目する必要がありそうだ。



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2015年06月01日

年金機構の意識の低さ:125万件の個人情報流出

 日本年金機構は1日、職員の端末がサイバー攻撃を受け、個人情報約125万件が外部に流出したと発表した。 流出したのは約125万件の基礎年金番号など。
うち約116万7000件には生年月日が、約5万2000件には住所と生年月日が含まれていた。
 電子メールの添付ファイルを開封したことで端末がウイルスに感染し、不正アクセスを受けた。
 情報流出は5月28日に判明。
 基幹システムである社会保険オンラインシステムへの不正アクセスは今のところ確認されていない。

 公的に管理されている個人情報の流出規模としては、今までに例がないほどの規模だ。
 不用意に出所不明の添付ファイルを開いてしまう無神経さに驚くが、それよりも、一番の驚きは、個人情報を扱う端末とメールのやり取りをする端末が同じだったという事実だ。
 サイバー攻撃はどのような形で行われるか分からない。
 だからこそ、業務用の端末とネット接続用の端末は区別するのが常識のはず。
 年金情報を扱う機関が、まだこんな低レベルの情報管理をしていたのかと愕然とした。
 国民の大事な年金情報を管理しているのだという意識の欠如が感じられる。
 
 社会保険庁が解体され、日本年金機構という特殊法人ができた。
 年金情報の管理がでたらめで、新旧年金情報の突合ができていなかったり、職員の不正によって年金が消えていたという「消えた年金」問題が浮上したからだ。
 組織改革によって、何が変わったのだろう。
 実態は、看板が付け替えられただけで、職員らはそのまま、そして、その職員らの意識もそのままだったのではないか。


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2015年05月31日

世界最深の地震:30日小笠原諸島沖地震

 30日午後8時24分ごろ、小笠原諸島西方沖を震源とする地震があり、東京都小笠原村・母島と神奈川県二宮町で震度5強、埼玉県春日部市などで同5弱を観測。
 揺れは全国で観測され、震度4〜1だった。
 マグニチュードは推定8.5、震源の深さが約590キロと公表されたが、後にマグニチュード8・1に、震源の深さも682キロに変更された。
 気象庁によると、1900年以降のM8以上では、世界最深の地震だという。

 今回の地震の特徴は、震源の深さだ。
 日本で起きる多くの地震は、深さ10q〜20qで、数十qになるとかなり深いという印象になる。
 今回の地震は682qであり、桁が違う。
 異様な深さだ。
 震央は小笠原諸島西方沖ということになっているが、震源は、その直下682qにある。
 だから、小笠原からかなり離れたところでも、全国広い範囲で揺れが観測された。
 気象庁では、M8を超える地震は「巨大地震」という呼び方をする。
 だが、今回の地震は巨大地震の分類でありながら、各地の震度はそれほど大きくない。
 その代り、非常に広い範囲に揺れが広がっている。
 また、海底が震源でありながら、津波が起きなかった。
 これも、地震深度が深いために、海底表面に影響がなかったからだろう。

 緊急地震速報が発令されなかったのも特徴だ。
 深度が150qを超える地震の場合は、緊急地震速報を発表しないシステムになっている。
 現在の技術では、今回のような異様に深い地震については、瞬間的に各地の揺れの大きさと到達時間を解析することは不可能だからだ。

 メカニズムとしては、フィリピン海プレートの下に沈み込む太平洋プレートのかなり深いところで破壊現象が起き、それが地震波として地表に伝わってきたようだ。
 揺れが太平洋プレート内を伝わって地表に影響したので、特に関東地域で揺れが大きかったのだという。
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2015年05月07日

情けないほどの人災:福島原発事故

 福島原発事故について、4つの事故調査委員会が立ち上がり、それぞれが報告書を公開した。
 政府事故調、国会事故調、民間事故調、東電事故調。
 それぞれの視点からこの事故の分析を試みている。
 改めて読み直してみると、事故発生直後の危機対応がいかに杜撰で、そのことが事態を悪化させ続けたかが分かる。
 最大の問題は、この事故対応に、いくつもの組織が関与しているが、いったいどこが司令塔になっているのか分からないことだ。
 政府、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、東京電力。
 どこがどこまでの責任を負い、権限をもってことにあたったのかも、さっぱりわからない。
 事故当時から、それぞれが個別に記者会見するが、情報が重複していたり、矛盾していたり、まったく統制が取れていなかった。
 たぶん、責任範囲も不明確のままだったのだろう。
 それで、誰もが自分は最大の責任者ではないかのような顔で応対していたのだ。
 
 目を引くのは、海水注入問題。
 メルトダウンを避けるために原子炉を冷やさなくてはならない。
 事は一刻を争う緊急事態に陥っている。
 原子炉をダメにしてしまうが、やむを得ず海水を注入しようということになった。
 その時、菅総理が、「原子炉を冷やすのに海水を注入して、再臨界を起こすことはないか」と疑問を発した。
 それに対して、原子力安全委員会の班目委員長が、「ゼロではない」と答えた。
 これが問題になった。
 菅総理はじめ閣僚らは、海水を入れてはいけないと判断し、海水注入中止を東電に指示した。
 官邸の許可あるまで、海水注入停止が現場に伝えられた。
 一刻を争う事態なのに、海水注入の指示が大幅に遅れることとなった。
 海水注入の指示が遅れた責任を問われた官邸側は、その責任を班目委員長の発言に持っていった。
 この責任を問われた班目委員長は、ゼロではないというのは、この場合、ほとんどゼロということだ、と弁解。
 どうやら、再臨界というのは、どんな状態でも、絶対に起きないとは断言できないらしく、そのことを「ゼロではない」と表現したようなのだ。
 「いまからニューヨークに行こうと思うが、飛行機が落ちることはないか」と聞かれて「ゼロではない」と答えているようなものだ。
 海水が再臨界を起こすなんてことはあるはずがない。
 班目委員長は、「そんなのは、基本中の基本で、専門家の自分が間違えるわけがないじゃないか」と言いたげであった。
 だが、菅総理の疑問は、海水で大丈夫かどうかだった。
 その疑問に答えるならば、再臨界の可能性はどんな時でもゼロになることはないこと、現状では海水を注入する以外に方法はないこと、海水が再臨界の原因になることはないこと、これらを専門家の立場で助言し、菅総理が正しい意思決定ができるようにサポートすべきであった。
 班目委員長は、専門家として、自分に何が求められているのかが分かっていない。
 「海水を注入して再臨界はないか」と問われて、「大丈夫だ」と言いきる覚悟がなかった。
 自分に重大な判断を委ねられることに耐えられない人物なのだろう。
 それで、「ゼロではない」という逃げの返答で回避した。
 無責任の極み。
 班目氏更迭を求める意見が出た。
 それを受けて、「こんなことで辞めたら末代までの名折れ」と辞任を拒否したという。
 ひたすら、自分のことしか頭にない人物であった。
 こんな人物が原子力村の中枢に君臨していたのかと思うと愕然とする。

 事故直後、どうして菅総理は、事故対応の司令官を任命して、その人物の下にすべての組織をコントロールさせることを考えなかったのか。
 この答えが見えた。
 菅総理がそのことに気づかなかったのではなく、全責任を任せられるだけの覚悟と力量のある人物がいなかったのだ。
 
 事故の経緯を振り返ってみると、覚悟のできていない人たちばかりでこの緊急事態に対応しようとしていたことが分かって、背筋が寒くなる。
 まるで、素人集団が、突然、国家の一大事を任されてしまった感じだ。
 天災をきっかけに起きた事故ではあるが、被害を拡大したのは明らかに人災による。
 
 
posted by 平野喜久 at 19:55| 愛知 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月17日

危険予知の難しさ:山手線支柱倒壊

 東京のJR山手線で12日早朝、架線の鋼鉄製支柱が倒れた事故。
 過密ダイヤで運行する山手線では、数分おきに電車が通る。
 タイミングによっては、衝突脱線の恐れがあった。
 結果として大きな事故には至らなかったものの、その可能性は十分あった事故で、重大インシデントとして認識された。
 山手線が9時間以上も運休するのは異例だが、それでも人的被害がなかったのは幸いであった。

 問題は、JR側の対応の鈍さによるところが大きい。
 倒壊する2日前の10日深夜、別の支柱の撤去作業をしていた社員らが異常を発見した。
 だが、目視の結果、すぐに倒れる危険はないと判断。
 その日は金曜日で、JR東日本は、週明けまで応急の工事を先延ばし。
 11日夜には山手線の運転士も異常に気づく。
 運行を管理する指令室にも伝達。
 12日の始発電車に社員が乗り、支柱の傾きを目視で確認、問題なしと判断。
 
 事前に何度も異常に気付いていながら、対処できなかった。
 特に、最初の異常発見が金曜日だったので、週明けに対応しようとした判断は、非常に危うい。
 一般に、土日休日の勤務体制の社員は、金曜日にトラブルが発生すると、対応を来週に先送りしたくなる。
 いまから対応し始めて事態が難航した場合、土日返上で対応しなければならなくなる恐れがあるからだ。
 土日はしっかり休んで、週明けからゆっくりやろう、となる。
 ややこしそうな問題ほど、先送りの心理が働くので、余計に週明け対応になりがちだ。
 今回のケースも同じ心理が働いてしまったのだろう。
 だが、山手線は土日でも運行しており、その間、目の前のリスクが放置されたままとなる。
 で、現実に、日曜日の早朝に支柱倒壊となった。

 もう1つの問題は、何人もの人が異常を察知していながら、それが具体的な対処につながらなかったことだ。
 たぶん、地震や台風でもないのに支柱が倒れるということは前例がなく、誰もリスクを正しく認識できなかったのだろう。
 それに、支柱に異常を発見し、確認作業をするとなると、山手線の運行を一時停止する必要がある。
 ことが大げさになるので、心理的な抵抗が大きい。
 そこで、正常性バイアスが働き、「たぶん、大丈夫だろう」「何でもないのに支柱が倒れるはずがない」と結論付けてしまったのに違いない。

 倒れた支柱は、別の2本の支柱と、それぞれ梁とワイヤで結ばれていたが、支柱の交換作業に伴い、梁は既に撤去されていた。
 梁とワイヤにより引っ張られることで保たれていたバランスが、微妙に崩れた可能性があるという。
 後になってこのような事情を知れば、倒れた理由が納得できる。
 だが、この事情が共有できていなかったら、倒れる危険を予見するのは難しい。
 JRとしても思わぬ盲点を突かれたような事故だったという思いだろう。

 今後は、羹に懲りてなますを吹く、ということになりそうだ。
 ちょっとした異常を感知したら、直ちに運行停止して確認作業を優先させる。
 そのためにダイヤが乱れることが増えるかもしれない。
 これも、安全運行のコストと考えるべきだろう。



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2015年04月11日

BCP準備資金の内部留保:株式会社ブロッコリー

 株式会社ブロッコリーで、BCP準備資金に関するIRがあった。
 首都直下地震に備えた内部留保計画についてだ。
 「現金及び預金」が50億円に達するまで、内部留保を積み上げるという。
 積み上げ額は毎期2.5億円以上、税引き後当期純利益の65%以上を予定している。

 この必要資金50億円の算定根拠は、次のような想定に基づいている。
・災害後1年目は事業再開不能、社員は地域地元のインフラ復興に協力。
・2年目に事業再開、6年目にマーケット完全復活。
・発生時点での売掛金回収率は最悪の10%を見込むが、買掛金は100%支払う。
・従業員の月給は全額保障、復興に合わせて昇給と賞与。
・本社ビルは全壊、再建築、再建費用の3分の1は借入。

 この想定に基づいてキャッシュフローの計算をすると、6年目の通常業務に復元するまでに50億円のキャッシュが必要という見込みになるという。
 そのキャッシュを内部留保として蓄積していくというわけだ。

 ブロッコリー社は、コンピュータゲームやカードゲームを企画販売しているジャスダック上場企業だ。
 このようなBCP関連の情報をIRする新興企業も珍しい。
 しかも、それがゲーム会社というところが意外だ。
 普通、BCPに関心が高いのは製造業だ。
 というのは、地震は物理的なダメージをもたらす災害なので、施設や設備を多く抱え、実際に物を作る製造業は影響が大きいからだ。
 ゲーム会社のようなソフトを扱う企業は、むしろ地震災害によるダメージは少ない。
 それに、BCPはいつ起きるか分からない大地震を想定して準備するもの。
 首都直下地震はその切迫性が指摘されているが、それでも今後30年間に70%という予想だ。
 今年や来年の話ではない。
 10年20年というスパンでとらえるべきリスクだということになる。
 すると、10年20年という先の見通しの立つ企業でないとBCPには取り組みにくい。
 そのために、BCPに積極的に取り組んでいるのは、事業基盤がしっかりしていて経営が長期安定的な企業が多い。
 新興企業の場合は、不安定要素が大きく、現在がたまたま好業績だったとしても、10年20年先まで安定的な経営が見通せるケースは少ない。
 それで、BCPには関心が薄くなる。

 ところが、ブロッコリー社は、これらの常識を覆す。
 ソフトを扱う新興企業でありながらBCPに積極的に取り組んでいるという姿勢は、インパクトが強い。
 BCPに取り組むということは、10年20年先が見通せているという証拠でもある。
 「今さえ儲けられれば、先のことなんか知らない」というベンチャー企業特有の危うさを払拭させる。
 たぶん、そのインパクトを狙ったIRなのだろう。
 株価も上昇傾向だ。

 ブロッコリー社の想定は、かなり厳しい。
 1年目は再開不能と想定している。
 首都直下地震が起きたときは、そのダメージは日本経済の根底にまで及び、市場自体が簡単に復旧しないことを見越しているのだ。
 BCPにおいて、これほどの事業停止を見込むケースはない。
 なぜなら、1年間もの事業停止に耐えられるだけの財務体力が普通の企業にはないからだ。

 そのほか、従業員の給与保証と本社ビルの建て替えも見込んでいる。
 考えられる最悪のケースに基づいてキャッシュフローの試算をしているのが分かる。
 この想定に基づくと、必要資金が50億円になるという。

 ブロッコリー社が想定する物理的な被害は、本社ビルの全壊だけ。
 工場があるわけでも機械があるわけでもないので、非常にシンプルだ。
 必要資金が50億円で済んでいるのは、余計な施設を持たない強みでもある。
 今回のIRは、企業イメージの向上にも実に効果的だった。
 大きな災害が起きても、この企業は生き残りそうだということを予感させる。
 BCPに前向きに取り組んでいるということで、目先のことだけではなく将来のことを見通せているということも分かる。
 従業員の生活を守り、取引先に迷惑をかけないという姿勢も見える。
 更に、地域社会への貢献という視点も忘れていない。
 BCPの本質を逃していない。
 投資家に対するPR効果は抜群だ。
 この企業は、BCPがPRツールとして使えることを理解しているようだ。


 
 
 
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2015年03月12日

鳥インフルのパンデミックの可能性

 ロイターの報道による。
 英科学誌ネイチャーに掲載された科学者チームの調査報告によると、中国で発生し人への感染が起きているH7N9型鳥インフルエンザは突然変異によってパンデミック(世界的大流行)を引き起こす可能性があるという。
 研究では、香港大学のYi Guan氏が率いるチームが、中国の5省15市で、H7N9型インフルエンザの進化と拡大を調査。
 ウイルスが鶏の間でしばしば突然変異し、パンデミックに発展する可能性のある遺伝子変異を獲得しながら存続、多様化、拡大していることが分かった。
 人での再発の恐れが強まっており、脅威が増大しているという。

 H7N9型ウイルスは2013年3月に人に感染。
 この時、マスコミでも報道され、話題になった。
 中国では毎日のように感染者や死亡者の報道が行なわれ、そのたびに世界中の関心が集まっていた。
 中国当局は、世界世論の騒ぎ過ぎを恐れて、いちいち感染者や死亡者の公開をしなくなってしまった。
 その後、報道はなくなり、忘れ去られていたが、その後もこの脅威は継続していたのだ。

 WHOが発表した2月のデータによると、これまでに、中国、台湾、香港、マレーシア、カナダで少なくとも571人が感染し、212人が死亡している。
 中国政府が生きた家禽の市場を閉鎖し、鶏との直接の接触によるリスクについて警告を発したことなどで、いったんは収束したかに見えたが、昨年再び人への感染が増加した。
 WHOはH7N9型ウイルスに関する最新の発表で「引き続き動向を注視する」としたが、「これまでのところこの型による全般的なリスクに変化はない」と述べた。

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2015年02月27日

中小企業・小規模事業者事業継続力強化支援事業:ただいま支援対象団体募集中

 平成26年度の補正予算で、急遽、BCP支援事業が決まったらしい。
 「中小企業・小規模事業者事業継続力強化支援事業」
 地域経済を支える中小企業や小規模事業者のBCPを支援するために、この施策が立ち上がった。
 BCPは、東日本大震災以降、普及が一気に進みつつある。
 大企業においては、ほぼ準備完了。
 中堅企業は、最後の仕上げ段階。
 そして、中小企業は、いま取り組みが始まろうとしているところだ。

 中小企業の多くは、これからというのが実情だ。
 もちろん、中小企業の中でも意識の高い経営者のいるところは、とっくに取り組みを始めて、先頭を走り続けている。
 だが、なかなか取り組めずにいる企業も多い。
 いまや、その格差が広がり始めている印象が強い。
 中小企業がBCPの取り組みに遅れている理由は、いくつかある。

 1つは、余裕がないこと。
 日々の業務に追われていると、BCPなどという緊急を要しない課題は、後回しになってしまう。
 それで、いつかはやらなければと思いながらもそのきっかけがつかめずにいる企業が多い。

 2つ目は、ノウハウがないこと。
 BCPを作成するというのは、過去に行なったことない。
 経験も知識もない。
 このような中では、取り組もうと思っても、何からどのようにしたらいいのか分からないのが実情だ。
 それで、なかなか手が出せずにいる企業が多い。

 3つ目は、人材がいない。
 BCPは日常業務とは別に取り組まなければならない余分な業務だ。
 中小企業は、限られた人数で日常業務をこなすことが最優先であり、余分な業務に人材をあてがうだけの余裕はない。
 それに、BCPという新たな取り組みを始めるとなると、それなりに専門的な学習が必要で、そのことに時間をさける人材は限定的だ。
 それで、BCPに取り組みたくてもできない企業が多い。

 日本において、震災リスクに晒されていない事業者は存在しない。
 東日本大震災以降は、震災リスクに敏感な事業者も増えた。
 ただ、中小企業がBCPに取り組むには、上に挙げたような制約がある。
 その制約を少しでも取り除こうというのが、今回の国の施策だ。
 国が、中小企業へのBCP支援に本腰を入れ始めたことを歓迎したい。
 これを機に、BCPの普及が進むことを願う。

 ただ、今回の施策のスキームは、少しややこしい。
 直接、中小企業への支援を行うというものではない。
 支援対象は、中小企業関係の全国団体や業界団体となっている。
 つまり、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会など、全国規模の団体が対象なのだ。
 中小企業庁が全国団体に支援し、全国団体が傘下の団体を通して、中小企業を支援するという形だ。
 だから、採択予定件数は、10件程度と見込んでいる。
 全国団体が対象だから、このぐらいの数にしかならない。
  
 支援の内容としては、以下の事業について補助金を出すという。
1.事業継続力強化講習会
2.BCP策定・運用ワークショップ
3.専門家派遣

 1は、一般にBCPの認知度を高めるために行なわれているような啓発セミナーのことだろう。
 2は、実際の企業がBCPに取り組めるような実務型のセミナーだろう。
 3は、個別の企業を訪問し、BCPの具体的な指導をすることだろう。
 確かに、これらは中小企業がBCPに取り組みあたり、最も必要としていることばかりだ。

 この施策は、ただいま募集期間の真っただ中。
 3月16日が締め切り。
 3月下旬に支援対象の全国団体が決定。
 補助事業期間は3月末日だという。
 非常に慌ただしい中で実施されている。

 
 
posted by 平野喜久 at 13:58| 愛知 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月13日

19億円賠償命令:津波損害賠償訴訟

 津波損害賠償訴訟で、19億円の賠償命令。
 常磐山元自動車学校(宮城県山元町)。
 教習生25人と従業員1人の遺族が、学校側に総額約19億7000万円の損害賠償を求めていた。
 仙台地裁は13日、教習生全員の遺族に対して計約18億5000万円、従業員遺族に対して計約6400万円を支払うよう学校側に命じた。
 高宮健二裁判長は「学校は消防による避難の呼びかけを聞いていたと推認でき、その時点で津波襲来を予期できた。広報を無視せず教習生らを避難場所に避難させる義務を負っていた」として安全配慮義務違反を認めた。
 学校側は、大津波警報に伴う宮城県の津波高さ予想が当初最大6メートルで、山元町沿岸の防潮堤よりも低く、県の津波浸水予測の区域外だったことなどから、「海から約750メートル離れた学校に、生命を害するような大津波が到達することは予測できなかった」と反論していた。

 日和幼稚園に続いて、事業者の安全配慮義務違反が認められたケースとなった。
 地震発生後、50分もの間、学校内にとどまり、その後、受講生を送迎バスに乗せて送り届ける途中で津波に飲み込まれた。
 地震直後に停電になり、情報収集の手段を失い、適切な判断ができなかったようだ。
 巡回する消防車が津波避難を呼びかけていたという証言があり、津波の襲来は予見できた、と判断された。
 「1000年に1度の大災害だからしかたない」という言い訳は通用しない。
 最初の地震の発生は予見できなかったとしても、続いて発生する津波や余震による被害は容易に予見できる。
 「津波の襲来を知らなかった」という言い訳も通用しない。
 必要な情報収集すれば、知ることができるからだ。
 今回の判決でも、情報収集しなかったことも決定的となった。
 
 
posted by 平野喜久 at 12:21| 愛知 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月08日

エボラ出血熱、緊急事態宣言:WHO

 西アフリカで患者が増え続けているエボラ出血熱。
 WHO=世界保健機関は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。
 専門家による緊急の委員会を開き、エボラウイルスの感染が他の国にも広がるおそれがあると判断された。

 エボラ出血熱はことし3月以降、西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネの3か国を中心に患者が増え続けていて、これまでに932人が死亡。
 終息する気配が見えない。
 エボラ出血熱は、ワクチンもなく、有効な治療方法がない。
 できることは、感染者を隔離し、ウィルスの拡散を防ぐことだけ。
 西アフリカでは、過去にエボラの経験が少なく、初動で適切な対処ができなかったため、感染拡大を招いたといわれる。
 潜伏期間は3日から3週間。
 致死率は90%にもなることがあるという。
 空気感染、飛沫感染はないらしい。
 
 ただ、致死率が高いウィルスは、爆発的な感染拡大を招きにくい。
 感染者が活動し続け、ウィルスをまき散らす前に、症状が重症化し、死亡してしまうからだ。
 それに、今のところ、感染者の体液に触れるような濃厚な接触により感染すると見られており、感染の可能性は限られている。

 3週間もの潜伏期間があるので、感染者がその間に他の地域に移動し、発症するということはありうる。
 その意味では、日本にウィルスが持ち込まれる可能性はゼロとは言えない。
 だが、西アフリカからは日本への直行便がないこと、空港での検疫体制が機能しているため、不安はない。
 まして、日本でエボラウィルスが感染爆発するという事態は、ほぼあり得ない。
 
 ただし、他の国への感染拡大が見られ始めているので、日本との交流の深い地域への感染拡大があった場合は、注意した方がいいだろう。
 また、エボラウィルスの毒性も、今後、変異していくかもしれない。
 飛沫感染するようになるとか、致死率が低下するとか、場合によっては、感染爆発の条件がそろってしまうこともありうる。
 今後の情報には気をつけよう。



 
posted by 平野喜久 at 17:19| 愛知 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月04日

すき家「調査報告書」:ブラック企業の実態

 すき家の労働環境改善に関する第三者委員会による調査報告書が公開されている。
 これは、一読に値する最高の報告書だ。
http://www.sukiya.jp/news/tyousahoukoku%20A_B.pdf#search=%27%E3%81%99%E3%81%8D%E5%AE%B6+%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%27

 すき家は、2月から4月にかけて、人手不足から臨時休業の店舗が続出して話題になった。
 その背景には、劣悪な労働環境による従業員やアルバイトの不満があり、それが新商品の発売開始で過重労働に拍車がかかり、ついに現場が崩壊に至ったことが原因だ。
 これをきっかけに、すき家を経営するゼンショーはブラック企業との批判が高まり、労働環境の改善を迫られることとなった。
 その取り組みの一環として、第三者委員会を設置し、労働環境の実態を調査し、改善提案を求めることとした。
 その報告書が提出されたために、ゼンショーはそれをそのまま公開したのだ。

 この報告書は、現場クルーや各種マネージャー、経営幹部らへのヒアリングを行い、それを元に、現場労働の実態と問題点の指摘、原因の分析などを行なっている。
 企業に雇われた弁護士の調査なので、企業寄りの内容で無難にまとめてあるだけかと思えば全く違う。
 実態を淡々と報告し、その原因が経営幹部の無自覚にあると的確に分析している。
 特に、経営幹部に対する痛烈な批判は容赦ない。
 実態調査についても、事実を淡々ととらえている。
 告発型のルポルタージュに比べて、簡潔で読みやすい。
 
 すき家は、いつの間にか吉野家を抜き、マクドナルドを抜き、外食チェーンでは日本一になった。
 ここまでの拡大路線で、現場に無理が重なったのだろう。
 第三者委員会に徹底した調査と分析を求め、その報告書をありのままに公開するゼンショーの姿勢に好感が持てる。
 これを機会に、名実ともに外食産業のリーダーとしての企業に脱皮できるかもしれないという印象を持った。
 
 
 

 
posted by 平野喜久 at 21:43| 愛知 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月24日

上海食肉事件:マクドナルドのブランドダメージ

 上海の食肉工場の消費期限偽装事件。
 衝撃的な映像とともに、話題は世界を駆け巡っている。

 発端は、上海の地元テレビ局が、上海福喜食品の工場から内部告発を受けて潜入取材した映像を放送したことによる。
 問題となった工場は、米食肉大手OSIグループの中国法人。
 日本でも、この工場から食肉を仕入れている企業があった。
 マクドナルド社とファミリーマート社。
 日本でこの工場と取引のあるのは、この2社だけだという。
 この工場の食材は日本だけではなく、世界に流通しており、その影響は計り知れない。

 当初は、消費期限切れの食肉を使用していた、という程度の情報だったが、詳細に追っていくと、すさまじい実態が映像には記録されていた。
 床に落ちたミンチ状の肉塊、チキンナゲット、ハンバーガーのパテを拾って、そのまま正規の加工ルートに戻してしまう場面。
 消費期限を半年以上も過ぎ、腐って変色してしまっている肉塊。
 取材者のインタビューに、従業員の一人が「死ぬことはないから大丈夫」と平気に答えている場面も収録されていた。
 潜入取材には見えず、むしろ堂々と見せびらかしているようだ。
 この報道を受けて、中国当局は責任者5人を拘束したという。
 なにやら、一連の流れがやらせのようにも見える。
 中国のマスコミに自由報道はあり得ず、当局の指導の下、取材と報道が行なわれているのは間違いない。
 今回の事件は、外資系企業をやり玉に挙げることが目的だったようだ。
  
 それにしても、映像の気持ち悪さはこの上ない。
 たとえ大手チェーンと言えども、どんな食材を使っているか分からず、危なくて手が出せない。
 むしろ、大量販売型のチェーン店ほど、危なっかしいという印象を持つ。
 マクドナルド社は、ブランドイメージの毀損は避けられない。
 ただでさえ、安物のイメージからの脱却に苦労している時期に、食の安全にまで不信感が広がってしまった。
 ブランドの立て直しは容易ではないだろう。

 いまや、私たちは、中国製品抜きでは日常生活が成り立たない状態になっている。
 衣料品や日用雑貨はもちろんだが、食材についてもチャイナフリーは難しい。

 

 中国のマスコミが、自国のマイナス情報を報道するのは異例。
 対象が、アメリカ資本の工場であったので、政府の規制を逃れて堂々と報道できたのではないかと言われている。
 
 にある米国系の食肉工場から期限切れの肉や床に落ちた肉が出荷されていたとのテレビ報道を受け、供給先の米大手外食チェーンなどが対応に追われている。

問題が指摘されたのは、米食肉大手OSIグループの中国法人、上海福喜食品の工場。地元テレビ局が21日、素手で期限切れの肉を扱ったり、床に落ちた肉を拾ったりしている従業員の姿を放送した。

この工場からはマクドナルド、スターバックス、KFCやピザハットを運営するヤム・ブランズなどの大手チェーンが肉を仕入れていた。

マクドナルドとヤム・ブランズは、同社からの仕入れを中止したと発表。ヤム・ブランズは同社の肉を使っていた商品を挙げ、一時的に品薄になる可能性があると説明した。スターバックスも、中国内の一部店舗で扱っていたメニューの販売を停止した。

OSIグループは報道を受けて「衝撃を受けている」との声明を発表した。「食品の安全性を損なう行為は一切容認しない」として調査に乗り出している。

上海の食品衛生当局は工場閉鎖を命じて調査を開始した。

中国では過去にも粉ミルク汚染など、食品の安全性を巡って重大な問題が発生している。
posted by 平野喜久 at 17:39| 愛知 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月12日

ジャストシステムは善意の第三者になれるか

 ベネッセの個人情報漏洩事件。
 ベネッセの情報管理の不備と同時に、個人情報が転売され続ける実態と、その個人情報を買い取って販促に利用する事業者の実態がクローズアップされた。

 今回の特徴は、流出した情報件数の多さと、それを利用した事業者が上場企業だったことだ。
 いままでの常識では、名簿業者間を流通する出所不明の個人情報は、表には出てこない悪質業者が利用するものと相場が決まっていた。
 ところが、ジャストシステムが名簿業者から大量のリストを買い取り、それにもとづいてDMを発送していたというのだから、驚きだ。
 出所不明の情報を利用して大量のDMを発送したら、どういうことになるかは、想像がつきそうなものだ。
 DMを受け取った客の中に不審に気づく人は必ずいる。
 もしも、個人情報の出所が危ない先だったら?
 こう考えると、非常にリスキーだ。

 そもそも、ジャストシステムは、DMを送るとき、「この送り先住所をどうやって入手したか」を相手に説明していたのだろうか。
 過去に接点がない人に、いきなりDMを送りつけることにまず問題がある。
 もちろん、違法ではないだろう。
 だが、禁止する法律がないだけであって、そういう販促手法が社会的に受け入れられているのとは全く違う。
 悪質業者だったら、どんなにクレームが来ようがかまわない。
 1%でも引っかかる客がいれば、そこで稼いで逃げてしまえばいい。
 だが、上場企業が無責任なやり逃げ商法はできないだろう。
 ジャストシステムが、「違法ではない」という一点だけでこの問題を乗り越えようとするのは、あまりにも問題が多すぎる。
 
 ジャストシステムは、コメントを公表している。
 その一部に次のような部分があった。
ーーーーーーーーーーーーーー
 当社は、事業活動の中でご登録いただいたお客様にダイレクトメールをお送りする場合や、 外部の事業者に依頼して発送する場合等がありますが、データベースを購入してダイレクトメールを発送する場合には、 その外部事業者との間で当該個人情報は、適法かつ公正に入手したものであることを条件とした契約を締結しております。 今回、文献社からデータを購入するに際しても、同一の条件が含まれる契約を締結した上で、データを入手致しました。
ーーーーーーーーーーーーーー
 不正な情報ではないと文献社と契約して購入した、と言っている。
 これは、客を納得させられるコメントか。
 いくら、こんな契約を結んだところで、問題が起きたときに責任逃れをするための形式上の確認事項に過ぎない。
 そもそも、正当に取得され、合法に流通している個人情報などというものがありうるのか。
 しかも、「通信教育の対象となりそうな小中学生の家庭の情報」という、ジャストシステムにとってまことに都合のいい情報が、利用制限なしで正当に流通しているということ自体、まずありえないと考えるのが常識ではないか。
 そんな情報はあるはずがない、とジャストシステムも分かっていたはず。
 それでも、盗品をつかまされた善意の第三者になりすまそうとするか。
 あやふやなところは名簿業者に責任を転嫁して、果実だけいただこうとする姿勢は、受け入れられるものではない。

 通信教育事業者向けに作られたような個人情報リストが出回っているとすれば、その量と質から、ベネッセが出所ではないかと思いいたっても不思議ではない。
 同じ業界の人間なら、まず、それを考えるだろう。
 ジャストシステムも、ベネッセの顧客情報の可能性に気づきながら購入したのではないか。
 むしろ、その可能性に気づいたからこそ高額の対価を払って名簿を購入したのかもしれない。

 ジャストシステムに対する不審は2点。
 過去に接点のない客に、相手が希望していないDMをいきなり送り付けたこと。
 出所不明の個人情報を購入してビジネスに利用したこと。

 ジャストシステムは、「担当者がデータの入手経路について文献社から十分な回答を得ないまま契約していたことが社内調査で判明した」とのコメントも発表している。
 ジャストシステムが購入した個人情報は、257万件。
 1件10円が相場だとしたら、購入金額は2570万円。
 とても、担当者の個人判断で決済できる出費ではない。
 金額の大きさ、経営へのダメージの大きさ、社会的影響の大きさ、すべてにおいて、担当者の責任で済ませられるレベルを超えている。


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2014年07月10日

ベネッセ情報漏洩:個人情報の売買を禁止せよ

 ベネッセの個人情報漏洩事件。
 通信教育サービスなどを利用している子どもや保護者の名前や住所などの個人情報、およそ760万件が外部に流出したことを確認、流出した個人情報は最大2070万件に上る可能性があると発表した。
 原田社長は「情報が漏洩したのは私が社長に就任する以前のこと」と発言し、自身の処分については否定。
 問題解決後に前社長の福島保副会長と最高情報責任者を務める明田英治取締役が引責辞任すると説明した。
 銀行口座とか学業成績とかセンシティブな情報は含んでいないので、金銭的な補償はしない方針だという。
 漏洩の原因は、社外の人間によるもので、漏洩時期は2013年末との見解を示している。

 今回の情報漏洩は、ベネッセとは別の通信教育業者からDMが届いた客からの問い合わせで発覚したらしい。
 別の通信教育業者とは、一太郎で有名なジャストシステム社。
 ジャストシステム社は、名簿業者から顧客リストを手に入れたという。
 ベネッセから漏洩した個人情報が、名簿業者間を転売され、ジャストシステム社に渡ったということだ。

6月21日 原田社長就任
6月26日 顧客から漏えいを指摘する問い合わせが殺到
6月28日 社内に緊急対策本部を設置
6月30日 経済産業省と警察に相談
7月07日 特定のデータベースから何らかの形で外部にお客様情報が持ち出されていたことが判明
7月09日 全容解明後に副会長と担当役員が引責辞任することを決定

 問題発覚からの立ち上がりは迅速だった。
 これは、発覚が原田社長が就任直後だったことが幸いした。
 情報漏洩したのは、社長就任前であり、責任を負う立場にないと表明できる。
 だから、これほど迅速に対応できたのだろう。
 これが、社長就任後の事件だったら、情報公開と処分発表までこれほどのスピードではできなかったかもしれない。
 人は、自分に責が及ばない案件だったら、いくらでも果敢に取り組めるのだ。

 大量の個人情報漏洩事件は後を絶たない。
 最初に個人情報の漏洩が裁判で争われたのは、宇治市事例。
 被害者の7名が賠償請求の裁判を起こし、1人当たり1万5千円の賠償を命じる判決となった。
 情報漏洩の賠償はこれが目安になるものと思われた。
 ところが、その後に大企業が起こした情報漏洩は、規模が違った。
 2003年に起きたローソンの情報漏洩の時は、500円の商品券を贈ることで決着させた。
 それ以来、500円というのが一つの相場になり、ヤフーBBの漏洩時も金券500円で済ませることになる。
 その後、情報漏洩の規模は拡大し続け、金銭補償は企業経営そのものを揺るがしかねない事態が予想されるようになった。
 それで、一律の金銭補償はしないのが当たり前になっていく。
 一部に賠償請求があった場合は、個別案件として対応するという方針だ。
 今回も、流出規模があまりにも大きく、金銭補償はしないことを早々と表明した。
 しかし、社長の記者会見は、誠実な謝罪よりも、保身が目立った。
 犯人は社外、社長就任前なので責任なし、金銭補償しない。
 ここだけをきっちり伝えるために開いたような会見に見える。

 事件を精査し、今後の体制をきっちりさせた後、謝罪文の送付で対応するようだ。
 顧客に納得のできる対応ができるかどうかで、企業の信用ブランドが決まる。

 ジャストシステム社には、責任はないのか。
 業者から情報を購入した善意の第三者で済ますのだろうか。
 これほどの情報であれば、その出所に疑問を抱いて当たり前だろう。
 たとえ業者から正規の手続きで購入した情報であろうとも、それが不正に取得された情報である場合は、購入した者も、罰せられる仕組みは作れないものか。
 更に徹底するのであれば、個人情報を売買すること自体を法律で禁止すべきではないのか。


2003年   56万件 ローソン
2004年.  452万件 ソフトバンクBB
2006年.  400万件 KDDI
2006年.  400万件 富士ゼロックスシステムサービス
2006年   96万件 三菱東京UFJ銀行
2006年.  538万件 日産自動車
2010年.  174万件 サミーネットワークス
2011年   7700万件 ソニープレイステーションネットワーク
2011年   2460万件 ソニーオンラインエンタテインメント
2011年.    100万件 ソニーピクチャーズ
2011年.    350万件 ソニーミュージッククーポン
2011年.  130万件 セガヨーロッパ
2013年.   3万件 2ちゃんねる
2013年.  290万件 アドビシステムズ
2014年 2070万件 ベネッセコーポレーション
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2014年04月28日

正常化バイアスによる誤報の連続:韓国旅客船沈没事故

 韓国旅客船沈没事故、未だ行方不明者114人。
 救出作業は難航を極めている。

 同時に、この事件の実態が少しずつ解明されてきている。
 今回の事件の特徴の1つに、誤情報があまりにも多かったことだ。
 「全員無事救出」
 「潜水士が船内に潜入成功」
 「船内の生存者からメールが届いた」
 「生存確認者リストが公開された」
 いろんな報道がされたが、誤情報が多かった。

 最初の誤情報は、「全員無事救出」というもの。
 これはどこから発信された情報なのか、ということが検証されている。
 高校を訪れた警官が、「マスコミの速報によると、全員無事に救出されたらしい」と伝えたところから始まる。
 高校側は、その情報を保護者と、教育庁に報告。
 教育庁がマスコミに伝え、マスコミが教育庁の公式声明として大きく報道した。
 問題は、最初の警官は、どこの速報を見たのか、ということだが、ここが分からないらしい。
 いまのところ、全員無事の速報を最初に流したメディアは見つかっていない。
 もしかしたら、警官の聞き間違いか認識違いから始まっているのかもしれない。
 それが、「こうあってほしい」という方向にバイアスがかかって伝わり続け、最後には「全員無事」という公式声明にまで発展してしまったのだろう。
 デマが簡単に広がってしまう過程が手に取るようにわかる。

 驚くべきは、乗客の安否という最も重要な情報なのに、誰も裏取りをせずに、そのまま伝えてしまっていること。
 「こうあってほしい」というバイアスがかかると、私たちは、いとも簡単に自分に都合のいい情報に飛びつき疑うことを忘れてしまう。
 こういう心理傾向を正常化バイアスという。

 この誤報については、単に情報が間違っていました、という程度で済んでいない。
 各マスコミがこの誤情報を大きく報じたために、救出の初動が遅れたらしい。
 ある漁船は救助に向かっていたが、全員無事の報道で引き返してしまった。
 のちに多くの乗客が船内に取り残されていることが分かって、現場に急行した時には、すでに船は船首だけ残して水没していたという。

 この正常化バイアスは、緊急時の行動を鈍らせてしまう効果として知られている。



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2014年04月23日

滋賀建設業協会BCP策定:全国初

 昨年度、監修者としてお手伝いをさせていただいた滋賀県建設業協会のBCPが完成し、本部幹部会で正式承認となった。
 滋賀産業新聞でもさっそく取り上げられた。
「全国初の建協『BCP』」
「琵琶湖西岸帯地震想定し策定」

 滋賀県建設業協会では、建設業という大きな社会的使命を担う団体として、災害時にいち早く活動できる体制を作ることを目的に、BCPの策定に乗り出した。
 昨年7月にプロジェクトチームを立ち上げ、月1回のペースで会合を開き、約半年で完成させた。

 このBCPで一番苦労したのは、協会本部、各支部、行政という3者の連携が不明確だったことだ。
 指揮命令系統を確定しようとしても、様々なケースが考えられるので、一概に決められない。
 こうなると、その時になってみないとどうなるか分からないということになってしまう。
 実際に、いままでも小規模の大雨や洪水の被害が発生した時には、状況を見ながら臨機応変で対応してきたという。
 これでは、BCPにならない。
 
 また、建設業協会と行政との間には災害時の協定が結ばれている。
 行政からの要請があった場合は、直ちに道路啓開などの応急活動を行うという協定だ。
 行政と言っても、いろんな行政とかかわる。
 国、県、市町村。
 行政が全体で統一的な行動をしてくれればいいが、それぞれが別個に動き、協会に指示を出してくる。
 それで、こちらの対応も様々なケースに分かれて一概に決められなくなってしまうのだ。
 行政との協定も、個別に結んでいるので、国との協定と県との協定では内容が違う。
 ということは、どこから要請を受けたかによって、こちらの対応を変えなくてはならなくなるということ。
 もうこうなると、BCPとしては混乱の極み。
 この問題をクリアにするのが最大の課題だと気づくのにだいぶ時間がかかった。

 行政からの要請パターンをケース分けし、それぞれ協会としての対応方法を取り決めるということにした。
 そうすることで、いままで「様々なケースがある」といって混沌としていた指揮命令系統がすっきり整理できるようになった。
 これで、誰が判断し、指示をだし、責任を持つのかがはっきりするようになった。
 いままで、もやもやしていたものが、すっきり晴れて見通しがよくなった。
 これだけでも、今回のBCPの取り組みは成功だったと言える。

 今回策定したBCPは、もちろん完成形ではない。
 協会本部と支部を合わせた全体の枠組みを明確にしただけ。
 ここから、個別の行動計画を作っていかなければ、実効性のあるものになっていかない。
 解決すべき課題は、まだほかにたくさんありそうだ。
 BCPは取り組めば取り組むほど課題が出てくるのが普通。
 今後は、今回の基本BCPをもとに、個別の行動計画を作っていくことになりそうだ。


 

  
 
posted by 平野喜久 at 11:10| 愛知 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月20日

韓国客船沈没事故:政府対応の不備

 韓国の旅客船転覆沈没事故、5日目を迎え、ようやく船内にダイバーが潜り、遺体の搬出が始まった。
 クレーン船が動員されたが、生存者の有無が確認できないうちに船体を動かすと、内部のエアポケットが移動して生存者の身に異変が生じる恐れあり、として、船体を動かさずに潜水救助に全力を挙げている。
 
 今回の事故は、日本だからこれだけ報道されているのかと思えばそうではない。
 世界中で注目されているようだ。
 海外のテレビニュースの報道を見てみると、ドイツでも、アメリカでも、トップニュースは韓国の転覆事故だった。
 それだけ、異常な事故と見られているということだろう。

 今回の事故では、3つの問題がある。
 1つは、事故の発生原因。
 2つは、転覆までの避難行動。
 3つは、転覆してからの救助活動。

 ここでは、転覆してからの救助活動を取り上げよう。
 まず、私たちが報道で感じるのが、最初の4日間は救助活動がほとんど進展していないことだ。
 生存の可能性のほとんどなくなった5日目になってようやく捜索活動が始まったという印象。
 「なぜ、もっと早くできないのか」との思いは強い。
 現地にいる家族の人たちの苛立ちは相当なようで、救助隊員への抗議や八つ当たりはひどくなる一方だ。
 ただ報道でこの事件に接しているだけの私たちでさえ、ちっとも進展しない事態に歯がゆい思いがするのだから、家族の人たちは気も狂わんばかりの思いだろう。

 どうして、私たちは歯がゆい思いがするのだろう。
 それは、いったい救助活動は何をしているのかがさっぱりわからないからだ。
 情報がほとんど発信されていないのだ。
 だから、いま何をしているのか、これから何をしようとしているのかが分からず、外見では何もせずに眺めているだけのように見えてしまう。
 そのことに、みんなが苛立っているのだ。
 確かに、今回の救助は、難解を極める。
 韓国政府でなかったとしても、簡単にはできないだろう。
 だが、情報発信することで、救助活動の内容がみんなに見えるようになる。
 誰が総指揮をとっているのか。
 どのような救出戦略を考えているのか。
 現地では誰がどのように動いているのか。
 これらが見えれば、私たちは苛立ちを覚えることはない。

 ところが、今回の救出活動では、これらの情報がほとんど発信されていない。
 これは、ただ単に情報発信を怠っているということではなく、実質的な救助活動が本当にできていないのかもしれない。
 というのは、時々政府から発表される情報があるが、それらがことごとく不正確だったり、間違いだったりするからだ。
 当初、360人の生存を確認との情報が流れた。
 だが、それは後に全くのでたらめであることが判明。

 救助活動の途中では、ダイバー555人、救難ヘリ121機を動員という情報が流れた。
 だが、これも誤情報と判明。
 そもそも、ヘリが121機も現場に集中したらそれだけで大混乱だ。
 それに、ヘリばかり集めて何をしようとしているのか分からない。
 
 3日目には、「潜水隊員が船内侵入に成功した」「船内に空気の注入を開始した」との情報が流れた。
 だが、これも誤情報だった。
 
 これらの情報がどこから発せられているのか不明ながら、政府筋から出ているのは確かなようだ。
 救助の遅れを非難される中で、苦し紛れにこのような情報が飛び出してしまったということだろう。
 つまり、救援側への非難を和らげるために、気休めのように不確かな情報を発してしまったのだ。
 それらが誤情報であることはすぐにばれる。
 それで、ますます救援側への不信感が増幅し、批判が高まる。
 この悪循環が続いた。

 さて、今回の救援活動はどこが主導権を握って、誰が責任をもって指示しているのか。
 ここが全く分からない。
 主導権を握っているのは、大統領を中心とする青瓦台か。
 軍隊か。
 海上保安部か。
 警察か。
 全く分からない。
 もしかしたら、どこが主導権を握るのかが決まっていないのではないか。
 だから、現場に多くの人が参集していながら、みな傍観するばかりで、誰も主体的に行動しない状況ができてしまう。
 誰も責任が取れないからだ。
 救出戦略を練る人もいない。
 救出方法を決定して、覚悟を決めて指示を出す人もいない。
 大統領は、閣議で「人命の救出を最優先に全力を尽くさなくてはいけない」と誰でも言える一般論を述べているだけだった。 
 彼女は、現場の海を視察し、家族が待機する体育館を見舞った。
 だが、これも家族の心を落ち着かせるどころか、却って苛立たせることになった。
 「こんなところに顔を出す暇があったら、ちゃんと救助活動を進めろ」
 「大統領が来たら、現場の責任者が対応せねばならず、却って活動が遅れる」

 同じような情景は、私たちは3年前に目の当たりにした。
 福島原発事故での対応だ。
 事故対応で、誰が主導権を握って責任をもって対処しているのか全く分からなかった。
 政府か、保安院か、東電か。
 それぞれが別個に責任回避的なことを言い、統一的な行動ができていなかった。
 結果として、メルトダウンと、放射漏れ事故を引き起こすに至った。

 この救助の遅れは、後の検証で、厳しく問われることになるに違いない。
 
 
 


 
 
 
 
 
posted by 平野喜久 at 18:44| 愛知 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | リスクマネジメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする